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【環境月間】気象予報士・井田寛子さんが解説!宇宙から見たら、地球って、いったい、どんな状態?

  • 2024.6.24
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目の前に迫った夏。2024年もまた猛暑が予想され、昨年夏に観測史上最高となった平均気温をさらに更新する可能性があるそう。その要因とされているのが、今夏から秋に発生する可能性のあるラニーニャ現象と地球温暖化。

でも、年々暑さが厳しくなる地球って、大丈夫なの? そんな危機感から、環境月間の6月、気象予報士の井田寛子さんとともに、宇宙から見た地球はいったいどんな状態なのか、俯瞰してみよう。

5月下旬、地球観測衛星「EarthCARE(愛称:はくりゅう)」が打ち上げられ、高度400キロメートルという宇宙空間から雲が地球の気候変動にどう影響するのかを観測すると報じられたばかり。すでに、「しきさい」「しずく」「だいち」という人工衛星が地球環境の観測のために打ち上げられていて、10年~15年にわたって、大気、海洋、陸、雪氷といった地球全体を調査中。宇宙から地球の健康状態を科学的に検査し、将来の気候変動の予測の精度を高めようという取り組みだ。

宇宙から見える美しい地球も、人工衛星から送られてきた画像やデータには驚くべき事実が記されている。変化しつつある地球の一端をここで見てみることにしよう。

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宇宙から見た日本の山や海

気候変動観測衛星「しきさい」から、日本はどんなふうに見えているのか、そのほんの一部をご紹介。

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こちらは、2023年4月に東北地方の鳥海山を観測した画像。ところどころに残っている白い部分は雪で、秋田県から山形県にまたがる日本海近くの丸く白い部分が鳥海山。

「山に常設する観測器は少なく、積雪は数値で測ることが難しいので、衛星によって積雪の状態を経年で捉えていくのは、平野部で暮らす人の生活にとっても大切な湧水資源を把握することにつながると思います」と井田さん。

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こちらの画像は2024年初めに観測された富士山の雪。中央の丸く白い部分がそうだ。東に目を移していくと、茶色の山の部分を超えたとたん、グレー箇所が広がっている。ここは、ちょうど、神奈川から東京にかけて。思っていた以上に、緑の少ないエリアだということに気づく。

「都市部は公園が多いから緑も豊かなイメージがありますが、やはり、大半を占めているのはコンクリート。都市化によって、地表の温度が押し上げられています」(井田さん)

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そして、こちらは、2022年に捉えられた太平洋の海面水温。左手の黒い部分が三陸地方。

「気圧や複雑な海流の動きによって海水温は変化しますが、この画像ではかなり沖のほうが赤い色になっていて、海面水温の高い部分が広がっていますね。こうした日本を囲む海水温の変化は、気象や気候に影響を与えるだけでなく、魚の獲れ具合にも関わってきます」(井田さん)

では、地球の状態は?

日々、気象衛星「ひまわり」から送られてくる画像を見続けてきた井田寛子さんは、「ひまわり」の画像からも、温暖化による気候の変化を感じてきたと言う。

「毎年、8月から9月にかけて台風シーズンになります。たいてい、熱帯低気圧がフィリピン沖で発生しますが、台風の目の発達の仕方が近年、変わってきたことを実感して恐ろしいと感じることもあります。また、夏の雲の湧き方も変わってきています。局地的に短時間で積乱雲が発達して、地上に豪雨をもたらしています。いずれも、大気のみならず海面水温の上昇が影響しています」

では、観測史上、もっとも暑かったとされる2023年の地球の状態について、人工衛星のデータや画像から見えてくることは……?ここからはJAXAの資料を参考に井田さんとともに考えてみよう。

その1:地球の約7割を占めている「海」の状態について
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上記の図は、JAXAの観測衛星による地球全体の海面水温平均値の推移を示すもの。

2002年から2011年にかけての約10年と、2012年から2022年の10年ではどの季節についても地球全体の海面水温が上昇しているのが明らか。さらに、赤い線の2023年は、どの季節においても高温状態が続いていることがわかる。

「地球全体の面積のおよそ7割を占める海が、地球温暖化に大きな影響を与える二酸化炭素を吸収してきました。将来的に、地球温暖化が進行すると、海が二酸化炭素を吸収するキャパシティを超えることが予測されています。また、海水温が上がれば海面と接している大気の温度も冷めにくくなり、水蒸気を蓄えることになります。そうすると、雲の発達の仕方、雨の降り方がこれまでと変わってくるのです」(井田さん)

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こちらのマップは、2023年7月の海面水温の平年差を表したもの。海の部分が、全体的に黄緑から黄色となっていて、海面水温が平年より高い傾向だったということがわかる。特に、東北から北海道沖の太平洋は赤い色に。これは、5℃以上高かったことを示している。

その2:「陸」の状態について

2023年ほど世界のあちらこちらで山火事のニュースを耳にしたことはなかったかもしれない。カナダをはじめギリシャ、ロシア、ハワイ……、森林火災によって甚大な被害が起きた。6月初旬には、カナダで続いた山火事の煙がニューヨークまで流れ込み、屋外での活動を控えるよう呼びかけもあった。

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上の図は、地球観測衛星「しきさい」が捉えた2023年5月の地表面温度の平年値との差を示したもの。特にカナダにおいて平年よりも10℃程度高い地表面温度が観測され、同時期に大規模な森林火災が発生していることがわかる。

「森林火災の原因は複数ありますが、長期間の乾燥や干ばつ、熱波が影響しています。森林火災は二酸化炭素を放出し、地球温暖化を加速。そして、その温暖化によって、また火災が起きやすくなるという悪循環を引き起こします。また、生態系を壊してしまうことも忘れてはいけません。一方で、地球を冷却する効果を持つエアロゾルも同時に放出する面もあります」(井田さん)

その3:「南極」の状態について
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こちらは、南極の海氷面積の推移を表したもの。海氷とは、大陸を囲む海水が凍結した部分を指し、気温と水温の両方の影響受けるため、気候変動の指標のひとつとされているそうだ。グレーの箇所が南極大陸で、南極大陸を取り囲む白い部分が同じ月の過去45年間の海氷域の平均的な拡がり。レインボーカラーで海氷密接度がマッピングされ、赤い部分ほど海氷が多く分布。他方、深い青色の部分は海氷がゼロで海面が露出していることを表す。南極域では、2023年2月には海氷面積が観測史上、最小値を更新した。「太陽の光を反射する氷が溶けてその面積が少なくなるということは、海が熱をより吸収し水温を上げてしまうことになります。海水温が上がることによって、ますます、海氷が作られにくくなるのです」(井田さん)

驚くべき、地球温暖化の原因とされる大気中の二酸化炭素の濃度の変化

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縦軸は上から下へ2010年から2020年に向かい、横軸は月を示した全球の絵柄。二酸化炭素の濃度が低いほど青色(寒色系)に、高いほど赤色(暖色系)に。ディテールは見づらいものの、同じ月でも縦方向に見ると、上から下へブルーから緑、黄色、オレンジ、赤への変化が一目瞭然だ。

「全大気の年平均二酸化炭素の濃度が400PPMを超えたのが2015年でした。ちょうどこの図でも、黄緑が目立っているあたりになりますね。気象庁発表によると、2022年の大気中の二酸化炭素の世界平均濃度は、工業化以前(1750年)の平均的な値と比べて、50パーセント増加しているようです」(井田さん)

はるか宇宙から見た地球は、一見すると、藍色の海、緑の山々、茶色い陸地と生き生きとした自然が浮かび上がって美しい。地上に立ち、空を見上げれば、抜けるような青空やダイナミックな雲の動きに目を奪われる。けれど、まるで精密検査でもするように、人工衛星で地球を継続的に観測したものからは、海や大地、大気などの健康状態が少しずつ、失われてきていることを感じ取れる。

地球の健康状態は、そこで生きるわたしたちの健康や暮らしに直結。地球温暖化が進むにつれ、熱中症や自然災害などによっていのちが危ぶまれることも増えてくる。対策として、わたしたち自身は、さらに積極的に暑さ対策や防災を行っていこう。そして、環境月間の6月は、地球の健康状態に大きな影響を与えている海や川、森などをどうやって守っていくのか、また、温室効果ガスを出さないためには何をしたらいいのかを立ち止まって考える機会にしよう。

井田寛子いだ・ひろこ〇埼玉県生まれ。筑波大学卒業後、製薬会社勤務を経てNHKやTBSなどメディアを中心に活動。2023年東京大学大学院広域科学専攻修士課程修了。メディアの気候変動コミュニケーションについて研究。現在、NPO気象キャスターネットワーク理事長・WWFジャパン顧問。気候変動や防災に関する講演会等で活動中。環境・体・食の3つのバランスの大切さを感じ、全米ヨガアライアンスインストラクターや野菜ソムリエを取得。
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