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夫婦の問題と私の問題の線引きは? 『1122 いいふうふ』4〜5話

  • 2024.6.28

渡辺ペコによる同名漫画が原作のドラマ『1122 いいふうふ』の配信が、Prime Videoでスタートした。主人公は、セックスレスで子どもがいない結婚7年目の仲良し夫婦・相原一子(高畑充希)と二也(岡田将生)。2人は円満な夫婦関係を継続するために不倫を公認する“婚外恋愛許可制”を選択する。第4話、5話では、“公認不倫”の限界を感じた2人が臨む夫婦の再構築が描かれる。

セックスレス解決の糸口が見つかった相原夫婦

結婚までの道のりや結婚式のhow toは巷(ちまた)に溢れているのに、どうして誰も夫婦運営のやり方については教えてくれないのだろう。“めでたしめでたし”のその先がリアルに描かれる本作では、今回の2話分で、相原夫婦も柏木夫婦もその在り方がどんどん変化していく。

1年間の互いへの感謝とねぎらいを伝えるためこれまで大切にしてきた誕生日を、それぞれ別の人と過ごした相原夫婦。不倫相手である柏木美月(西野七瀬)とのラストデートで関係を清算しようとしたところ、「他の人とセックスしないで欲しい」という呪縛と共に局部を刺されて負傷する二也(岡田)と、その裏で女性用風俗セラピスト・池端礼(吉野北人)と肌を重ね快楽に溺れる一子(高畑)のコントラストは鮮烈だ。

「ブレまくりで変だよね? 夫婦なのにさ」とは、その後、一子が泣きながら礼に漏らす一言だが、生活を共にする夫婦だからこそ、日々ブレることもあれば、むしろ、変化していくことが求められるのではないだろうか。そして、誰しも経年変化していく中で、変わりゆく個人が一緒にいれば、ブレるのが当然の流れだ。“夫婦だから”って常に同じ歩幅で歩めるわけではないし、夫婦になっただけでろくに言葉も交わさず、同じ方向を目指せるわけでは決してない。

そして、ほぼ初対面に近しい礼に、一子は自身の問題の本質を見事に言い当てられる。「普通にすごい嫌だったんじゃない? 旦那さんに恋人ができたの」と。この礼の言葉によって、一子は自身の痛みを自覚し、ようやく認めてあげることができた。意地とプライドで見て見ぬふりし続けてきた自分のあまりにシンプルな本音を見つめ直すことこそが、セックスレスのようなパーソナルでデリケートな問題の解決の第一歩につながるのだろう。

自分から見えている相手だけが全てではない

夫婦間で素直に話し合ってみるように促す礼に、「今さら遅いよ」と、さも取り返しもつかないかのように言い返す一子だったが、ここにもまた、“夫婦たるもの、ブレることなく、迷いもなく安定しているもの”という思い込みが潜んでいるように思える。

誰しも親しくなればなるほど、自分に見えている相手の姿だけが全てではなく、属するコミュニティーによって様々な表情があることを忘れてしまいがちだ。柏木志朗(高良健吾)から美月への視線がまさにそうで、自身にとって都合のいい妻であり母親であるという役割でしか彼女のことを見ていない。

定期的に査定があるような会社での上司と従業員の関係でもあるまいし、家庭内で人間性や個人そのものを見てもらえず、働きぶりだけで一方的に評価されるのはあまりに切ない。

しかし、なれ合いというのは怖いもので、志朗ほど極端ではなくとも、多かれ少なかれそんな都合の良い解釈は日常に転がっている。二也が一子に見ていたであろう、マイペースで率直でたくましく、いろんなことを面白がれるという彼女の特徴は、実は上手く立ち回れなかった二也に向けられた、励ましと思いやりだったことに、二也は後々気付くのではないか。嫉妬には無縁だと思い込んでいた二也は、礼と一緒にいる一子を目撃するなり、一瞬にして表情が曇り、心を閉ざしてしまった。一緒に過ごす時間の長さだけで、相手の全てをわかった気にならないことを、私たちはどこかで意識した方がいいのかもしれない。

“婚外恋愛”に対するリアクションから見えるもの

さて、相手の意外なリアクションが引き出されたのは、互いに別の相手と関係を持ったことが白日の下にさらされた時だ。

一子は二也の負傷の本当の理由を知った時に、そんな目に遭った夫に対して情けなさやみっともなさを感じたのではなく、自身に責任を感じたのか、おいおいと泣き出した。二也が受けた制裁は本来自分も受けるべきはずのものだったのに、彼一人に背負わせてしまったと思ったのかもしれない。

それに対して、一子が女性用風俗を利用していたことを知るなり、二也の顔には軽蔑の表情があからさまに出る。突然登場した一子のレーシーな下着に胸騒ぎを覚え、自分が手にしている“婚外恋愛許可制”は当然ながら一子にも認められているものであることに思い至って、急に焦り始めた二也。もし一子が肌を重ねた相手が、自分と同じく普通に恋愛して好きになった相手であれば、彼は拒絶することなく、その事実を受け入れたのだろうか。

不器用な二也の婚外恋愛の末の痛手に対して、「夫婦2人の問題なのに、私だけ向き合わないで、おとやん一人に押し付けて、結局そんな痛い思いさせちゃった」と言える一子が、女性用風俗のことを二也にとがめられると、「これは私の問題で、おとやんに責められる筋合いないと思う」と言いのけてしまうのもまた興味深い。

夫婦公認の不倫関係が成り立つ一方で、礼とは、二也には内緒の割り切った関係で別物、ということなのだろうか。一子は、礼との関係について、自分たち夫婦とは全く切り離された世界だと完全に線引きしており、それが夫に知られるはずはないと、どこかで油断もあったのか。美月との思い出の場所である生け花教室に二也が通い続けることに、はっきりと嫌悪感を示した一子が、自分の風俗利用については頑(かたく)なに自身だけの問題だと閉ざしてしまうのも、都合が良いことのように思える。

本作がリアルなのは、“心や体が他の人を向いている時でも、夫婦関係をやめるってことは考えなかった”2人が、「何度だってやり直せばいい、そうやって自分たちの形を作っていけばいいんだ」と、持ち直せたその先まで描き切ろうとしているからだろう。やり直してはまた新たな壁にぶつかり、それでも容赦なく生活は続いていく。滑稽だが、美月に急所を刺された後、「死ねない!」と二也をふるいたたせたのは一子の存在であり、一子に礼との初めての逢瀬(おうせ)を中断させたのは、二也のぎっくり腰だった。

美談ではなくとも、当たり前に自分の生活の一部になり、時に自身のことよりも優先度高く互いに向き合ってきた夫婦生活の頼もしさに感謝しながら、その関係をメンテナンスし続けることがやはり大切なのだろう。

■佳香(かこ)のプロフィール
出版社勤務を経て、パラレルキャリアで兼業ライターに。映画・ドラマを中心に様々な媒体でエンタメ関連のコラム・インタビューを執筆中。 ビジネスメディアやフェムテック関連媒体でのインタビュー&執筆実績もあり。

■emma(絵馬)のプロフィール
福岡県出身。現在は大阪在住のイラストレーター&クリエイター。"変化を起こすトキメキ"をテーマにPOPなイラストを描いています。WEBサイト、ノベルティーグッズ、イベントロゴ、動画などでイラストを提供中。趣味は映画、ドラマ、アニメ、ミュージカルなど鑑賞に偏りがち。

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