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トム ブラウンが打ち出す「完璧な未完成」。手仕事が生む美しさを称えて【2024-25年 秋冬クチュール速報】

  • 2024.6.25

トム ブラウンTHOM BROWNE)の2024-25年秋冬オートクチュールコレクションへの招待状は、天然モスリンのアトリエコートという形で届いた。背面にはブランドのロゴ、左前ポケットにはそれぞれの名前が筆記体で刺繍されていて、ゲストたちはショーに着てくるよう求められた。暦の上では夏に入り、夕方は暑い。しかし、その暑さをよそにしっかりとコートに身を包んで来場したゲストたちを見回すと、ブラウンが私たちの心に植え付ける、メゾンへの信仰心のようなものがうかがえた。

モスリンとは、クチュールのトワルやサンプルの製作に用いられる、梳毛糸を平織りにした薄手の綿布だ。その仮縫い用のモスリンを、ブラウンは今シーズンの題材にした。最上志向で、完璧主義。製作過程よりも完成形にこだわるデザイナーのあのブラウンがだ。「本当にこの方向で行くのか?と自問自答しました。私は完璧に仕上げるのが好きですしね」と彼はショー前日のプレビューで、題材選びを早まったと感じた瞬間もあったと認めた。

案の定、ランウェイに登場した48のルックはどれも「製作途中」にあるにもかかわらず、細部まで丹念に作られていた。ブレザーのラペルに手縫いされたしつけ糸から、42人の職人が11,000時間かけてビーズ刺繍を施した、多彩なゴールド調のループボタンのジャケットスカートまで、どこをとっても抜かりない仕上がりだ。

ルックを作るにあたって、ブラウンは6種類の重さのモスリンを技法別に使い分けた。薄手の布地は円形や帯状に裁断し、コートドレスのサイドやツイード地に縫い付け織り込み、厚手の生地は大胆に分解したテーラードピースに使用。透かし編みのニットカーディガンでさえも、モスリンを巻いたワイヤーでできている。ルックのカラーは会場となったパリ装飾美術館の石灰岩の壁とほぼ完全に一致し、モデルたちのヘアは古代の銅像を思わせる凝ったカール。手にしている刺繍見本を仮面代わりに顔にかざす演出も取り入れられ、未完成でありながら完璧に作り込まれたショーが繰り広げられた。

「機械ではなく、手仕事の美しさ」

トム ブラウンのショーには、幾重にも折り重なった意味が込められている。アスリートをモチーフにしたゴールドのバリオンステッチ、筋肉組織を紅いビーズで表現したビスチェドレス、金、銀、胴の3色で展開された刺繍ジャケット。目前に迫ったオリンピックを意識してなのか、今回はスポーツに結び付く要素が随所に盛り込まれていた。トップアスリートが競技を極めるように、クチュール職人もまた、技術を極める。AIの時代が始まった今、ブラウンの「機械ではなく、手仕事の美しさ」を称える姿勢は、ますます重みを増していくことだろう。

Text: Nicole Phelps Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.COM

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