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「救急車を呼んでこの園、大丈夫?って思われたら大変じゃない」苦しんでいる子どもがいるのに、外聞ばかり気にする園長

  • 2024.6.27
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大勢の子どもたちを預かる保育園。そこで働く保育士さんの苦労は、一度でも子育てを経験した人であれば容易に想像がつく。

あるいは子育ての経験がなくとも、その仕事がどれだけ大変かは想像に難くない。間近で子どもたちの成長が見られるのは確かなやりがいを感じられるだろう。しかし一挙一動の予測がつかない幼児との日々は、毎日上へ下への大騒ぎである。

そんな中でもスタッフ一丸となり、子どもたちや保護者が安心して過ごせる場を作る。大多数の保育園や幼稚園という場所は、それを大前提として日々運営されるはずだ。しかし本当にごくわずかだが、悲しいことにそうではない場合も存在する。

本来なら率先して理想の園作りを行うべき園長が、無責任な振る舞いばかりを繰り返す――そんな現場で子どもたちや保護者のために奮闘する保育士の物語を描いたのが、『保育園トラブル モラハラ園長と闘います』(たぷりく/KADOKAWA)だ。

主人公は私立ののゆき保育園に勤める保育士・新見はる。2歳児クラスの担任を務めているが、かわいい子どもたちに元気をもらう一方で、毎日園ではさまざまな出来事が起こる。

子どもたちのいざこざやトラブルであればまだいい方だ。時には園外から不審者が侵入してきたり、同僚保育士と保護者との間で小さな諍いが起こったり。

そんなさまざまな出来事の中で、はるを始めとした保育士たちは、少しずつ園を経営する園長に対する不信感を募らせていく。

資格こそ持っているものの、保育士としての経験に乏しい園長。運営上層部とのコネで現在の地位を獲得したため、保育士の要望にも耳を傾けず、あまつさえ子どもたちに対しても我関せずどころか、時には嫌悪感さえ見せる始末だ。

経営や外聞ばかり気にし、子どもたちや保護者のことを一切考慮しない。そんな独裁政治を続けるモラハラ園長の下で、それでも園を利用してくれる人たちのために奮闘する…はるを中心とする保育士たちの闘いの日々。

作品を通して伝わって来るのは、やはり保育士という仕事の大変さだ。しかしその大変さは、おそらく多くの読者が本来想定する大変さとは少し質が違う。

大人の思うままにならない子どもたちに振り回される大変さ。あるいはモンスターペアレントに接する大変さ。

通常想定するその苦労に加えて、本来であれば味方であるはずの園長の言動にストレスを抱える羽目になる、はるを始めとした保育士たちの葛藤や苦悩は、読者の我々が想像しただけでも思わず胃が痛くなってしまう。

本当なら、子どもたちだけに全身全霊で接していたい。それなのに、園内スタッフ(しかも上長)に気を遣い配慮して働くのは、まったくもって本意ではないはずだ。

園長との諍いの労力は、はっきり言えば無駄でしかない。それでも、大切な園児たちや保護者のために嫌味な園長と向き合う。そんな彼女たちに、同情と応援の念を抱きつつページをめくる読者も多いに違いない。

子どもたちに真摯に向き合う保育士の思いは、きちんと保護者にも伝わる。加えてそんな園長の振る舞いの違和感を、日々お迎えにくる保護者が見過ごすはずもない。

読者の立場でもはると同様、園長に対しさまざまなモヤモヤした感情を抱えてしまうが、ストーリーを追った結末に勧善懲悪で決着を迎える点は、本作における確かな救いだろう。

保育士という仕事において、我々には普段見えない角度での“大変さ”を描いた本作。実際にはこのようなことがないのが一番だが、時に現実にはフィクション以上の苦労が待ち受けることもある。

大変な仕事にも、やり甲斐と責任感を持って従事する。そんな保育士だけでなく他のさまざまな職業の人々にも「お疲れ様です」、そして「いつもありがとうございます」と、感謝と尊敬の念を抱く思いやりの大事さを教えてくれる、本書はそんな作品でもあるのかもしれない。

文=ネゴト/ 曽我美なつめ

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