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米テキサス州、中絶禁止法の施行後に「新生児の死亡率が13%増加」していた

  • 2024.6.26
米テキサス州、中絶禁止法の施行後に「新生児の死亡率が13%増加」していた
米テキサス州、中絶禁止法の施行後に「新生児の死亡率が13%増加」していた / Credit: canva

米テキサス州の中絶禁止法により、新生児の死亡率が13%も増加していたことが明らかになりました。

米ジョンズ・ホプキンズ大学(JHU)はこのほど、2021年に同州で成立した妊娠中絶を禁止する法律が、新生児の死亡率にどのような影響を及ぼしているかを調査。

その結果、妊娠中にすでに先天異常を患っていることが判明していた胎児や、経済的に育児が難しい家庭も中絶を禁止されたせいで、新生児の死亡率が大幅に増加していたのです。

中絶禁止法は現在、テキサス州に続いて他の14州でも可決されたため、同じことが起こるのではないかと危惧されています。

研究の詳細は2024年6月24日付で医学雑誌『JAMA Pediatrics』に掲載されました。

目次

  • 先天異常あると分かっていても中絶は禁止
  • 新生児の死亡率は13%も増加!

先天異常あると分かっていても中絶は禁止

先天異常あると分かっていても中絶は禁止
先天異常あると分かっていても中絶は禁止 / Credit: canva

テキサス州では2021年9月、胎児の心拍が検出された時点で中絶を禁止する法律(テキサス州上院法案8:SB8)が施行されました。

これにより、以前は妊娠22週目まで中絶が許可されていましたが、妊娠5〜6週目以降の中絶が事実上不可能となっています。

しかも同州法は性的暴行や近親相姦による妊娠も例外としない全米で最も厳しい内容です。

民間人が中絶措置に関わった医療関係者らを訴えることもできます。

特に注目すべき点は、妊娠中に先天異常を持っていることが判明した胎児も例外ではないことです。

天性異常(または先天性疾患)は、胎児が出生前に発症する異常や疾患のことを指します。

先天異常に伴う中絶の話題では、ダウン症(染色体異常による知的障害や身体的な特徴の問題)がよくピックアップされますが、臓器の重篤な異常など出生後の生存が危ぶまれるケースもあります。またダウン症の場合も臓器の異常など多くの合併症を伴うことがあり、出生後の生存率に大きな影響を与える場合があり、中絶が選択されることがあります。

しかしテキサス州の法律では、生まれてすぐに命を落とす危険性が高いと判断された胎児でも、出産せざるを得ない状況が発生しているのです。

またこの法律は、出生後の養育が経済的に困難な低所得者層やシングルマザーも例外とはしていません。

それゆえに同州法が施行されて以来、新生児の死亡率に大きな変化が起こっていると推測されます。

そこで研究チームは今回、中絶禁止法が施行される以前と以後で、テキサス州の新生児の死亡率がどう変わったかを調査することにしました。

新生児の死亡率は13%も増加!

本調査では、2018年〜2022年におけるテキサス州の新生児死亡率を、中絶禁止法のない他の28州と比較しました。

データは生後28日以下の新生児と生後12カ月までの乳児を対象としています。

その結果、同州法が可決された翌年、テキサス州の新生児および乳児の死亡率は2021年の1985人から2022年には2240人と、約13%も増加していたのです。

これは驚くべき跳ね上がり方でした。

というのも、他の28州の死亡率は平均2%の増加に留まっていたからです。

またテキサス州では、先天異常を持つ新生児の数が以前に比べて23%も増加していました。

これも全国平均の3%減少と比べると著しい悪化を指し示しています。

ジョンズ・ホプキンス大学の公衆衛生学者で、研究主任のアリソン・ジェミル(Alison Gemmill)氏は「他の州ではこのような死亡率の増加は見られなかったため、これは明らかに中絶禁止法との密接な因果関係を物語っている」と話しています。

新生児の死亡率は13%も増加!
新生児の死亡率は13%も増加! / Credit: canva

加えて、女性の権利擁護団体・National Partnership for Women&Familiesのナン・ストラウス(Nan Strauss)氏は、このように問題点を指摘しました。

「先天異常に起因する新生児の死亡率の急増は、中絶禁止法の施行と決定的な関連性があります。

母親とその家族は、自らの子どもが生後数週間で亡くなってしまう可能性が高いことを知りながら、妊娠の後半の耐え難い時期を過ごさなければならないのです

それだけでなく、たとえ健康な赤ちゃんが生まれるとしても、性的暴行などの望まない妊娠や、養育が困難な低所得世帯、ひとり親などの家庭にも多大な悪影響を及ぼし、生後1年以内の乳児の死亡率が高まっていました。

このように中絶が不可能になったことで、各家庭の出産・養育にかかる医療費も高くなりますし、何より出産後にわが子を失った母親や家族の精神面に大きな傷を残すことが懸念されています。

テキサス州で施行された中絶禁止法は現在、他の14州でも施行されることとなりました。

そのため、ジェミル氏は「今後、同じことが他の州でも起こるかもしれない」と危惧しています。

実際にこうした流れから、2023年に妊娠20週目の女性が、人工妊娠中絶を受ける権利を求めてテキサス州当局を提訴しました。

彼女は胎児が重度の先天異常を診断された上に、このまま妊娠を続けることが自身の命も危険に晒すと主張しています。

しかしこの訴えを受けても、同州では今日に至るまで人工中絶が全面的に禁止されたままです。

ジェミル氏は今回の研究結果により、同法律の見直しや改善を訴える声が社会全体で高まることを願っています。

参考文献

Texas abortion ban linked to 13% increase in infant and newborn deaths
https://www.nbcnews.com/health/health-news/texas-abortion-ban-linked-rise-infant-newborn-deaths-rcna158375

元論文

Infant Deaths After Texas’ 2021 Ban on Abortion in Early Pregnancy
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/article-abstract/2819785

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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