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これからも表現が私を自由にしてくれる。バレエダンサーから看護師へ。生きやすい場所へ向かう今の心境

  • 2024.6.28
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ーー医療の現場に携わる若手を取材したいという思いが、ようやく叶いました。デジタルでも繋がり続けられるこの時代に、対面でしっかりお話が聞けること、嬉しく思います。

こよみさん:まさか自分にインタビューということで、初めはびっくりしました。でも、今の仕事場では自己表現できる場所がなく、何が出来るか模索していたので、こうして自分が記事になることも表現のひとつになったらいいなという思いで、私でよければと思いました。

ーーこよみさんはバレエダンサー時代が長かったとお聞きしています。今は看護師のお仕事をされていますが、10代、20代を振り返って、やはりバレエが最も大事なもの?

こよみさん:そうですね。取材を受けるにあたって、もう一度振り返るために、自分のバレエ歴を書き出してみたんです。近所にあったバレエ教室でバレエを習い始めたのが7歳の時です。東京のバレエ団で怪我をして引退した24歳まで、いろいろな場所で途切れなく踊っていました。

バレエ
7歳から始めたバレエ。

バレエの競争社会で登り詰めた10代から20代。 怪我や病気にかかり続けても楽しかった

こよみさん:小学校6年生の時「もう少し真剣にやりたいな」と思い、自宅から1時間のところにある有名な大阪のバレエスクールに変えたことは転機でした。いじめがある噂も聞きましたが「バレエをしに行くんだからどうでもいい」と周りは見えないくらい没頭していましたね。

一方、だんだんバレエスクールを中心とした生活になって、家に帰るのが夜中の12時をまわる日もあり、朝も起きられなくなったんです。中学では、不登校気味にもなりました。
しんどい気持ちも全部バレエにぶつけていたかもしれません。

中学1年の頃に初めて大会で4位をとってから、入賞するようになりました。中学3年生の時「ユースアメリカグランプリ」大会本戦にニューヨークで出場し、18歳の時に「NBAバレエコンクール」コンテンポラリー部門で1位を取りました。

中学生までは怪我などせず、純粋にバレエを楽しんでいました。けれども、初めて怪我をした16歳の時から疲労骨折など怪我のループが始まって、大変な日々が始まりました。17歳の冬に初めて手術を受けて、1日8時間くらいかけてリハビリしていたんですが、その後もなんとか復帰して、バレエを続けていましたね。

ーーどんどん結果を出して、踊りたい思いはあるのに、辛かったですね。その頃、将来は海外でも踊る未来を描いていましたか?

こよみさん:はい。頭の中ではそんな自分を思い浮かべていましたが、怪我が治らなくって。
高校にはバレエ推薦で入学し、高校1年生の冬にイギリスのロイヤル・バレエスクールに留学もしました。せっかく留学したのに、そこでも怪我でほぼ踊れず見学ばかりで、気持ち的にもしんどかったです。

20歳でドイツ、22歳でスイスなど海外でのチャンスもありましたが、ビザや怪我によりうまくいかず、帰国して東京のバレエ団に入団しました。
実はその間、怪我の他にも心や体に不調を抱えながら続けていたんです。

ーー肉体的、精神的にしんどいことがあってもそんなに続けたのは、やっぱり「好き」だからこそだったのでしょうね。

きっかけはネット検索。ケアに携わり人を支える仕事へ

ーーバレエ一筋だったこよみさんですが、将来の仕事のことを考え始めたターニングポイントは何歳だったのでしょう。

こよみさん:自分の場合、20歳くらいだったと思います。19歳の時に単位制の高校に入り直し、卒業は22歳だったんですが、すごくまっさらな気持ちで「自分はバレエ以外だったらどんな職業に向いているのかな」と思って、ネット検索してみたんです。

ーーネット検索ですか。そこで、バレエを続けることは選ばなかったんですね。

こよみさん:自信がなかったんです。やっぱり、成功するのはひと握りの世界やし。私は病院で看護師さんに怪我でお世話になって、入院の経験もあったので、医療には興味を持っていました。そこから3ヶ月、本気で勉強をして看護学校の試験に合格しました。

ーーネットがきっかけでも、人を支える仕事に行き着いたことに驚きます。過去の怪我や病気も考慮して選んだと伺っていますが、今のリアルなお仕事の状況はどうですか。

こよみさん:今は週4日勤務で、病院ではなく、地域のデイサービスに通っています。初めは病院務めもしていたのですが、内科系に配属されたことが希望と合わなくて。私が本当にやりたかったのはスポーツ外科だったんです。

ーー看護師さんというと病院で働いているイメージが真っ先に思い浮かびますが、そのような現場なのですね。配属の希望も、これまでのバレエや怪我の経験が生きていると感じました。

こよみさん:仕事では、高齢者の方のサポートをしています。デイサービスにはお風呂に入りに来る目的で来る方も多いので、まず、いらした方の健康チェックをします。採血や点滴とおいったような大きな医療行為はしないけれど、看護師の観察力が必要となります。高齢者の方が、ドクターがいなくてもご自宅で健康的に暮らすにはどうしたらいいのかという視点が基本的に必要です。そして、介護している家族のサポートも仕事のひとつです。

バレエ
週4日、病院ではなく地域のデイサービスで看護師として働いている。

ーー高齢者の方々の直接的な支えになるお仕事ですね。

こよみさん:そうですね。でも、今はパートで、給与面では安定していないので「変えたい」という気持ちが大きくなってきています。職場は人間関係がいいので続けられないこともないのですが。

ーーこのままでも維持できそうだけど、現状は変えたいということですね。誰しも次に行く時は何らかの後押しが必要ではありますね。

こよみさん:今の職場では正社員の枠が埋まっていて、正社員になることが難しいので悩んでいます。ですが、仕事を欠勤していないで続けられていることは自分で自分を褒められる部分なんじゃないかとも思います。本当は副業でなにかしたい思いもあります。でも本業が看護師で、他に何が務まるのかと。頭の中は「どうしよう」でいっぱいです。

ーー夜勤の看護師さんも大変ですが、副業で看護師さんという肉体労働と掛け持ちするのは、どんなに体力がある人でもきついと思います。

こよみさん:こうして表に出ていると元気そうに見えている私ですが、お休みの日にぷっつり切れてしまうこともあります。元気でない時は何もかも放棄して寝続けてしまうことも。「今日は大丈夫かも」という日は、朝起きて、ちょっと朝食を準備して、昼にはお買い物に行って、帰宅して料理する。そんな普通のことができていれば「偉い」と思うようにしています。

生きづらいなら、自分が生きやすい場所へ逃げてもいい。

ーーこよみさんが仕事の自分から離れる時のリフレッシュは?

こよみさん: 最近気がついたのですが、やっぱり表現することがリフレッシュにもなっているんですね。元気になれるんです。今、踊る機会は特にはありませんが、写真を撮られることや動画に映っている自分を見ることは好きです。

ーー動画で表現することも気分転換の一つに。デジタルネイティブならではの発想でもあり、こよみさんの強みなのかもしれませんね。

こよみさん:出勤日、休日の朝から帰宅後までの食生活のルーティーンを自分のために動画で記録・編集してみるなどもチャレンジしています。

こよみさん
こよみさんにとって、表現することがリフレッシュにもなっている。

ーー仕事と同じくプライベートでも変わっていく自分を楽しんでほしいと思います。これから叶えたい夢や、なりたい自分像はありますか?

こよみさん:そうですね......。次の仕事も悩んでいるので、今はまだ夢を選ぶのは難しいですね。
でも「自分をどうするか」ということなら、自由がほしい。自由になりたいです。自分が幸せになることに罪悪感を抱いてしまっているので、そんな自分に羽をつけてのびのびと生きていきたいです。31歳の誕生日に宣言した目標は「自分が幸せになる選択をしながら生きる」ということでした。

ーー自分がしんどい時、自己表現が心の支えになっていたことも伝わりました。今後も何らかの形で表現することを続けたいですか?

こよみさん:何らかの形で続けたいです。「転職」という形では厳しいと思いますが、華やかなドレスを着るモデルはずっと夢でした。オーディションを過去にも受けたことはありましたが、レッスンを受けなければならず、費用が高額なので諦めました。今は挑戦する予定はないですが、チャンスは探っています。

ーー最後に、こよみさんの下の世代で生きづらさを感じている子へ、ご自身の経験をふまえてアドバイスやメッセージを送ってください。

こよみさん:「逃げてもいい」ということですかね。不登校の子や自ら死を選ぶ子など、多いなと感じています。私も不登校の経験があり、親子で悩みましたが、親の理解もあって「学校に行かなくてもいいや」という選択ができました。
病院で働くことを辞める選択をした時にも「希望が通らなかったので辞めます」とはっきりと言いました。
自分に合う場所となかなか巡り合えないこともありますが、「サボる」と「逃げる」は別だと思うので。
言い換えると、いたくない場所にはいなくていい。絶対どこかには、しっくりくる場所があるから大丈夫、と伝えたいです。

取材後記

今は置かれた現場で十分花を咲かせていたこよみさん。これからの場所は、バレエの舞台でも、医療・看護の現場でもない、外の広い世界にも可能性を感じました。

取材のタイミングで、家族が不調に陥った際もサポート側に周り、自分の心身も不調になりながら、ケアの仕事にも通い続け、三方向で人の健康を支えなければならない場面もこなしていた姿が心に残りました。

医療・看護で人を支える方が、仕事場で表に出せない部分で辛い時があることは、現場に従事していない私たちも理解を深めたいものです。

自分を強く持っていれば、形を変えてずっと表現し続けられること。個性を発揮することが応援されるこの時代に、どんな形でも仕事と両立しながら表現して生きていきたい若者を後押ししてくれる先輩像でした。

自分のケアも大事に、これからも表現を拠り所に自由な選択をしていけるよう、エールを送らせていただきました。

Profile : こよみさん

1993年生まれ。兵庫県出身。関西在住。7歳からクラシックバレエを始め、全国コンクールで上位入賞や名門ロイヤルバレエスクールの留学経験を経て、24歳まで国内外でプロとして活動。怪我をきっかけに引退し看護師免許を取得。自分にとっての幸せとは何か日々模索中。生きやすいライフスタイルを発信していきたい。好きなものはディズニー。

腰塚安菜

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代から一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会で「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員を6年間務めた。 2016年よりSDGs、ESD、教育、文化多様性などをテーマにメディアに寄稿。2018年に気候変動に関する国際会議COP24を現地取材。2021年以降はアフターコロナの健康や働き方、生活をテーマとした執筆に転向。次の海外取材復活を夢に、地域文化や韓国語・フランス語を学習中。コロナ後から少しずつ始めたヨガ歴は約3年。

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