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川口春奈&松下洸平の距離感に感動…白黒つけない結末が共感を呼んだワケ。ドラマ『9ボーダー』最終話考察&感想レビュー

  • 2024.6.25
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『9ボーダー』第10話より ©TBS

川口春奈がTBS金ドラ初主演。木南晴夏&畑芽育と3姉妹役を演じるドラマ『9ボーダー』。19歳、29歳、39歳…各年代のラストイヤーで、3姉妹がモヤり、焦りながら、自分の生きる道を模索するヒューマンラブストーリー。今回は最終話のレビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:菜本かな】
メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。

『9ボーダー』第10話より ©TBS
9ボーダー第10話より ©TBS

『9ボーダー』(TBS系)が描きたかったのは、“グレーを許す”ということだったのかもしれない。わたしたちは、つい白黒はっきりつけたくなってしまうけれど、答えは1つじゃなくていい。大庭家三姉妹が選んだラストからは、そんなメッセージが伝わってくるようだった。

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まず、海外赴任する朔(井之脇海)について行けないから…とプロポーズを断り、別れを選択しようとしていた六月(木南晴夏)。たしかに、一緒にいられないのなら、別れた方がいいと考えてしまう気持ちもわかる。

距離の近さがすべてではないけれど、やっぱり結婚したら同居するのがスタンダードな気がするし、それが叶えられないのなら結婚はおろか交際を続けるのもむずかしい、と。

そんなとき、七苗(川口春奈)の「答えって、ゼロか1かじゃないよ」という言葉が胸に響く。「海外赴任について行けない=結婚できない=別れた方がいい」と、どんどん選択肢を狭めてしまいがちだけれど、“グレーゾーン”に位置する選択ってたくさん存在する。

たとえば、結婚はするけど海外にはついて行かないとか。反対に、結婚はしないけど交際は続けるとか。すべてを捨てる必要はないのだ。

最終的に、六月がした決断は限りなくグレーに近いものだった。離れていても交際は続ける。そして、お互いの国を行き来する。数年後にどこの国に住むかを考える。籍を入れるか入れないかは、ゆっくり考えていく。

「そういう自由を考えるのが大人じゃない?」と言って笑った六月の姿は、これまでのどの瞬間よりも幸せそうに見えた。

『9ボーダー』第10話より ©TBS
9ボーダー第10話より ©TBS

正直、陽太(木戸大聖)と八海(畑芽育)は結ばれてほしくなかったなぁ…という気持ちもある。陽太は八海のことを妹として大事にしていて、恋愛対象としては見ていなくて、「好き」と言われたからといって安易にはなびかない。そんな硬派なところが、素敵だなと思っていたから。

でも、陽太は自分なりの“幸せ”を考えた結果、八海にたどり着いたのだろう。あつ子(YOU)が「(幸せとは)わたしはわたしのままでいい。そう思えることじゃない?」と言っていたのを聞いた時、陽太の頭のなかに浮かんだのが、八海の存在だった。

「俺は、俺のままでいい。八海はそう思わせてくれる」

陽太の八海への気持ちが、恋愛としての好きなのか、それとも家族的な好きなのか。それはまだわからないし、だんだん変わっていくものだと思う。ただ、ラストシーンで楽しそうにケーキを食べている2人を見ていると、幸せとはこういう瞬間を積み重ねていくことなのかもしれないなと思えた。

そして、この幸せをつかむことができたのは、八海が勇気を出して一歩踏み出したから。もしもあのとき、関係を壊すのを恐れて告白をしていなかったら、陽太が八海を恋愛対象として意識することもなかったはず。クリスマスにキーホルダーをプレゼントされたとき、「こんなのもらったら、勘違いするよ〜?」とイタズラに言えちゃうところも、八海らしい。

今までは、陽太が八海の面倒を見てきた感じだったけれど、付き合うことになったら立場が逆転しそうな気がする。ずっと八海を子ども扱いしてきた陽太が、八海に「赤ちゃんかよ」と言われて「…赤ちゃんじゃねぇし」とドギマギするシーンで、キュンとした視聴者も多かったのではないだろうか。

七苗のことが好きだったのに、コウタロウ(松下洸平)との関係をアシストしまくったりと、『いい人すぎるよ展』に飾ってもらいたいくらいにいい人すぎた陽太。絶対に幸せになってほしい!

『9ボーダー』第10話より ©TBS
9ボーダー第10話より ©TBS

そして、コウタロウと七苗のラストもグレーのままだった。コウタロウは、芝田悠斗として生きていくことを決めているため、神戸の不動産会社の副社長として働き続けるのだろう。七苗とは遠距離になるし、「もう一度、付き合おう」などというはっきりした言葉はない。

それに、神戸で暮らしていくなかで、コウタロウの芝田悠斗としての記憶がどんどん戻ってきて、それがコウタロウとしての記憶を上回ってしまったら、どうするのかもわからない。

問題は数え切れないくらいあるけれど、幸せとは“わたしはわたしのままでいい”と思える日々を積み重ねていくこと。30歳の誕生日を迎えた日、2人が交わした「よかったら、一緒に(誕生日を)お祝いしてくれませんか?」(七苗)、「そんなの、いくらでも」(コウタロウ)というやり取り。

家族と、大事な仲間と、そして愛するコウタロウに囲まれて、誕生日を祝ってもらったあの時、七苗は確実に“わたしはわたしのままでいい”と思えていたはず。

『9ボーダー』第10話より ©TBS
9ボーダー第10話より ©TBS

ただ、百合子(大政絢)の気持ちを考えると、心が痛い部分もある。婚約者が行方不明になって、やっと再会できたと思ったら記憶喪失になっていて、知らないところで知らない人を好きになっていた。

想像しただけでもかなりしんどいのに、その怒りをコウタロウにぶつけることなく、「そばにいるのがわたしでごめんね。そう思い続ける人生は、もう無理」と言い切ったところが最高にカッコよかった。これも、コウタロウといて“わたしはわたしのままでいい”と思える自分になれなかったからこそ、別れを決断したのだろう。

ひとりでいるのは不幸とか、誰かと一緒にいるのが幸せとか、そんなふうに白黒はっきりつけられない時代になってきている。ひとりでいたって幸せそうな人もいるし、誰かと一緒にいて不幸になる人だっている。

だからこそ、“わたしはわたしのままでいい”と思える自分に、昨日よりも近づけるように。「あの頃はよかったなぁ」と思うのではなく、「今がピーク!」と言えるような日々を、ちょっとずつ積み重ねていく。それこそが、幸せに続いていく道だということを、『9ボーダー』の三姉妹が教えてくれた。

(文・菜本かな)

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