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「ドイツだったら結婚もできるし、一緒にいられる」──同性婚ができることの真価【私たちのパートナーシップ Vol.3・後編】

  • 2024.6.28

僕らのライフセーバー、みっちゃんの存在

アパレルブランド「オフサイトスタジオ(offsait studio)」をともに運営し、今年7月に結婚するTakuji(左)とOnur(右)。
アパレルブランド「オフサイトスタジオ(offsait studio)」をともに運営し、今年7月に結婚するTakuji(左)とOnur(右)。

VOGUE(以下、V) お二人が京都からベルリンに移住しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

Takuji 僕と、小野さんと、犬のみっちゃんの三人での“生活”を大切にするためです。付き合ってから自然と仕事も一緒にするようになり、二人で自営業をしていると、仕事と生活が完全に一体化していて、仕事の占める割合が9割。というのも、2017年にゲストハウスをオープンしてから、20年にコロナ禍になったのをきっかけに自分たちもゲストハウスに住むようになりました。そして宿泊機能は残したまま、一階を改築してオフサイトスタジオの店舗にしたので、ますます仕事と生活の境目がなく……。でも、2021年12月にみっちゃんが僕らのところに来てくれたおかげで、朝と夜に散歩へ行くようになり生活のリズムができて、初めて暮らしのあり方を意識するようになりました。みっちゃんは僕らのライフセーバーです。

そして2023年ごろになるとゲストハウスのお客さんも戻り始め、そのときにこの先どうしていきたいかを二人で話し合ったところ、「仕事の前に三人での生活を大事にすること」を今はプライオリティをおきたいと。それから2023年6月にゲストハウスを閉め、アパレルブランドは1年間お休みをし、ドイツに引っ越すことにしました。

“普通”に結婚できることが嬉しい

二人のライフセーバー、みっちゃん。
二人のライフセーバー、みっちゃん。

V 素敵で大きな決断ですね。

Takuji 7月1日に僕たちは結婚するんです。

V おめでとうございます!

Takuji ありがとうございます。国籍が違うため、一緒にいるためにはビザの問題が出てきます。就労ビザがあればいいですが、例えばコロナに感染し長期間就労できなくなるなど不測の事態によっては、ビザが切れてしまうかも知れません。また、今思い返すと、コロナが終わりかけていた2023年ごろは、今まで突っ走ってきた分、燃え尽き症候群になっていたと思うんです。そのときに、もしもメンタルヘルスのために彼が休みたいと思っても、ビザを継続させるために休めないという可能性が出てくる。そう考えたときに、ドイツだったら結婚もできるし、一緒にいられる。理由は他にもありますが、そこが一番大きかったです。

Onur 異性同士のカップルだったら、一緒にいるために結婚することができ、ビザの心配は必要ないと思います。でも、私たちにはその選択肢がなかったので、ベルリンで暮らすことが現実的でした。

Takuji 二人とも結婚願望はなかったのですが、実際にすると決まると、やっぱり嬉しいですね。結婚自体が嬉しいと言うよりも、普通に結婚できることが嬉しい。日本だとできないし、“ 同性婚”って特別な感じ。ドイツでは結婚するために役所へ行き、同性でも異性でも同じ書類を書く。それが普通に認められて、合法的に滞在できるのが良いですね。

差別はダメ──広がる当たり前の共通認識

Photo_ Marika
Photo: Marika

V 日本のこうした構造的差別が早くなくなって欲しいです。

Takuji ドイツで結婚するために、婚姻具備証明書を日本の法務局に申し込みに行き、結婚する相手の性別や名前を記載しないといけなかったのですが、日本は国として同性婚を認めていないから証明書を発行できないと言われてしまいました。どうしたらいいんですかと尋ねたら、同じ内容で独身証明書なら出せると。その後ネットで調べてみると、過去に僕と同じような経験をされた方がいたみたいで、独身証明書でいけたと書いてありました。そういう違いは、理不尽だなって思いました……。

V ドイツで結婚したら、日本の在留資格などは降りるのでしょうか?

Onur 片方が日本人の場合は降りないんです。同性婚が認められている国の二人だったら、法律で認めないといけないルールがあり在留資格がでます。しかし異性同性関係なく、フルタイムでは働けないなどの就労制限があるようですが。

Takuji ドイツは?

Onur 大丈夫。Takujiはドイツで普通に働ける。

Takuji 日本では家探しも大変やったね。男性二人だと断られることが多かった。

Onur ベルリンは性別を理由に断られることはない。差別はダメだから。

V 「差別はダメ」という共通認識が、すごく真っ当……。

Takuji 当たり前のことなんですけどね。

選択肢がある社会、ない社会

Photo_ Marika
Photo: Marika

V 結婚という選択を通して、自分たちの中で変わったことはありますか?

Onur やっぱり安心感が強まった気がします。僕たちという一体感を持った存在が、これからも続いていくような。

Takuji そうやね。僕たちの関係性に変わりはないけれど、三人家族であるという感覚が強くなった。あと、「ハズバンド(夫)」と紹介できるのもすごい嬉しい!

Onur もしも日本にも婚姻の平等があったら、多くの人がその選択から選ぶと思うんです。

Takuji そして選択肢があることで、トランスでもゲイでも、特別感がなくなると思う。みんなの中にその認識があれば、わざわざ説明する必要もない。まだ日本では夫や彼氏を紹介するのに躊躇する場面があるかと思いますが、それもなくなると思います。

Onur そうですね。みんな何も大きくは変わらないという日が来る。ドイツに住んでいると、LGBTQ+がより可視化されているのを感じます。レストランやコーヒーショップで働くトランスジェンダー女性がいたり、ゲイやレズビアンのカップルが手を繋いで歩いていたり、公園にいけば子連れのカップルもよく見かけます。そのことに対して、誰も特別視していない。日本では場所によっては、僕たちも視線を感じることがあります。もしかしたらドイツでも小さな町に行けばまだ保守的なのかもしれませんが、変わってきていると思います。

3人家族のベルリンライフ

Photo_ Marika
Photo: Marika

V 生活のスタイルが大きく変わり、ベルリンではどのように過ごされていますか。

Takuji ベルリンは公園がたくさんあるので、みっちゃんと三人で散歩したり、芝生に寝っ転がったり。日が暮れる頃には、川辺に行って夕日を見たり。普通のことだけど。土曜日はファーマーズマーケットに野菜を買いに行き料理してます。日本にいたころは仕事ばかりしていたので、食事は早く済ませるために宅配食。ファーマーズマーケットがあっても行かなかったな……。今は生活の時間を有意義に過ごせるようになりました。

Onur 毎日2時間散歩しています。あと、夜の11時とかに近くのバーに行って友達と飲みにいくようにもなりました。

Takuji 日本ではお酒も飲まなかった。酔っ払いに行くというより、友達とちょっと話しにいく感じ。時間の流れがゆっくりしています。

Onur 長いこと日本に住んでいたので、恋しくもありますが、今は新しい発見やインスピレーションがあり、自然で多様なこの街を心地良く感じています。もしかしたらいつかまた日本に戻ることもあるかもしれません。日本は便利だし、なんでもちゃんと機能するしね(笑)。

Takuji そうやね。生きやすい街はベルリン、生活のしやすさは日本って感じですね。

Photo_ Shahin Campos
Photo: Shahin Campos

V 新しいジャーニーが始まったばかりですが、今どんなことにワクワクしていますか。

Takuji 初めて仕事と生活が切り離されたこの暮らしをしっかり楽しみたい。仕事の前に、この三人での生活が基盤にあるということを大切にし、これからの変化にワクワクしています。今、小野さんは会社員で、僕も今後就職したりして、オフサイトスタジオはオンラインで再開しつつ、もしかしたら店舗を作るかもしれないしまだ未知数。それがすごく楽しみです。

Onur ベルリンと日本を拠点に、新しい場所で、新しい方法でオフサイトスタジオをどうリクリエイトしていくかを考えると、とても胸が高鳴ります。そして、みっちゃんと一緒に電車に乗っていろんな場所に行けるので、家族3人でいく旅行も楽しみです。

Photos: Courtesy of Takuji & Onur Text: Mina Oba Editor: Mayumi Numao

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