1. トップ
  2. エンタメ
  3. ずっと観ていたい…柄本佑&佐々木蔵之介の“顔対決”から目が離せないワケ。NHK大河ドラマ『光る君へ』第25話考察レビュー

ずっと観ていたい…柄本佑&佐々木蔵之介の“顔対決”から目が離せないワケ。NHK大河ドラマ『光る君へ』第25話考察レビュー

  • 2024.6.27
  • 8948 views
『光る君へ』第25話より ©NHK

吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。大雨により鴨川の堤が決壊し大洪水に。道長は責任を取り、一条天皇に左大臣の辞表を提出するが受理されず…。そこへ宣孝がまひろと結婚することを直接伝えに来る。今回は、第25話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)
ーーーーーーーーーーー
【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『光る君へ』第25話より ©NHK
『光る君へ』第25話より ©NHK

越前にいるまひろ(吉高由里子)のもとに、宣孝(佐々木蔵之介)から頻繁に恋文が届くようになった。為時(岸谷五朗)の勧めもあり、まひろは1度都に戻って自分の身の振り方を考えることに。

【写真】まったく見飽きない…柄本佑ら名優たちの“顔面力”が堪能できる劇中写真。NHK大河ドラマ『光る君へ』劇中カット一覧

長旅を終え、都の屋敷に戻ったまひろを迎えるのは弟の惟規(高杉真宙)とその乳母・いと(信川清順)。まひろと為時が留守の間、いとには福丸(勢登健雄)という“いい人”ができていた。

福丸には妻がいるそうだが、たびたび屋敷を訪れては、いとの言うことをよく聞いた。従者である乙丸(矢部太郎)も越前からきぬ(蔵下穂波)という“いい人”を連れ帰り、家は一段と賑やかになる。

一方その頃、宮中では道長(柄本佑)が定子(高畑充希)を寵愛するあまり政が疎かになっている一条天皇(塩野瑛久)に頭を悩ませていた。道長は鴨川の堤の修繕許可を得ようとするが、一条天皇は急ぐに及ばずと一向に取り合おうとしない。

それから間もなく、道長が恐れていたように大雨で鴨川の堤が決壊。多くの民が命を落とし、家や田畑が失われた。まひろの屋敷も被害を受ける。責任を取り、左大臣の辞表を3度にわたって提出するが、一条天皇はいずれも受理しなかった。

そんな中、道長のもとに宣孝が山城守拝命のお礼にやってくる。そこでまひろと結婚する旨を伝えた宣孝。後日、道長からまひろの屋敷に祝いの品が届いた。

『光る君へ』第25話より ©NHK
『光る君へ』第25話より ©NHK

長徳4(998)年。新年の挨拶に清涼殿を訪れた安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)は道長にしばらく凶事が続くと伝えた。その予言通り、大雨により鴨川の堤が決壊して大洪水が起きた「光る君へ」第25回。不吉な予感が漂う中、ひたすらに明るかったのが宣孝だ。

まひろの帰京を祝う席で、流行歌である催馬楽の「河口」を披露した宣孝。〈関の荒垣や 守れども はれ 守れども 出でて我寝ぬや〉。男女が監視の目を逃れ、情交に及ぶ場面を想起させる一節を唄いながら、まひろにアイコンタクトを取る宣孝は完全なスケベ親父だった。

その熱を帯びた視線に気づいた惟規の苦々しい顔といったら。そりゃあ、親戚のおじさんが姉のことを急に女として見始めたらそういう顔にもなるよね、と思わず同情してしまった。

そして今回のハイライトは、なんといっても恋の火花散る宣孝と道長の対峙シーンだろう。

「おかげさまで為時の娘も夫を持てることになりました」とさり気なく報告する宣孝の白々しさよ。それでも道長が顔色を変えないと見るや「実は私なのでございます。為時の娘の夫にございます」と宣孝は嬉々として告げた。見開いた目はキラキラ、盛り上がった頬はいつにも増してテカテカしている。究極の煽り顔だ。

当然、ことの次第を知ったまひろは激怒。「何故そのようなことを…」と問いただすと、宣孝はサラッと「好きだからだ、お前のことが」と告げる。

まひろは不意打ちをくらい、何も言えなくなってしまった。普段はおちゃらけているのに、ふと真面目な顔で愛を伝える。これが、百戦錬磨の男の高度な恋愛テクニックだ。ラストでまひろに覆いかぶさる宣孝からは大人の色気が立ち上る。

宣孝の妻も妾もいるのに未だ恋愛市場で幅を利かせる好色漢としての厭らしさと、飄々と時代を生き抜いてきた軌跡を感じさせる渋み。それらを緩急ある芝居で見せる佐々木蔵之介。なるほど、他には考えられない唯一無二のキャスティングだ。

『光る君へ』第25話より ©NHK
『光る君へ』第25話より ©NHK

一方、突如まひろの結婚報告を受けた道長を演じる柄本佑の芝居も圧巻だった「おかげさまで為時の娘も夫を持てることになりました」と言う宣孝の言葉に「それはめでたいことであった」と返すまでにかかった時間は約1秒。それ以上、間があっては“意味”が出てしまう。衝撃を受けつつも、一瞬にして気持ちを立て直す道長。

しかし、さすがにその夫が宣孝という事実には戸惑ったようだ。なにせ、まひろは道長の妾になることを拒んだのだから。それなのになぜ、誰かの正妻ではなく宣孝の妾の立場に収まったのか。

それはひとえに宣孝には燃え上がるような恋心はなく、嫉妬しなくても済むからである。だけど、道長が他の女性を愛することには耐えられなかった。それだけ道長のことを思っている証拠だが、おそらく道長本人は理解しきれていないであろう。道長は乾いた笑いをこぼした後、「それは何より」とだけ呟いた。

その日は自身の自宅に帰らず、内裏で仕事に没頭した道長。まひろのことを思い浮かべながら、物思いに耽る表情が秀逸だった。道長はどこかで、まひろがずっと自分だけを好きでいてくれると期待していたのではないだろうか。だけど、それはそれで申し訳ないような気持ちになるのだろう。

宣孝のようにわざわざ牽制しにくる恐れ知らずでたくましい男性がまひろの夫になってくれて、ホッとしたような、寂しいような“元カレ顔”で道長は微笑んだ。

そんな道長にとって精一杯の虚勢がまひろへのお届け物に表れている。たんまりとした祝いの品に忍ばせた手紙は道長の字ではなかった。かつてまひろへの愛を綴った文字で結婚を祝う気にはなれなかったのだろう。さすがは男心も女心も心得ている恋愛ドラマの名手・大石静と、唸らざるを得ない回となった。

(文・苫とり子)

元記事で読む
の記事をもっとみる