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読書欲&カレー欲を猛烈に刺激するミステリー小説第2弾! 太宰治、林芙美子、坂口安吾……文豪たちにちなんだ絶品カレーが古書にまつわる謎を解決

  • 2024.6.27
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ダ・ヴィンチWeb
『神保町・喫茶ソウセキ 真実は黒カレーのスパイスに』(柳瀬みちる/宝島社)

本とカレーの街、東京・神保町の片隅で、文豪をモチーフにした創作カレーを提供している「喫茶ソウセキ」。喫茶店ながらカレーの新名店として静かな人気を集めつつあるこの店が、ある日突然、投石されてガラスを割られる。どうやら某YouTuberの信者による仕業のようで……。

カレーに対して尋常ならざる偏愛を持つベストセラー作家・葉山と、「喫茶ソウセキ」の店主・千晴を主人公に、彼らがカレーと文学にまつわる謎を解き明かす古書×カレー×ミステリーの小説『神保町・喫茶ソウセキ 文豪カレーの謎解きレシピ』。その第2弾が、本作『神保町・喫茶ソウセキ 真実は黒カレーのスパイスに』(どちらも、柳瀬みちる/宝島社)だ。

今回もさまざまな事件に遭遇するのだが、その発端となるのは、アンチ葉山を標ぼうする文学系Vtuber、大辛シムロだ。シムロは葉山だけでなく、彼の行きつけの店ということで「喫茶ソウセキ」まで糾弾。その信者たちから数々の嫌がらせを受け、事態を収拾するため葉山と千晴はシムロ探しに立ち上がる——。

本シリーズの愉しさの1つ目は、連作短編のなかに毎回、カレー絡みの文学作品や文豪のエピソードが盛り込まれていることだ。本作では、太宰治の『正義と微笑』(第1話)と、林芙美子の『放浪記』(第2話)。盟友・太宰の自死のショックから薬物を常用するようになり、ついには「ライスカレー百人前(出前)事件」を起こした坂口安吾(第3話)。そして名探偵シャーロック・ホームズが解決した事件のひとつ「白銀号事件」に出てくる“カレー羊肉”こと、マトンのカレー煮(第4話)。

これらのビブリアにちなんだカレーを千晴が考案するというのが2つ目の愉しさだ。

天才作家でありながら人間としては問題だらけだった太宰治の二面性を表すかのようなカレーポットパイ。林芙美子の赤裸々な作家性をイメージした、ふわふわ卵のスープカレー。坂口安吾自身が作っていたスープストックをベースにした安吾作品を思わせる、辛みの効いた昭和レトロカレー。

作る描写も食べる描写も、千晴がレシピを解説するシーンも、カレー関連の部分は前作以上に詳細かつ、おいしそう。特に最後の第4話で創作するカレーは謎解き要素が絶妙に絡んでいて、ミステリー面でも興味を引っ張る。

千晴と葉山のコンビも、いよいよもって好調だ。熱狂的な葉山ファンから一転してアンチになった大辛シムロとの対決を皮切りに、林芙美子の直筆の原稿をめぐる騒動。さらに「喫茶ソウセキ」のカレーを転売する宅配専門店まで登場する。各話がそれぞれ独立していながらもつながっており、短編小説の軽妙さと長編小説の味わいの両方がある。これが本作の3つ目の愉しさだ。

SNSによる風評被害や転売トラブルなどの現代的な問題をはじめ、古書界にまん延する贋作ビジネス、さらに近現代日本社会の負の側面にも目を向けた構成が、物語に広がりを与えている。神保町という小さな街にひっそり佇む店のなかから、カレーと本を鍵として世界の広さ、歴史の深さを見据えている。

前作から3年待っただけある充実度。読書欲とカレー欲を、相変わらず、いや、さらに猛烈に刺激してくる。

文=皆川ちか

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