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マグロの刺身はなぜこんなに高くなったのか…高級料理屋・大衆向け・養殖の3市場が価格を上げる悪循環

  • 2024.6.24

総務省「消費者物価指数」によると、マグロの価格は2年間で1.3倍に(2021年と23年の比較)。大東文化大学特任教授の山下東子さんは「日本ではマグロの家庭内消費量がサケに次いで2番目に多い。しかし、日本人が好む高脂質のクロマグロなどは資源が足りなくなる恐れがあり、漁獲制限がかかって価格を高騰させている」という――。

※本稿は、山下東子『新さかなの経済学 漁業のアポリア』(日本評論社)の一部を再編集したものです。

日本食市場で高い値段がつくマグロが獲れなくなっている

「マグロが食べられなくなる日も近い」という言説は繰り返されてきた。日本ではマグロの家庭内消費量はサケに次いで2番目に多いが、食べていても大丈夫だろうか。

図表1に日本でよく消費されるマグロ5種をポジショニングした。これらはいずれも刺身や寿司ネタとして生食で食べられるが、トロが取れるかどうかで2グループに分かれる。高脂質グループは腹身の部分が大トロ・中トロなどのご馳走となるうえに、赤身の部分も色の濃い高級品である。一方、低脂質グループであるキハダの身肉はピンク色で、ビンナガの肉色はもっと淡い。

マグロは世界中の海にいるが、高脂質グループは日本市場・日本食市場でのみ高く評価される。そのため日本に売ることを目的に漁獲される。資源が危ういと言われているのはこのグループである。低脂質グループは刺身向けと缶詰向けの2つの用途があり、後者は世界市場に向けられる。このように、一口にマグロといってもグループ別に市場の構造が異なるが、どちらの市場でも需給両面で日本の存在は大きい。

【図表1】主要なマグロのポジショニング
出典=『新さかなの経済学 漁業のアポリア』
高脂質のクロマグロやミナミマグロには漁獲制限が

図表2に近年の世界の天然のマグロ漁獲量の推移を示した。ここ数年はマグロ5種合計で220万トン前後で推移しているが、なかでも高脂質グループのクロマグロやミナミマグロは合わせても5〜6万トンと、他のマグロに比べて非常に漁獲量が少ない。これはもととなる資源量が少ないことに加えて、漁獲制限がかかっているためである。

クロマグロは北緯高緯度地域を回遊しており生息地別に大西洋クロマグロと太平洋クロマグロに分かれる。大西洋クロマグロは厳しい漁獲量管理の結果資源量が増えたのだが、日本近海に回遊する太平洋クロマグロの雲行きはあやしい。

日本列島を巡るように回遊している太平洋クロマグロは、2021年、IUCNレッドリストの準絶滅危惧種に掲載され、乱獲は国際的にも非難を浴びている。正月の初セリで高値がついて話題になる大間のマグロも、完全養殖で名をはせた近大マグロも、稚魚が乱獲されて問題になっているメジマグロも、みな太平洋クロマグロである。利害関係者が多いので管理措置を決める会議が難航する。しかも日本国内だけでルールを決められない。なぜならマグロは地域管理機関が国際管理しているからである。

【図表2】主要なマグロの漁獲量推移
和歌山の漁港、2018年(※写真はイメージです)

山下 東子(やました・はるこ)
経済学者
1957年大阪市生まれ。1980年同志社大学経済学部卒。1984年シカゴ大学大学院経済学研究科修士。1992年早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)広島大学。現在、大東文化大学特任教授。

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