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「幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻」が町田市立国際版画美術館で開催中

  • 2024.6.26

­こんにちは。フリーキュレーターのSEIJIです。価値観や表現方法が多様化しているアートの世界を、ニュースや展覧会、作家や作品に注目したコラムにしてお届けする「今どきのアート」。近頃、気になったのがコチラ!

惹きつける純粋な版画の世界!「幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻」が町田市立国際版画美術館で開催中。フラヌールたちは何を求め探していたのか。

出典:シティリビングWeb

芸術家は、ときに放浪し旅をしながら様々な情景や人々や自然との新鮮な体験や出会いを求めさまようことがあります。

今回の展覧会でスポットライトを浴びた「フラヌール」というフランス語の言葉には遊歩者という意味がありますが、その言葉が醸し出す美しい響きは、それだけで観る人を誘う魅力をもっていると感じました。

アナムネシスを喚起する作品150点の展示

版画という作品は、版画の元となる版(木や石あるいは金属の板にモチーフを彫ったり薬品で腐食させて版に凹凸をつけたりしたもの)に絵の具やインクなどを刷り込み、版にあてた紙や布地のメディアに転写してできた作品であり、版からメディアにその模様や意匠を転写することから、版と版画は「ときに鏡にたとえられる」ようです。

出典:シティリビングWeb

多賀新《三界》1977年

そして版画は、アーティストの抱く夢想と観る側の人の願望を如実に写しだし、版面と紙面の不可思議なモチーフや奇妙なフォルムは想像力を取り留めもなく揺さぶるのです。

普段から見慣れた日常という現実をも幻想の世界に変容させるアーティストたちの精神とテクニックは既成概念を揺さぶり、傍観する鑑賞者たちを異次元にへと誘っていきます。

本展は、企画協力に美術評論家の相馬俊樹氏をむかえ、幻想の力によってアナムネシスを喚起する作品150点が展示されています。

アナムネシス(想起)

アナムネシスという言葉はギリシア語で哲学の分野で遣われますが、生前にインプットされた記憶の回復を意味するものとされています。プラトン哲学ではイデアという言葉でその存在が説かれています。

出典:シティリビングWeb

菊池伶司《Observer 2》1968年

独自の世界をさまようフラヌールたちの作品は不可思議

独自の世界をさまよう〈フラヌール(遊歩者)〉ともいうべき版画家たちの作品は、過去や私たちの内に眠る原初的な記憶を呼び起こしながら現実世界の可能性、すなわち未来の姿をも浮かび上がらせる力を内奥に秘めた不可思議な存在なのです。

版画という鏡の世界を覗きこみながら作品のあいだを遊歩するうちに知らず知らずのうちに取り込まれていく世界は、「夢幻」と「現実」、「作品」と「私たち」、そして「芸術のための芸術」と「生のための芸術」などの境界がとけあう場に変幻していきます。

出典:シティリビングWeb

加藤清美《悲しみの島V》1997年

出展作家の特徴

出展作家の特徴は、それぞれの技法や表現方法によって鑑賞者が分かりやすい展示の工夫がなされています。

版に刻んだ線によって自然が内包する力を表出させた版画家たちとして、木村茂、木原康行、門坂流。

人間に内在する力を形態の変容と歪曲によって顕現させた版画家たちとして、パウル・ヴンダーリッヒ、ヨルク・シュマイサー、多賀新。

時間と空間の歪像ともいうべき世界によって、時空の無限性を形象化した版画家たちとして、星野美智子、エリック・デマジエール。

独自の神話体系ともいうべき世界観を有する版画家たちとして、エルンスト・フックス、藤川汎正、蒲地清爾。

言葉を着想源としながら夢幻の世界を紡ぐ版画家たちとして、小林ドンゲ、清原啓子、アンティエ・グメルス。

分身ともいえる版に死/生を刻み込んだ版画家たちとして、ホルスト・ヤンセン、菊池伶司。

などなど、多彩な特色をもったバリエーション豊富な作品を堪能できます。

出典:シティリビングWeb

小林ドンゲ《雨月物語より 浅茅が宿 その1》1963年

展覧会のポイント&イベント

今回の展覧会は、幻獣から身近な自然まで多様なテーマの幻想作品を展示することで、超自然的なものから人間の奥に潜むものまで幻想が生み出す様々な「力」を紹介。

さらに、作品の幻想世界と私たちの想像力が共鳴する創造的な鑑賞を体験できます。楽しそうなイベントにもぜひ参加してみては。

出典:シティリビングWeb

門坂流《縄文杉》2009年

プロムナードコンサート「音で誘う幻想的な廻廊へ」

2024年7月14日(日)13時から、15時から(各回30分程度)

演奏:岩谷明石(ヴァイオリン)、永易理恵(ピアノ)

会場:エントランスホール|参加無料

ワークショップ「幻想採集 コラージュで作るイメージの標本匣」

2024年8月24日(土)13時30分~16時

講師:池田俊彦(銅版画家)

会場:アトリエ|対象:中学・高校生|先着12名|参加費500円 ※事前申込制

学芸員からのひとこと

「今回の展示では、実に様々な幻想作品を紹介しています。ハッとするような美しさだけでなく、ときにドキッとさせる不気味さを持った版画も。いずれも私たちの世界の見かた・考えかたを揺さぶる「力」を持っています。展覧会場と作品世界を遊歩した後は、現実の世界が今までとは違って見えるかもしれません」(担当学芸員 藤村さん)。

出典:シティリビングWeb

会期は9月1日(日)まで。展覧会の詳細は下記のURLからご確認ください。

町田市立国際版画美術館

https://hanga-museum.jp/exhibition/index/2024-560

プロフィール/SEIJI(小太刀正史)

フリーキュレーター。MeDEL個人事務所主催。学芸員の目線から美術館の情報を発信する活動を始める。自身もオブジェ作家として活動歴あり。

OBJECT東京展入選 From A The art日本オブジェ部門佳作 日本文化デザイン会議

ETDA展参加など。

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