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COCOON PRODUCTION 2024『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』 演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!

  • 2024.6.25
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演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、COCOON PRODUCTION 2024『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』をピックアップ。


不適切をものともせず、人間の悪意を描き出す

久々に、しっかり時間をとってロンドンで芝居見物してきた。英国演劇界における日本のプレゼンスといったら、かつてはニナガワ(蜷川幸雄)、いまジブリ。昨年は英国演劇の老舗ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが『となりのトトロ』を上演して大ヒットし再演が決まり、今春からは、なんと日本キャストによる日本語の『千と千尋の神隠し』が、ウエストエンドの大劇場で上演されている(8月24日まで)。初日を観に行ったら、満員の観客は大受けしてるし、各紙劇評も概ね好評で、こちらが戸惑うほどだった。十数年前に手塚治虫をテーマにした『TeZukA』というダンス作品を上演した際は、フランスやイタリアと違って英国では日本アニメの人気は今ひとつと聞いていたので、隔世の感だ。

もうひとつ顕著な傾向と感じたのが、俳優のキャスティングにおけるDEI(Diversity多様性、Equity公平性、Inclusion包括性)の浸透ぶり。肌の色、ジェンダー、障がいなどにより排除されることがないよう、かつ、それが適材適所であることを明快に示す姿勢が重視されている状況に接して、ふと、賛否が渦巻いた阿部サダヲ主演の『不適切にもほどがある』のことを思い出してしまった。現在のコンプライアンスのあり方を窮屈に感じている派にとっては絶好のガス抜きであり、意識改革への道のりの遠さを嘆く派にとっては、ジョークとして看過はできないドラマだった(私は後者です)。

そこへいくと、かつて阿部サダヲがタイトルロールを演じていた松尾スズキ作・演出の『ふくすけ』の露悪性は、価値観の違いや時代の流れになどおよそ影響を受けない、盤石の悪意が跋扈する傑作ピカレスクだ。頭部肥大で生まれたために、ものごころつくまで監禁されていたフクスケ(今回は岸井ゆきの)は、世間に出ると見世物小屋に売り飛ばされたり、新興宗教の教祖に祭り上げられたりしながら、社会への怒りと憎悪を増幅させてゆく。生き別れた彼の母マス(秋山菜津子)はメンタルを病み、地方から東京へ出奔すると、いつしか歌舞伎町の風俗業界のカリスマとなり、都知事選に立候補するハイテンションぶり。この危うい母と子の再会がどのような形で為されるかを思い返すだけで、脳が思考を拒否してくる。

今回はキャストが刷新され、阿部サダヲがフクスケで金儲けを企む小悪党コオロギ役で、盲目の妻サカエ役の黒木華とともに物語を牽引する。リアル歌舞伎町の劇場で展開するのは、不適切を優に超えた、人間と神の領域に踏み込むスケールの黙示録だ。

作・演出=松尾スズキ
出演=阿部サダヲ、黒木 華、荒川良々、岸井ゆきの、皆川猿時、松本穂香、伊勢志摩、猫背 椿、宍戸美和公、内田 慈、町田水城、河井克夫、菅原永二、オクイシュージ、松尾スズキ、秋山菜津子 他
7月9日(火)~8月4日(日) THEATER MILANO-Za ※京都、福岡公演あり
(問)Bunkamura TEL:03-3477-3244

文=伊達なつめ

※InRed2024年7月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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