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思い出のハンバーガーがもう食べられない。そこから広がる夢

  • 2024.6.24
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私のふるさとは駅を降りてすぐ瀬戸内海が見える。電車から降りると海風が私を出迎えてくれる。

◎ ◎

ふるさとを離れて8年。
今日、久しぶりにふるさとに帰ってくると、いつものように港町の風景が私を落ち着かせてくれた。海岸通りを歩くと、向かいの島とを往復するフェリーが行き交い、出番待ちの船が海に浮かぶ、見慣れたふるさとの姿があった。

お散歩をするおばあちゃんと自転車にまたがったおばあちゃんが世間話をし、海外からの観光客がサイクリングの道すがらお土産を買いにお店に立ち寄っている。これもふるさとの在りし姿そのままだ。

「ただいま」と家に帰ると、「お昼ごはんのタイミングを逃した」とお母さん。私のみちくさのせいだ。こんな時はあの店に限る。そう、海岸通りにあるハンバーガー屋さんだ。私は母に、ハンバーガーにしようよ、と提案したが
「あそこ潰れちゃったのよ」と衝撃的な言葉が返ってきた。看板はそのままに、つい先月、閉店してしまったらしい。

聞けばご家族4人でお店を運営されていたのだが、ご闘病やら、ご出産やらで店舗経営が難しくなったとのことだった。学生時代に私と一緒にそのハンバーガー屋さんに通った友人たちにお店の閉店を伝えると、みんな一様に衝撃を受けていた。地元からも観光客からも愛されていたお店だったので予想だにしていなかったのだ。

◎ ◎

そのハンバーガー屋さんは私の成長記録そのものである。学生時代に中間・期末試験で早く帰った日に食べる、ご褒美フィッシュバーガー。テイクアウトをして海辺のベンチで家族と食べた、ボリューミーなスペシャルバーガー。喧嘩した友人と取り敢えず腹ごしらえで食べたら自然と仲直りした、濃厚なチーズバーガー。

手作りのパティ、食べ応え抜群のバンズ、新鮮なお野菜、それらが様々に組み合わさったバラエティー豊富なハンバーガーたちが私の心と身体を満たしてくれた。

◎ ◎

お昼ごはんを家で軽く済ませたあと、海岸通りを母と散歩した。ハンバーガー屋さんの前で立ち止まると、ただの店休日の様な気がした。それくらい、変わらぬ佇まいだった。
「悲しいね」と私が言うと、母は「仕方ないよ、そういうものだよ」と呟いた。

思えば、ふるさとの街並みは変わらないけれど海岸通りや商店街はどこか閑散とした気がする。シャッターには長年のご愛顧を感謝する貼り紙や店名が書かれていない部分だけが日焼けした建物もある。私がふるさとを離れて成長している間に、ふるさともまた別の姿に変わっていくのだと感じた。

「またあんなお店できないかな?他の人が経営するとかさあ」と私が言うと、すかさず母が「あなたがやればいいじゃない」と答えた。

確かに、そうだ。そして、ふと、自分がやろうと思えばできる年齢になっていることに驚いた。ふるさとは私が唯一甘えられることができ、育ててもらう場所だった。それがいつの間にか自分より若い世代がどんどん生まれ、彼らを育てる立場になっていくのだと感じた。

「楽しいかもね」

私は心の底からワクワクした。私にたくさんの思い出を作ってくれたふるさとで、次は自分が誰かの思い出を作るパーツになるのだろうか。

◎ ◎

こうして私の企みは始まっている。美味しいハンバーガー屋さんを再びふるさとに蘇らせて、あの味を求めて訪れる人たちを迎えることができますように。やっぱりあのハンバーガー屋さんは私の成長記録なのかもしれない。

■わさびのプロフィール
凡人女子大生。コツコツな人生です。

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