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日本人初の快挙を成し遂げた23歳! アーチェリー野田紗月インタビュー

  • 2024.6.27

70メートル先にある標的は直径122cmの円。その的の中心を狙って矢を放つ瞬間は、息をのむ緊張感に包まれる。アーチェリーは、繊細なスキルと高い技術に加えて、メンタルの強さが求められる競技だ。

日本のエースアーチャーとして注目を集めている野田紗月選手は、若干23歳。柔らかな笑顔が印象的だが、ひとたび的を見据え弓を構えると、その力強く凛々しい姿に目を奪われる。

日本人初の快挙、世界選手権3位でパリオリンピック出場へ

2023年に迎えたドイツ・ベルリンでの世界選手権大会では、女子リカーブ個人で銅メダルを獲得し日本人選手では初となる快挙を達成、見事パリ五輪出場を射止めた。

「世界選手権で上位3位内に入ればオリンピック出場、ということは知っていました。上位3位の枠を争う試合で『あと1回勝てば残れる。絶対、勝とう!』と思ってました。相手は韓国と強豪だったので、自分は挑戦者という感覚でした。

試合前の練習では、感覚はいいけどそんなに矢は当たっていなかったんです。怪しいな、と思ったのですが、いざ試合になると集中するので、どんどん矢も集まって3試合目に勝てて3位になれた。『おお、いけた!』みたいな感じでした」

オリンピック出場に、親戚一同大騒ぎ

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決して萎縮することなく挑んだ試合で、人生初の五輪への切符を手にした。オリンピック出場が決まると、「親戚一同大騒ぎ」だったという。日本アーチェリー女子のホープとなった彼女がこの競技と出会ったのは、高校の部活紹介。

中学はソフトテニス部だったことから、高校でもテニス部に入部しようと考えていた。しかし、アーチェリー部の先輩が風船に向けて矢を放つ姿を目にした時、一気に心を奪われた。

「ひとつも外さず全部風船が割れて、『かっこいい!』って。それでアーチェリー部に入ろうと決めました。最初は初心者用の弓で練習するので、早く先輩みたいにかっこいい弓を使いたくて頑張っていました。自分が好きな道具を揃えることができてから、ようやく本格的に始めることできました」

出身校である福岡県立折尾高等学校のアーチェリー部は、毎年全国大会へ出場する強豪だった。「練習は厳しくはなかった」と振り返るが、実際は朝晩、休日も返上で、アーチェリーにのめり込んでいった。

オリンピックに出るとは夢にも思わなかった

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「最初は弓を引く力もないので、どんなに狙っても全然当たらず、思うように打てなかったんです。だから的に当たると嬉しくて、次は真ん中に当たるのが楽しくなって。どんどん突き詰めたくなってハマっていきました。高校のときは『楽しい』っていう気持ちが一番でした。ここまで長く続けるとは当時は思っていなかったですね(笑)。成長したいという思いはあったけど、オリンピックは視野にありませんでした」

高校3年のインターハイでは3位に入賞。山田秀明監督に誘われ、数々のオリンピック選手を輩出するアーチェリーの名門・近畿大学に進学し、その才能は開花する。順風満帆に見えるアーチェリーの道だが、挫折がなかったわけではない。

「大学2年の時、ナショナルチームの選考会に落ちたんです。7点差という、追いつける点数だったから、なおさら悔しかった。めちゃめちゃ練習していたのに落ちてしまって『練習しても落ちるのか』という感覚の一方で『まだ練習量が足りてなかったんだ』と思いました。いちから……じゃないですけど、さらに練習して、翌年の選考会ではナショナルチームに入ることができました。その後世界大会の選考会を1位通過できたとき、『もしかしたらオリンピックを目指せるかもしれない』と初めて意識しました」

1日8時間、矢を打ち続ける

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彼女の強さを支えているのはその練習量だ。「とにかく的に向かって打ち続ける」という日々。集中力を必要とする、気の遠くなるような練習だが、本人は「楽しいです」と笑顔を見せる。

「試合では1回の制限時間が3分なので、練習でも同じように3分間ずっと打って、矢を取りに行き、また3分打つ、と繰り返します。長くて1日8時間くらい、350~450は打っています。

コーチが打ち方の悪いところを指導してくれるので、1日の練習のなかでどんどん直していく。それを次の日も、また次の日も継続して打てるように練習します。何回も打つことで、打ち方が一定に保てるようになるんです」

目指すのは「ブレない、安定した体」

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自身が語る彼女の強みは「力強いシューティング」。170cmの長身を武器に、弓を引く強さは44ポンドと女子のなかでも重い。大学在学中に比べ、社会人アーチャーとなった現在の体は、さらに大きく、安定している。

「風で体がブレると打てないので、ブレない体づくりをしたくて、体を育てています。大会シーズンでない冬は、練習した後にトレーニングやランニングといった体づくりのメニューも加えます。筋力トレーニングでは、ダンベルなどを使って全身を鍛えたり、体幹トレーニングをやったりもします。

食事は、週に2〜3日のトレーニング日はタンパク質を摂るために鶏肉をメインに食べたりはしますけど、基本的にあまり気にしていないんです。朝ごはんは納豆とご飯、豆乳。自炊するときは夜2食分つくって、その日の夜と次の日の朝ごはんにします。好きなものを好きなだけ食べるので、食事に関するストレスはありません」

トレーニング後は特に体のリカバリーが欠かせない。その方法を尋ねてみた。

ルーティンは「毎日湯船に浸かる」&「8時間眠る」

「1日1回は必ず湯船に浸かること。どんなに遅く帰宅しても、欠かしたことはないです。湯船の中でマッサージして筋肉をほぐすと血流も良くなって、体も結構変わってきます。あとは爆睡(笑)です。毎日8時間くらいは寝ています。オフの日に何も予定がなければ、昼まで寝ていることもあります」

週に1度のオフは大事なリフレッシュタイム。その過ごし方を聞いてみると、23歳のフレッシュな素顔が見えてくる。

「家で音楽を聴いたり、大好きな漫画を読んだり。野球やバスケットボールも好きで、最近は『SLAM DUNK』の新装再編版を買いました。友だちともよく遊びにいきますよ。京都や難波、神戸に出かけたり、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)にも行きました!」

自分を高めていくために、笑顔は忘れない

直径わずか12.2cmの的の中心を狙うアーチェリーで必要なのは高い技術と集中力。その集中力はどのように養っているのだろうか。

「試合になると気づかないうちに自分にだけ集中しています。相手選手のこともあまり気にならないし、動揺もあまりしないかも。始めた頃はどうしても“勝ちたい”という欲があったけど、そういう自我も薄くなってきました。

試合前に気持ちを整えるために、音楽を聴いたり、グミを食べたりします。『UVERworld』が好きで、気持ちを上げたい時に聴くのは『IMPACT』。ヴォーカルのTAKUYA∞さんが毎日欠かさず10キロ走っていて、そのときの気持ちを歌詞にしている『PRAYING RUN』もずっと聴いています。

『全部やって確かめりゃいいだろう』という歌詞を聴くと、試合でどんなに風が強く吹いていても『やってみないと分からない!』って思えます」

天候にも左右されるアーチェリーの試合。大雨や強風でも実施されるため、運を味方につけることも必要?と尋ねると「考えたこともない」と話す。しかし、2つのお守りは、試合にも肌身離さず持っていく。

「地元・福岡で有名な勝負の神様、筥崎宮(はこざきぐう)の『必勝守』は、高校のときの副顧問の先生からいただきました。もうひとつは、“光の道”で有名な宮地嶽神社の『翔守』。自分が好きな青色で、今年一年大きく翔けめぐりますようにという願いが込めてあります」

そして、どんなに緊張感のある試合でも意識しているのが「笑顔でいる」こと。

「笑顔でいたら気持ちも上がるじゃないですか。沈んだ顔で気持ちが下がって、大事な場面で普段のパフォーマンスが出来なくなるより、ちゃんと笑顔をつくって自分の気持ちをどんどん上げていきたいんです。試合では、普段練習でやっていることをどれだけ出せるか、一番良いパフォーマンスができるかどうか。それだけを考えています」

練習とトレーニングで培った安定感のある肉体と、アスリートとしての経験によって育まれた精神力。積み上げてきた力をバネにして、この夏、パリの大舞台へ挑む。

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【野田紗月(のだ・さつき)】

2000年5月20日、福岡県に生まれる。福岡県立折尾高等学校、近畿大学を経て、2023年ミキハウス所属。全日本ターゲットアーチェリー選手権大会2022・2023優勝、世界アーチェリー選手権2023銅メダル。第19回アジア競技大会 混合リカーブ団体にて銀メダル獲得。

トップス¥6,050、パンツ¥14,300、シューズ参考商品/すべてアンダーアーマー

Photo:TAROH OKABE(SIGNO) Styling:AIMI MURATA Hair &Make:MISUZU MOGI

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