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「原作小説を読み込んで役を自分に落とし込んでいく」映画『朽ちないサクラ』安田顕の“役作りの秘訣”

  • 2024.6.27
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柚月裕子の同名小説を杉咲花主演で映画化した『朽ちないサクラ』。この映画に出演している安田顕さんにインタビュー。仕事との向き合い方、好きだった映画スターのお話なども伺いました。※サムネイル写真:(C)kaori saito
柚月裕子の同名小説を杉咲花主演で映画化した『朽ちないサクラ』。この映画に出演している安田顕さんにインタビュー。仕事との向き合い方、好きだった映画スターのお話なども伺いました。※サムネイル写真:(C)kaori saito

映画『朽ちないサクラ』は、県警に勤務するヒロインの森口泉(杉咲花)が、「親友が殺されたのは自分のせいかもしれない」と罪悪感を抱きながら、真犯人を突き止めようとするサスペンス作品です。

安田顕さんは、泉の上司・富樫隆幸役。彼女のことを気にかけながらも、どこかミステリアスで奥深い人物を演じています。そんな安田さんに、役柄、撮影時のエピソード、そして映画生活についてなどをインタビューしました。

『朽ちないサクラ』出演、安田顕さんにインタビュー


――まず富樫役について、依頼が来たときのこと、出演の決め手について教えてください。

安田顕さん(以下、安田):僕は出演依頼に対して、自分で出演可否を決めるということはしないんです。

常に信頼しているチームと一緒に動いているので、彼らがOKだと思った仕事ならば基本的にはやります。この映画もオファーをいただいた時点で「ありがとうございます。ぜひお願いします」という流れで出演が決まりました。

――安田さんが演じた富樫は、ヒロインの上司ですが、元公安警察という一面もあります。富樫はミステリアスな印象がありますが、どのように役作りをされましたか?

安田:まず原作小説を読みました。著者の柚月さんは富樫を丁寧に細かく描いていたので、富樫の仕草や森口泉目線で見た富樫のイメージなど、役作りに大いに役立ちましたね。

(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会
(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会


――原作から役の人物像を立ち上げていったんですね。

安田:そうですね。原作がある場合は必ず読むようにしています。原作に書かれた富樫を自分に取り入れて演技に生かしていくやり方が、僕にとっては役作りがしやすいんです。

――なるほど。原作にヒントがたくさん示されているということですか?

安田:僕の場合は、原作ありきです。映画は監督、プロデューサー、脚本家、そのほかのスタッフと役者によって1つの作品が仕上がっていくので、原作があっても別物という見方もあるでしょう。

でも原作ものは、その小説が面白くなかったら、映画も成り立ちませんから、とても重要だと思います。

それに小説の映画化作品の場合、原作ファンの方も楽しみにしていると思うので、原作で描かれているキャラクターを自分に落とし込んでいくのは僕にとって大切なことなのです。

長回しの緊張感がすごかった!

(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会
(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会


――『朽ちないサクラ』の富樫役は派手なアクションがあるわけではなく、ヒロインの森口と対峙したり、じっと何かを考えていたり、静かだけどすごみを感じさせる役でした。

とても難しい役ではないかと思ったのですが、撮影はいかがでしたか?

安田:長回しの撮影もありましたから、緊張感はありました。

1シーン撮り終わって、スタッフの方に「外で休憩してください」と言われて、外に出たらえずいちゃって……というのは嘘ですが(笑)、いい意味での緊張感はあったと思います。

――原監督とは役についてディスカッションはされましたか?

安田:監督とは常にコミュニケーションを取っていました。昨日行ったサウナの話から、撮影の段取りまで、さまざまな会話をしながら各シーンを構築していきました。

――撮影で印象に残っていることはありますか?

安田:被害者の母親を演じた藤田朋子さんとは初めてのお仕事だったので、お葬式シーンのリハーサルのときに「初めまして安田と申します」とあいさつをしたんです。

でも藤田さんは娘を亡くした母親として芝居に入り込んでいたので、ゆっくりあいさつをする余裕はありませんでした。

――撮影中はタイミングを図るのが難しそうですね。

安田:でも、藤田さんと僕は熱狂的なザ・ビートルズファンという共通点があり、お互いにそのことを知っていたので、藤田さんは目を真っ赤にしながら「撮影が終わったら話そうね」と言ってくださって。

そして撮影の後、藤田さんとビートルズの話で盛り上がりました。楽しかったですね。

俳優業は社会と自分をつないでいる唯一のもの

(C)kaori saito
(C)kaori saito


――安田さんに俳優のお仕事との向き合い方について伺いたいです。お芝居の魅力、演じる醍醐味(だいごみ)はどういうところにありますか?

安田:演技の醍醐味(だいごみ)ということとは、ずれているかもしれないのですが、僕にとっては俳優の仕事は社会とつながることができている唯一のものだと思っています。

これまでキャリアを積み重ねてきて思うのは、演技の仕事を今も続けていられることへのありがたさです。

だからこそ、1つひとつの仕事に真摯(しんし)に向き合おうと常に思いながら取り組んでいます。それから周囲への感謝も忘れません。

映画、ドラマ、舞台、いずれも多くのスタッフが関わっています。監督の演出、脚本家の書くセリフ、撮影監督、美術さん、衣装さん、そういう方々がいないと俳優は仕事ができません。それはいつも念頭に置いておこうと思っています。

(C)Kaori saito
(C)Kaori saito


――作品ごとにチームがあって、俳優もそのチームのひとりという意識でいらっしゃるんですね。

安田:そういう意識をしていないと、独りよがりになっちゃいますからね。

――将来的に俳優として、こうありたいという青写真はありますか?

安田:僕は常に転機が訪れていると考えています。『朽ちないサクラ』も転機のひとつだと思いますし、今後、作品に呼んでいただけるのなら、その現場ごとに自分のキャリアの転機が訪れると信じています。

そう考えた方が精神的にもいい状態で仕事に臨めるので。

でも、ここを見出しにしないでくださいね、「何カッコつけているんだ」と思われちゃうんで(笑)。

ジェニファー・コネリーとチラシ集めに夢中でした

(C)kaori saito
(C)kaori saito


――All Aboutでは取材した俳優さんに映画生活について伺っているのですが、普段、映画館で映画鑑賞はされますか?

安田:最近は行っていないです。子どもの頃は映画館へ行っていたんですけどね。

スティーブン・スピルバーグ監督の全盛期で『E.T.』は見ました。あとシルベスター・スタローンの『ロッキー』も見たかな。ただ映画館に通って見まくったというタイプではなかったです。

――でも『E.T.』『ロッキー』という大ヒット作をちゃんと見ていらっしゃる。

安田:僕は北海道の室蘭出身ですが、僕が住んでいたところは、当時、映画館が1つしかなかったので、上映されるのは全国公開のヒット作が多かったんです。

そうそう、映画雑誌の『ロードショー』(集英社)は買っていましたね。ジェニファー・コネリーが大好きだったので彼女のピンナップ目当てに(笑)。

映画好きというより、雑誌に出ているハリウッドスターを見るのが好きだったんです。あと、チラシを集めていました。

――チラシ集めは楽しいですよね。

安田:『ロードショー』の広告にチラシの通販があって、それを購入していました。印象に残っているチラシは、ウディ・アレン監督の『マンハッタン』。

モノクロで、ブルックリン側からマンハッタンをベンチで眺めている2人の人物の後ろ姿の写真でした。センスのいいデザインだったので今でも覚えています。

社会派のエンターテインメント映画としての面白さ

(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会
(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会


――では最後に、完成した映画を見た感想をお聞かせください。

安田:考えさせられる社会派の一面もあるのですが、エンターテインメント映画としても面白かったです。

原監督は撮影監督もやっていた方なので、やはり監督のクリエイターとして手腕が存分に楽しめる、お客さんを飽きさせない作品だと感じました。

表向きはサスペンスミステリーのくくりになるのかもしれませんが、僕はジャンルレスな作品だと感じましたね。映像も素晴らしいので、ぜひ劇場の大きなスクリーンで見ていただきたいです。

撮影・取材・文:斎藤香

安田顕(やすだ・けん)さんのプロフィール

1973年12月8日生まれ。北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバー。

数々の舞台、ドラマ、映画で活躍。主演映画は『俳優 亀岡拓次』(2015)『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(2018)『愛しのアイリーン』(2018)『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(2019)『私はいったい、何と闘っているのか』(2021)。近作は『とんび』『ラーゲリより愛を込めて』(いずれも2022)。最新の仕事として安田顕が企画・プロデュースする林遣都との二人芝居『死の笛』(2024年7月)がある。


『朽ちないサクラ』2024年6月21日(金)より全国ロードショー

(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会
(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会


愛知県平井市在住の女子大生がストーカーに殺された。実は警察が女子大生のストーカー被害届の受理を先延ばしにしていた事実が発覚。加えて事件があったとき、警察は慰安旅行に行っていたことが地元の新聞にスクープされる。

県警広報広聴課の森口泉(杉咲花)は、新聞記者の親友・千佳に慰安旅行のことを話したため、彼女が記事にしたと疑うが、彼女は認めなかった。千佳は身の潔白のために調査を開始する。しかし、彼女は何者かに殺されてしまう……。

原作:柚月裕子『朽ちないサクラ』(徳間文庫)
監督:原廣利
出演:杉咲花、萩原利久、森田想、坂東⺒之助、駿河太郎、遠藤雄弥、和田聰宏、藤田朋子、豊原功補、安田顕

(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会

文:斎藤 香(映画ガイド)

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