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新宿歌舞伎町で夜と朝が混在する29時。繫華街の様々なお客さんの人生を、ほっこりお味噌汁で癒す『29時の朝ごはん~味噌汁屋あさげ~』

  • 2024.6.28
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味噌汁は、様々な食材と相性が良く、手軽に栄養を摂れる伝統的な日本食。赤味噌、白味噌、合わせ味噌、麦味噌など、好みに合わせて使う味噌も様々。だしにはカツオ、昆布、いりこなどが使われ、具材も何百通りもある。言ってみれば、人の数だけ、好みの味噌汁が存在するともいえる。

『29時の朝ごはん~味噌汁屋あさげ~』(佐倉イサミ/KADOKAWA)に登場する味噌汁も、非常にバラエティに富んでいる。このお店は20歳の姉・アリスと高校生の妹・うららが経営しており、営業時間は朝5時から8時の3時間だけ。提供されるのは日替わりの味噌汁とおにぎり(またはご飯)の定食のみで、シンプルながらも日替わりの味噌汁は多彩で、毎日通う常連客も多いようだ。

姉妹で営む朝だけの味噌汁屋というイメージからは、ハートフルなグルメマンガを想像しがちだが、実際はそうではない。店のある場所は新宿区歌舞伎町で、訪れる客もバラエティに富んでいる。ナンバー1キャバ嬢、ゲイバーのママ、ヤクザ、夜間保育園で働く保育士、自らの体を売る女性、地下アイドルなど、様々な背景を持つ人々が集まり、それぞれの人生模様が描かれる。

また、タイトルにある「29時」は開店時間の午前5時、「あさげ」は朝食を指している。看板には「朝ごはんあります」と書いてあるものの、歌舞伎町で夜通し働く人たちにとっては仕事終わりの〆ご飯としても利用されている。午前5時という時間帯は、歌舞伎町では朝と夜の終わりが混在する時間なのだと、あさげの客を見ていると実感する。

本作では、毎回様々な客が訪れる。第一話であさげを訪れたのが、新人ホストの聖夜。山形から上京したばかりの聖夜は、最初こそ味噌汁を「ダサい」と思っていたが、何度か通ううちに聖夜本人だけでなく、アリスとの関係にも変化が生じていく。

この作品はほとんどが1話完結型だが、どれも一筋縄ではいかない。歌舞伎町の街の光と闇が感じられる展開に胸が締め付けられる思いがするが、登場人物たちの生き様には逞しさを感じる。虚勢だとしても、歌舞伎町で生きると決めた人間特有の逞しさだ。しかし、誰もが味噌汁屋あさげにいるときは、素の姿に戻り、味噌汁を前にして日常の疲れを癒している。あさげは歌舞伎町で生きる人たちの心の支えなのだ。

そんな彼らを支える姉妹も、歌舞伎町の住人だ。真面目な姉と明るい妹は、あさげの厨房でお客様と向き合うことで自分を律している。ただ、姉妹も心に傷と秘めた思いがある。その思いに触れた瞬間、姉妹を抱きしめたくなる思いに駆られる。

物語が進むにつれ、姉妹の生い立ちや歌舞伎町で店を開く理由が明らかになっていく。楽しいことばかりではない展開もあるが、深い物語に引き込まれ、最後まで離れられなくなることだろう。

文=ネゴト/ すぎゆう

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