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若葉竜也につられて涙腺崩壊…“伝説の最終回”となった理由とは? ドラマ『アンメット』最終話徹底考察&感想レビュー

  • 2024.6.25
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『アンメット』第11話より ©カンテレ
『アンメット』第11話より ©カンテレ
アンメット第11話より ©カンテレ

陰影に富んだ映像、無駄なセリフを削ぎ落とした構成、役者の息づかいまでをも克明に捉えるドキュメンタリー調の演出に加え、何より、杉咲花、若葉竜也をはじめとする、キャスト陣のリアリティに富んだ演技によって、ドラマ『アンメット』は回を追うごとに評価を高めていった。

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最終回となる第11話では、夜に1人黙々とミヤビを助けるために吻合(ふんごう)の練習に励む三瓶のもとを、津幡(吉瀬美智子)が訪れ、「彼女の望んでいることをしてあげて」と告げる。頑固な三瓶はそれでも津幡に背を向けているが、手元の動きは止まっており、彼女の言葉が心に響いたことがさりげなくわかる。

津幡の言葉に従い、休暇をとり、ミヤビと生活を共にすることにした三瓶は、彼女と時間を過ごすうちに小さな変化を見せていく。それまで食べる習慣のなかった朝食をミヤビのために作る。彼女の大好物であるステーキ丼を口いっぱいに頬張り、「美味しいです」と喜びをダイレクトに表現する。これまで「食べること」を通じて、感情の機微や人間関係の変化を丹念に描いてきた本作らしい演出だ。

しかし、幸せな日々は長くは続かない。脳梗塞が完成し、朝になってもミヤビは目を覚さない。そこで三瓶は彼女がずっと書き継いできた日記をめくり始めるのだが、杉咲花の穏やかな声色によるモノローグに導かれて、過去の放送回で描かれた、数々の忘れがたいエピソードがフラッシュバックし始めた瞬間、三瓶と同時に筆者の涙腺もあえなく崩壊した。

『アンメット』第11話より ©カンテレ
アンメット第11話より ©カンテレ

序盤から泣かせる場面に富んだ『アンメット』最終回だが、意識を失ったミヤビが病院に搬送されると、三瓶の表情は恋人モードから、医師モードへと鮮やかにスイッチ。それに伴い、画面の緊迫度もグッと高まりを見せる。

手術シーンでは、これまで衝突を繰り返してきた三瓶と大迫(井浦新)が協力して執刀を担当。共に手術に臨む綾野(岡山天音)と星前(千葉雄大)、彼らに器具を提供する津幡、タイムウォッチに視線を落とす成増(野呂佳代)らの真剣な眼差しが、息が詰まるような緊張感をもたらす。

程なくして手術は終わる。安堵のため息、ほろりと緩む目元の緊張、大迫がかける三瓶へのねぎらいの言葉と“肩タッチ”、さらには、手術にかかわった仲間たちに対する三瓶の深いお辞儀。そこには泣いたり、叫んだり、喜びを大仰に表現する者はただの1人もいない。登場人物たちのさりげない身振りで手術の成功が表現される。『アンメット』のクライマックスを飾るにふさわしい、本作の良さがこれでもかと詰まった名シーンであった。

『アンメット』第11話より ©カンテレ
アンメット第11話より ©カンテレ

最終回では、困難を極めたミヤビの手術とその成功が描かれると同時に、ミヤビと三瓶の“馴れ初め”が描かれた。大一番の手術を無事に乗り越えたとはいえ、ミヤビは眠り続けたまま。もしかしたら、彼女が目を覚ました時、記憶は失われているかもしれない。

そんな懸念を口にした三瓶に対し、星前は「忘れてても、全部憶えているんじゃない? ミヤビちゃんなら」と告げ、とびっきり優しい笑顔で三瓶にエールをおくる。第1話から本作を観てきた視聴者は、星前のこのセリフが、かつて三瓶がミヤビに対してことあるごとに伝えていた「記憶が失われても、強い感情は忘れません」という言葉と共鳴していることに気づくだろう。さらに、発話者を異にしたセリフの反復は続く回想シーンでも思わぬ形で描かれることになる。

病室のシーンから場面は変わり、暗い部屋で三瓶とミヤビは並んで床に座っている。ここで三瓶は、すでに故人である重度障害者であった兄を救えなかった過去について、悔恨を込めて語るが、このエピソードは9話で明らかにされたものだ。それから三瓶は「アンメット=満たされない」という本作のタイトルとなった言葉について「できた影に光を当てても、また新しい影ができて、満たされない人が生まれてしまう」と語る。

三瓶の医者としての実感と兄を救えなかったことへの自責の念が込められた言葉に対しミヤビは、「なんかお腹が空きましたね」とあっけらかんと呟くと、「自分の中に光があったら暗闇も明るく見えるんじゃないかな」と語る。

『アンメット』第11話より ©カンテレ
アンメット第11話より ©カンテレ

三瓶の告白に合わせてあいみょんによる主題歌「会いに行くのに」が流れる。ああ、もうすぐこのドラマは終わるのだ。しかし、この回想シーンは、ミヤビへのプロポーズでは終わらない。

「僕もお腹が空きました」と口にする三瓶に対して、ミヤビが持ってきたのはなんとグミ。「これ食べますか?」と三瓶に差し出すも断られたミヤビは、グミを一定のリズムで咀嚼することで幸せホルモンであるセロトニンが分泌される云々と、第1話の冒頭で、三瓶がミヤビに向けて発した言葉を反復する。言うまでもなくそれは、このドラマで2人が初めて交わした会話でもあるのだ。

セリフを介して、結末が冒頭へと繋がった。夜の回想シーンが明けると、窓から日光が燦々と差し込む病室のシーンに戻る。光と影のコントラストが素晴らしい。

目を覚ましたミヤビと彼女を見つめる三瓶の表情が交互に映される。繊細なライティングと高性能カメラによって、若葉竜也と杉咲花の顔が、従来の民放ドラマとは一線を画すクリアな映像で鮮やかに浮かび上がる。

果たしてミヤビは三瓶のことを憶えているのか。もちろん、このドラマはそれを大げさな演出で誇示したりはしない。三瓶を見つめるミヤビの涙袋が徐々に液体で満たされる過程を丹念に捉えることで、彼女の脳、いや、彼女の感情が三瓶をしっかり記憶していることが、この上なく静謐に、この上なく雄弁に表現されるのだ。

最終回の1時間弱はあっという間に過ぎていった。伝説の最終回と言っても過言ではないだろう。SNSを開くまでもなく「『アンメット』ロス」を嘆く声が聞こえてくる。

ただし、嘆くのは尚早だろう。なぜかと言うと我々には、ミヤビが三瓶にグミを勧める最終回の微笑ましいシーンを味わった上で、もう一度、第1話の冒頭で描かれた同じやりとりを見直す喜びが残されているからだ。

(文・山田剛志)

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