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変わることも、変わらないことも、正解。自分の「幸せ」を信じて選んだ道 『9ボーダー』最終話

  • 2024.6.26
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19歳・29歳・39歳。節目の年齢を目前にした三姉妹が「LOVE」「LIFE」「LIMIT」の「3L」について悩み、葛藤し、それぞれの答えを見つける過程を描くヒューマンラブストーリー『9ボーダー』(TBS系)。最終話では、0でも1でもない中間の選択をすることが、現時点での正解だという考え方が示された。

将来を見据え、答えを出した三姉妹

なぜか漠然と、変わらなきゃいけない、と思う。このままなんてダメ、現状維持なんて意味がない、と焦っている。現代にはインターネットやSNSがあって、毎日、濁流のように情報が注ぎ込まれるからだろうか。がんばらなければ、何かしなければいけないと追い込まれているような感覚が消えない。

きっと、いまを生きる人たちはみんな、似たようなことを考えているはず。

でも、変わらなくったっていいのだ。そして、変わりたいと思うなら、変わることを選んでもいい。大切なのは、自分以外の他者への忖度(そんたく)や、世間一般的な“正解”のために自分を曲げないこと。自分はどうしたいのか、何がしたいのかを、問い続けることをやめないこと。

大庭七苗(川口春奈)をはじめ、年齢のボーダー上にいた姉の六月(木南晴夏)や妹の八海(畑芽育)、そしてコウタロウもとい芝田悠斗(松下洸平)たちも、それぞれの将来を見据え、答えを出した。それらは0でも1でもない、白でも黒でもない、中間の選択だった。

人によっては、どっちつかずで、ハッキリしていない、なんとも中途半端な道だと思うかもしれない。結局どちらを選ぶ勇気も覚悟もないから、妥協したのだと断じられてしまうかもしれない。

それでも、彼らは選んだ。変わること、そして、変わらないことを。それはどこか、市街地の再開発計画に立ち向かうべく、おおば湯を国の登録有形文化財として申請することで、伝統あるものを守った七苗たちの行動にも似ている。

バルの店主・辻本あつ子(YOU)も、再開発プロジェクトの説明会の場で口にしていた。「再開発そのものは、悪いことではないと思うんです。全部を変えてしまうんじゃなくて、残すところ、新しくするところ、両方あればいいなって。おおば湯さんのように」と。

必要なものは残し、変えたいと思ったところだけ変える。これからの時代の健やかな生き方には、そんな良いとこ取りのスタイルが合っている。

白でも黒でもない、グレーの選択をする意味

松嶋朔(井之脇海)からのプロポーズを断り、彼の退職の意思も受け入れた六月。二人はお互いを思い合っていたが、海外で仕事をすることが夢である朔の人生を六月は尊重し、いったんは離れることを選んだ。

「ニュージーランドには一緒に行けない。だったら結婚する意味なんてないし、このまま離れたほうがお互いのためだから」と六月が弁解するとおり、彼女の頭には、朔と結婚して一緒にニュージーランドに行くか、朔と結婚せず日本に残るか、0か1の選択肢しかない。

自分に懸命に言い聞かせているように見える六月に向けて、七苗は言う。「答えって、0か1かじゃないよ」と。「答えは無限にあって、一番良い形を一生懸命考える」と続ける七苗の言葉は、そのまま七苗自身にも語りかけられているように思える。

0でも1でもない、白でも黒でもない選択肢を選んでもいいと思い至った六月は、朔からの二度目のプロポーズに「間を考えない?」と持ちかける。彼女の提案は「0か1だけじゃない、その間。離れてても、付き合う。お互いの国を行き来する。数年後にどちらの国に住むか決める。籍だけ入れる、もしくは入れない」というものだった。

二人にとってのより良い形を探すため、その瞬間に合わせた幸せをつくりあげるため、中間にあるグレーの選択肢を追求する。時間も労力もかかるけれど、きっと二人にとって、これが幸せへの最適ルートなのだ。

七苗とコウタロウの新しい関係性

朔との関係を見直した六月だが、彼女はもう一つ示唆に富んだことを言っている。「幸せって、なに? 一人じゃさ、幸せになれない? 誰かと一緒にいるのが幸せ? でも誰かといても幸せになれなかったし、どうなるのが幸せなのかな」と。

この問いは、そのまま七苗とコウタロウの関係に投げかけられる。

七苗とコウタロウは、互いに歩む道を違えても、幸せになれると思い込もうとしている。それでも、どうしようもなく、日常のあらゆる瞬間にそれぞれの顔が浮かぶのを止められない。一緒に過ごした過去が、思い出になりきっていないのを自覚してしまう。

あつ子に「これだけは約束して。幸せになってね」と言われたコウタロウは、懸命に“悠斗”として生きようとしていた。それは元の家族への、そして、自分自身への“恩返し”のために。

しかし、彼もまた、自分にとっての幸せは何なのかを、掴みきれないでいたのだ。いや、本当は嫌というほど実感していたけれど、持ち前の優しさが蓋をしてしまっていた。最終的にコウタロウは、元婚約者から「そばにいるのが私でごめんね」と破談を言い渡され、七苗のいるおおば湯へ戻ってくる。

七苗とコウタロウはあらためて、出会い直した。これから二人は、新しい関係性を繋ぎ直していくのだろう。婚約者と破談になったとはいえ、コウタロウは芝田家との縁を切ることはしないはず。元の家族や、職場との関係を保持しながらも、良いとこ取りの新しい人生を重ねていくのかもしれない。

現時点での幸せを見つめ直し、自分らしく生きていくために、まずできること。それは、世間の尺度に合わせた幸せではなく、自分にとっての「幸せ」を仮定し、それを信じること。

白と黒の混じったグレーの選択肢を示してくれた、彼らの未来を想像しながら、幸せを見つめ続けたい。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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