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“知らなかった”は罪なんだよ――男運がなさすぎる女性の境遇で読者の心もかき乱す『トラップホール』

  • 2024.6.21
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『午前3時の無法地帯』や『こっち向いてよ向井くん』など、20~30代男女の絶妙なシーソーゲームのような恋愛を独自のリアリティある描写で描くことで知られるねむようこ。

彼女の描くマンガにはメディア化作品のみならず、多彩な男女の恋模様を描いたものが非常に豊富。その中でも『トラップホール』(祥伝社)は、とことん“男運の悪い女”による文字通り波瀾万丈の都会生活を描いた、非常に刺激的な作品ともなっている。

結婚寸前までいった同じ社内の彼氏に「新しく好きな子が出来た」と振られ、身の振り方を悩んでいた主人公・ハル子。彼のことはまだ好きだが、会社に居続けるのもいたたまれない。そんな中たまたま同窓会で再会した同級生・浅野とひょんなことで縁ができ、彼女はそのままあれよあれよという間に、彼が普段東京で経営する飲食店で働くこととなる。

自分の過去を知る人のいない新天地で、心機一転新たな生活を踏み出したハル子。たまたま縁ができた浅野とも実は学生時代にそこまで関わりがあったわけではなかった。だがその距離感もまた、忘れたい過去を抱えたハル子にとって、ちょうどよい温度感で付き合えるのでもあった。

彼の言葉に甘え拠点を東京に移して間もなく、大失恋の後の人肌恋しさもあり、彼女は浅野と体の関係を持ってしまう。

お互いに割り切った、傷を埋めるのにちょうどよい関係。そう考えながら付き合いを続けていたが、ある日最悪の形でなんと彼が妻帯者であると知ることに。結果情事中に乗り込んできた彼の妻に、ハル子はほぼ素っ裸の状態で追い出されてしまう。

どん底で地方から都会に出てきたものの、さらにどん底を更新した彼女。しかしそんなピンチの状態の自分を救ってくれたある一人の女性との出会いで、ハル子の運命はまた予想だにしない方向へと回り始めていく──。

そんなあらすじだけでも、すでにやや胸やけしそうなほどの濃密な展開を迎える本作のストーリー。「この先どうなるの!?」と思う怒涛の物語はもちろんだが、それ以上に特に女性の読者にとっては、「共感できるポイント」と「共感できないポイント」を反復横跳びする、ハル子という主人公の存在も大きな見どころだろう。

物語の当初は結婚直前の彼に振られたという状況もあり、おそらく彼女に対して非常に同情的だった読者も多いはず。

恋愛の“ルーザー”となった彼女が忘れたい過去を捨てるべく大胆な決断をする点も、失恋の傷を忘れようと他の男と体の関係を持ってしまう点も。おそらく大多数の女性にとっては(自分がその選択を取るかどうかはさておき)、理解ができる感情ではないだろうか。

彼女の不運は、そこで関わったのが妻帯者であった、という点に尽きるだろう。

隠し方が巧妙な男性も一定数存在するが、確かにある程度年齢を重ねた女性の多くは、様々な人との関係を経て、人付き合いの初期段階で相手が妻帯者か否かを見極める目を持ち始める。

ハル子も、きっとその観察眼を持ち合わせていなかったわけではない。ただしあまりにもショックな出来事があった際、人間の目や思考は簡単に曇ってしまう。そうして結果彼女は、自分の意図しないままに「妻帯者に手を出した不埒な女」へとなり下がってしまったわけである。

そんな彼女の辿った運命を第三者として見た時、「男しか縋るもののなかった、滑稽で哀れな女の末路」とばっさり切り捨てられる女性はおそらく少ない。

なぜなら彼女は読者が最も共感を傾けやすい「主人公」という存在で、彼女がここまでの恋愛において抱えた感情や境遇は、多くの女性にとって非常に心当たりのある、リアリティを帯びたものでもあるからだ。

ハル子の気持ちもわかると同時に、物語を追えば追うほど、彼女のことを反面教師にしなければ、と思わされる。それでも共感できるポイントがゼロではないが故に、彼女のことを良い、悪いという二元論で一概には語れない。そんなややこしくも興味深い主人公が、このハル子という存在なのである。

彼女の境遇を物語として追っていると、ひとつの事実の中には様々な見方があるということを否が応でも意識させられる。それもまた本作の、そしてねむようこ作品全体に共通のベースとして敷かれた、物語のリアリティさに起因する要素なのではないだろうか。

地方から都会へと一念発起して上京したものの、男関係で文字通り踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うハル子。

この先の彼女に待ち受ける運命とは、彼女は今度こそ幸せになれるのか…? 物語の展開は、ぜひあなたの目で直接確かめてみてほしい。

文=ネゴト/ 曽我美なつめ

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