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1年ぶりの連絡に「イヤな予感」――「違う名前」から届いた封書にハッとした

  • 2024.6.23
1年ぶりの連絡に「イヤな予感」――「違う名前」から届いた封書にハッとしたの画像1
写真AC

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

目次

・1年ぶりの連絡は違う名前だった
・気になるのは、最後にやりとりした話
・ワクチン論争で気を悪くしたから?

1年ぶりの連絡は違う名前だった

酒井奈緒美さん(仮名・56)は、郵便受けに封書が届いているのを見つけてハッとした。差出人は、取引先の社名だった。長年、酒井さんに仕事を発注してくれている多野さんが一人でやっている会社だ。

しかし、社名と一緒に書かれていた名前は多野さんではなかった。多野という苗字ではあったが、違う男性の名前だった。

酒井さんは、イヤな予感がした。イヤな、というより、「やはり」が正しいかもしれない。封を開けなくても、中味は想像できた。

「多野さんから連絡が来たのは、約1年ぶりでしょうか。それまでは、頻繁にやりとりしていたし、レギュラーの仕事ももらっていました。いつも来る仕事の連絡が来なくなって、何かあったんだろうとは思いながらも、こちらから連絡をすることはしませんでした」

というのも、フリーのウエブデザイナーである酒井さんにとって、何年も仕事をしていた取引先からの連絡が突然途絶えることは少なくないからだ。取引先の担当者と親しく付き合っているようでいても、しょせん仕事の上だけの関係だ。

違う人のデザインに変えたくなった、手掛けた仕事の何かが気に入らなかった……理由はさまざまだが、「次回はなし」という連絡が来て仕事が終了することはほとんどない。

大半が、連絡が急になくなる。だから、酒井さんから、「あの仕事はどうなっていますか」と聞くこともしない。「切られたんだな」と思うだけだ。理由を聞いても傷つくだけだから。切られる仕事もあれば、また新しく入る仕事もあり。そうやって長年仕事を続けてきたのだ。

ただ、多野さんに関しては、いくつか心配な点があった。

気になるのは、最後にやりとりした話

そのひとつが多野さんの持病だ。

「おそらく60代後半の多野さんは、十数年前に脳卒中を患っていました。少し足を引きずってはいましたが、リハビリをがんばったので足以外は大きな後遺症もなく、仕事に復帰していたんです。その後、特に悪化することもなかったとはいうものの、連絡が急に途絶えたのはもしかするとまた脳卒中を起こしたのかもしれないとも思ったんです」

もうひとつ、気になることがあった。多野さんと最後にやりとりした話の内容だ。

「コロナが五類になることが決まったころだったと思います。多野さんが、仕事の連絡をしてくれたメールで、ワクチンについて触れていたんです。『国は公表していないが、ワクチンで死んだ人は多い。危険なことがわかっているから、厚労省の役人は誰もワクチンを打っていない。自分も最初は打っていたけど、この事実を知ってからは打つのをやめた』というようなことが熱い口調で語られていました。実は、私の家族が厚労省に勤めていて、周囲も普通にワクチンを受けています。多野さんの言うことはあまりにひどいデマだと思ったので、つい私も強く否定してしまったんです」

もちろん、多野さんを責めてはいないし、反ワクチンと決めつけるような言い方もしていないつもりだ。それでも「へえ、そうなんですね」と“大人の対応”をすることはできなかった。

コロナのあいだ中、家族が大変な思いをして仕事をしてきたのがわかっていたから、多野さんの言葉を軽く受け流すことはできなかったのだ。

ワクチン論争で気を悪くしたから?

「多野さんは、『まあ、全員受けていないと言ったのは言い過ぎだったけど、ワクチンの怖さを国は知っていて、それを隠しているんだ』と言い続けていました。それ以上この話題で論争する気にもなれなかったので、やりとりはそれで終わっていたのですが、いつもの多野さんとは違っていることが気になっていたんです」

だから、多野さんからの連絡が途絶えたのは、もしかするとあのときの“ワクチン論争”のせいで、多野さんが気を悪くしたからかもしれないという気もしたのだ。

「私をワクチン推進派とみて、もう仕事の付き合いもやめようと思った可能性もあると思いました。だから、多野さんの体調を心配しつつも、ワクチン論争が原因で仕事を切られたのかもしれないとも思えて、なおさら多野さんに連絡できないでいたんです」

その後、毎年やりとりしていた年賀状も来なかった。とうとう、確定申告に必要な書類も届かず、「いくら何でも“気を悪く”しているだけとは考えられない……」と思っていたときに届いたのが、この封書だったというわけだ。

中味は想像できたとはいうものの、それでも酒井さんは祈るような気持ちで封を開けた。

酒井さんの目に飛び込んできたのは――

――続きは7月7日公開

坂口鈴香(ライター)
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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