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「利用調整地区」って知ってる?奈良・西大台で体験するありのままの自然

  • 2024.6.23
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耳馴染みのある「国立公園」「自然保護区」「保全地域」、あるいは世界自然遺産登録区域など、国や行政によって保護された自然環境エリアの呼称。

そのなかに、あまり耳慣れない「利用調整地区」があるのをご存じですか?

今回は、全国でもまだ2例しかないという「利用調整地区」に関する概要とそのひとつである吉野熊野国立公園大台ヶ原の「西大台」についてご紹介します。

全国でたった2例!環境省が定める「利用調整地区」とは

Photo by Mayumi

日本の国土の約7割を占める森林。そのほとんどが天然林(自然林)や人工林であり、手つかずの原生林は、じつはほんの数%しか残されていません。

原生林が残された場所として知られるのは、世界遺産の屋久島や白神山地、知床などが有名ですが、“原生的な雰囲気を保持している”地域として知られるのが、今回ご紹介する吉野熊野国立公園大台ヶ原の「西大台」です。

Photo by Mayumi

将来にわたって貴重な原生的自然を保全し、かつ景観を保ちながら、一方で、人々がよりよく自然とふれあい学べる場となるよう整備されたエリアが環境省認定の「利用調整地区」です。

利用調整地区への入山には厳格な規定やルールが設けられ、一般の登山者は指定認定機関による“認定”を、公的機関や学術調査などは環境大臣または都道府県知事による“許可”が必須。ほかにも、一定の認定基準(1日の入山者数、時間、ガイダンス受講、認定料など)を満たさなければ入山できないルールになっています。

それだけ厳しいルールが課されているからこそ、ここでしか味わえない原生の自然体験が味わえるのです。

吉野熊野国立公園の大台ヶ原とは

Photo by Mayumi

三重県、奈良県、和歌山県の紀伊半島3県にまたがる吉野熊野国立公園。その奈良県を中心とした核心部に位置し、標高1,300m〜1,600mの山々に囲まれた台地上の山岳地帯が大台ヶ原です。

大台ヶ原山は「日本百名山」のひとつに数えられるほか、「日本百景」「日本の秘境100選」にも選ばれた西日本屈指の景勝地。また国立公園の一角であると同時にユネスコエコパークにも認定された生物多様性の生態系が息づく貴重な自然エリアとして知られています。

Photo by 環境省「吉野熊野国立公園大台ヶ原」

大台ヶ原は、三重県最高峰の日出ヶ岳(ひでがだけ)や代表的な展望所・大蛇嵓(だいじゃぐら、前掲の画像)を中心とした標高1,500m以上の亜高山地帯の「東大台」と、標高1,300m~1,500m付に生息するブナを中心とした自然林が広がる「西大台」に分けられています。

そして、手続き不要の東大台に対し、利用調整地区に指定された西大台では、前述の通り、立入の際に1日入山の上限規制や厳格な認定ルールが設けられ、美しい自然を守るための取り組みがなされています。

利用調整地区「西大台」の見どころ

苔むす森に癒される

Photo by Mayumi

年間降雨量5,000mmと、あの屋久島にも匹敵する本州最多雨地域で知られる大台ヶ原。

西大台に存在する苔の群生地では、草木や大地はおびただしい苔に包み込まれ、鮮やかな緑の空間が存在しています。清浄な空気で満たされ、思わず立ち止まって深呼吸したくなる空間です。

Photo by Mayumi

亜高山性針葉樹のトウヒを中心とした東大台に対し、落葉広葉樹のブナを中心とした自然林が広がる西大台。夏には新緑、秋には紅葉の絶景で最高の森林浴が味わえます。

Photo by Mayumi

昭和30年代に発生した伊勢湾台風など大型台風が森の生態系を破壊し、ニホンジカによる獣害が増加、さらには大台ヶ原ドライブウェイ開通に伴う利用客増で人的影響の被害も増加、やがて大台ヶ原は森林衰退の危機に直面。そこで、平成16年(2004年)度から生物多様性の保全と自然再生に向けた取り組みが積極的に推進されています。

“原生的な雰囲気が体験できる場”として保護されている西大台。四季折々の表情とともに、森林更新の姿やさまざまな生命が誕生し、成長する様子を間近で観察できるのも魅力のひとつです。

大台ヶ原に関わる歴史の痕跡をたどる

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厳しい自然ゆえに、古くから“妖怪のすむ山”として恐れられ、山岳信仰の修験者や調査目的の幕府の役人以外は、ほとんど人を寄せ付けなかった大台ヶ原。明治になると徐々に歴史が動き始め、その名残をコース上で見ることができます。

たとえば、明治初期にはじめて行われた「開拓跡」。画像にある通り、ある者がさまざまな野菜を育て開拓しようと試みたものの、厳しい自然を前に1年余りでとん挫したという記録が残されています。現在は、やや開けた森の状態が開墾跡の名残を感じさせます。

そのほか、江戸幕末期に活躍した探検家であり、「北海道」の名付け親として知られる松浦武四郎がこの地を探査した証でもある「松浦武四郎分骨碑」や、大台ヶ原のすばらしさを伝えるために建てられたという、明治創建の「神習教大台ヶ原教会」という神道の教会が西大台のコース入口付近に建っています。

そのほかの見どころ

Photo by Mayumi

周遊コースから少し離れたところにある展望所からは、あの断崖絶壁の「大蛇嵓(だいじゃぐら)」を下から見上げることができます。

先に大蛇嵓を訪問しておくと、「あんなところにいたんだ……」とゾッとすること間違いなしです。

Photo by Mayumi

前述の展望所への道すがら、突如現れるのが、この根元部分がかぼちゃのような奇形ミズナラの巨木。まるで森の主のような風格と存在感です(周囲にはロープが張りめぐらされ立入禁止)。

西大台への入山方法

利用調整地区に指定された西大台は、前述の通り、入山に際して自然公園法に基づく規制及びルールにのっとり諸手続きが必要です。その基本的な流れをご紹介します。

事前申請と受付

Photo by Mayumi

全長およそ9km、約5時間を要す西大台周遊コース。1日の立入上限枠は土日祝日で50名、平日で30名(GWやお盆休み、紅葉シーズンなど利用集中時期に限り、土日祝日は100名、平日は50名)と定められています。さらに1グループは10名までです。

西大台の立入に関する指定認定機関は上北山村商工会。入山希望者は、同商工会が運営する所定の立入申請サイト(もしくは電話連絡)を通じて立入希望日や同行者等の情報を登録し、事前予約する必要があります(予約受付は立入希望日の3か月前から可)。

ただし、当日に立入枠の空きがある場合のみ、当日受付も可能。空き枠の状況は同商工会へ問い合わせるか、大台ヶ原駐車場前にある上北山村物産店へ直接訪れて確認することができます。

レクチャー受講と認定証

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認定手数料は大人ひとり1,000円、小学生以下はひとり500円です。所定の方法で支払い手続きが完了すると立入認定証が自宅等へ郵送、当日受付はその場で発行されます。

その認定証を持って、立入り日前あるいは当日に、大台ヶ原ビジターセンターにて10分ほどの入山における事前レクチャーを受講します。その際、本人確認のため免許証等の身分証明書を忘れずに持参しましょう。

いや、入山開始

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受講完了の証である認定印を認定証に押され、晴れて入山資格が得られます。西大台の入口にて係員へ認定証を提示し、植生保護の観点から、緑のマットで靴についた泥などを落としたら、いよいよ入山スタートです。

なお、立入認定証は首に下げるなど常に目に付くところに携帯しておく必要があります(登山の途中で、巡回中の巡視員から提示を求められる場合があります)。

自然に近い状態を保持するため、標識などの設置は必要最小限となっています。迷いそうになっても、落ち着いて見渡せば必ず誘導ロープや目印となる色付きテープが設置されています。誤ってルートから外れないようにしましょう。

なお、そのほかの詳しい立入申請については上北山村商工会のサイトをご参照ください。

そのほかの守るべきルールとマナー

Photo by Mayumi

利用調整地区内に存在するものは、草花ひとつ、小石ひとつでも許可なく採取することは禁じられています。そのほか、自然公園法に定められた規制に違反すれば罰則・罰金の対象となります。

さらに、ペット同伴や野生動物へのエサやり・過干渉、ゴミの放置や環境を乱す行為も禁止されています。マナーを守って気持ちよく森林浴を楽しみましょう。

ちなみに、基本的に園内にトイレはありません。出発前に必ずビジターセンターや駐車場近くのトイレで済ませていきましょう。なお、コース上に携帯トイレブースなどが仮設されることがあります。使い捨ての携帯用トイレを持参しておくと便利です。

静かで美しい自然に包まれ、心と体をリセットする旅を

Photo by Mayumi

人で混雑しがちな東大台に比べ、混雑とは無縁の西大台。鳥のさえずりと森の音しか聴こえない静かな森の空間で、あるがままの自然を前に、自分と向き合い、心とカラダをリセットできる時間を与えてくれます。

空気がおいしい空間でいただく奈良名物の柿の葉寿司はまた格別です!おいしいもので満たされて、エナジーをチャージしましょう!

ぜひ今度、奈良の癒しの空間へ遊びに出かけてみてはいかがですか。

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