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「すみっコぐらし」脚本家・角田貴志も『ブルー きみは大丈夫』に共感!「実生活と結びついて描かれているからこそ、惹きつけられた」

  • 2024.6.21
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子どものころの空想の友達が、本当に存在していていまでも自分を見守っていてくれるとしたら…。「クワイエット・プレイス」シリーズのジョン・クラシンスキー監督が手掛ける映画『ブルー きみは大丈夫』(公開中)。母親を病気で亡くし、心に傷を抱えた少女ビー(ケイリー・フレミング)のもとに現れた子どもにしか見えない不思議な存在“ブルー”との心の交流を描き、子どものころの大切な“夢”や“思い出”に巡り合う物語だ。

【写真を見る】名前は「ブルー」なのに、手にクロワッサンを持つ紫色のもふもふキャラは?「すみっコ」との共通点も…

優しくて“もふもふ”なブルーが友達だった子どもは、いまは大人になり、彼のことを忘れてしまったという。居場所がなくなったブルーはもうすぐ消えてしまう運命。ビーは大人だけどブルーが見える隣人の男性カル(ライアン・レイノルズ)の力を借りて、ブルーの新しいパートナーを探すことになる。かわいいキャラクターがたくさん登場し、子ども向けに見えるが大人にも響く!と話題の本作を、大人も感動する『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(19)、『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』(23)の脚本を担当した角田貴志は“大人”、“脚本家”、“自分自身”といろいろな目線で楽しんだようだ。

「映画 すみっコぐらし」シリーズの脚本を担当した角田貴志が『ブルー きみは大丈夫』の魅力を語る
「映画 すみっコぐらし」シリーズの脚本を担当した角田貴志が『ブルー きみは大丈夫』の魅力を語る

※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

「実生活と結びついて描かれているからこそ、惹きつけられる」

角田貴志の想像を超えた『ブルー きみは大丈夫』の結末とは? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
角田貴志の想像を超えた『ブルー きみは大丈夫』の結末とは? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「お話がコンパクトにまとまっていて、観やすかった」という角田は、邦題のタイトルから自分が想像していた結末があったという。「途中までブルーはビーのイマジナリーフレンド(空想の友達)なんだろうなと思って観ていたのですが、途中で頭を切り替えました(笑)。2人の関係は自分が想像していたものとは違ったけれど、そこが意外でおもしろく感じたポイントです」と笑みを浮かべ、本作の予想外の展開に触れる。主人公の少女、12歳のビーは幼いころに母を亡くし、そして今度は父親が病気で入院することから祖母の家に預けられ、そこでブルーたちと出会う。「最初は結構ビターな話かなと思ったけれど、ちゃんとハッピーエンド。もちろんお母さんがいないのは、ビーにとっては寂しいことだけど、終わりは爽やかでよかったなと思いました」と結末も気に入ったようだ。

「子どもが安心して観られるようにと考えて作られていて、大人目線ではまた違った味わいで楽しめる気がしました」と脚本家目線で語る角田。本作を手掛けたクラシンスキー監督は「大人を虜にするための鍵はノスタルジー」とコメントしているが、まさにノスタルジーが大人の心に届いていると共感する。角田自身が考える大人を虜にする鍵は、「実生活や実社会にちゃんと結びつくものが入っていること」だという。

子どもも大人も楽しめる『ブルー きみは大丈夫』 [c]2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
子どもも大人も楽しめる『ブルー きみは大丈夫』 [c]2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「全部空想でなんでも願いが叶う、ということではないこと。僕の解釈ですが、ビーも病院で出会う少年ベンジャミンも、大人にならなきゃいけないということが描かれています。特に、ベンジャミンにはイマジナリーフレンドが見えないということが明らかになったシーンは、劇中で一番ビターな瞬間だと思いました。だから彼が自分のイマジナリーフレンドを見つけた瞬間はすごくいいなと思いました」と心を動かしたシーンを挙げながら、「ベンジャミンにイマジナリーフレンドが見えない理由、そして見えるようになった理由。無邪気に空想できるようになったのは、彼の置かれている状況に変化があったから。実生活と結びついて描かれているからこそ、惹きつけられたんだと思います」と、角田自身が気になっていた少年ベンジャミンの描かれ方をもとに解説する。

角田貴志がノスタルジーを感じたという、幻想的な遊園地のシーン [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
角田貴志がノスタルジーを感じたという、幻想的な遊園地のシーン [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

角田自身が本作でノスタルジーを感じたのは遊園地のシーンだという。「僕は子どものころに『グーニーズ』を観ている世代。誰も住んでいない建物になにかがあるかもしれない。そういう想像は大人になったいまでもします。きっと、僕のなかにまだ子どもの心が残っているんじゃないかな(笑)。『グーニーズ』的な思考もそうだし、お金もある程度自由に使えるようになって、昔のおもちゃを買い直したり…みたいなことをしている大人は多いと思うので。僕自身はイマジナリーフレンドという存在よりも、空想の世界や現象のようなものはずっと好きな気がしています」。

海賊の隠した宝物を探す少年少女たちの大冒険が描く『グーニーズ』 [c]EVERETT/AFLO
海賊の隠した宝物を探す少年少女たちの大冒険が描く『グーニーズ』 [c]EVERETT/AFLO

「(『ブルー』と『すみっコ』の共通点は)キャラクターが無邪気で、悪者がいないのが一番大きい特徴」

子どもにしか見えない不思議な存在“ブルー”がビーの前に現れる [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
子どもにしか見えない不思議な存在“ブルー”がビーの前に現れる [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

癒し系映画と思いきや大人も号泣!と話題になった「映画 すみっコぐらし」シリーズ。第1作と第3作で脚本を手掛けた角田は大人の感動を呼んだポイントはどこにあったと考えているのだろうか。「『すみっコ』はキャラクター自体が社会の真ん中に行くのはちょっと…という子たちが頑張ったりする姿が刺さるポイントなのかなと思います。『とびだす絵本とひみつのコ』は、『ブルー』と同じように別れという実生活、人間の生き死にみたいなものを思い起こさせる物語ですし、『ツギハギ工場のふしぎなコ』では子どもはテーマパークに遊びに来たように無邪気に楽しめ、大人は自分の仕事や立場などに重ねて観られる。大人が観たらこうだけど、子どもが観たらというレイヤーはいつも意識しながら書いています」と解説。「『すみっコ』というキャラクター自体に、かわいいだけじゃない大人を惹きつける魅力が詰まっていますが、やっぱり感動するのは自分の人生と重ねられるかどうかだと思います」。

『ブルー きみは大丈夫』との共通点は「キャラクターが無邪気だということ。キャラクターに悪者がいないのが一番大きい特徴だと思いました。みんなすごくフレンドリーで、向こう側の世界も楽しそうと思わせるというのかな。みんなで楽しくお祝いをするシーンを観て、子どもは素直に楽しそうと思えるだろうし、大人、特に実社会で人間関係に疲れている方なら、向こうの世界のほうが楽しそうだなと素直に思えるようなキャラクターばかり。『すみっコ』はわりとネガティブなキャラだけど、『それがきみのいいところだよ』とお互いに支え合っている。そこに実生活との近さを感じるのかもしれません」と指摘した。

ビーと“空想の友達”の面接シーンでは、個性的なキャラクターたちが続々と登場 [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ビーと“空想の友達”の面接シーンでは、個性的なキャラクターたちが続々と登場 [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ビーがブルーを含む“空想の友達”の新しいパートナーを探すために、キャラクターたちと面接するシーンもすごく好きです」とお気に入りのシーンを挙げた角田は、キャラクターデザインにも惹かれたという。アイス(氷と水の入ったグラス)、ブロッサム(人形のテントウムシ)、スーパードッグ(マントとサングラスをしたイヌ)、コスモ(トレンチコートを羽織る探偵)、アンドロメダス3世(頭に冠を載せたゴースト)など、気になったキャラクターを挙げたらキリがない!という角田が最も驚いたのは透明人間のイマジナリーフレンド。「見逃したかな?と思うくらい本当に透明で。これも最後のタネ明かしも含めておもしろかったです。ブルーもちょっと古ぼけた感じの毛並みもすごく良くて。すごく気になっていたパープルなのにブルーという説明もさらっとしていたところも子ども目線だとそうなるのかと思ったり。イマジナリーフレンドのキャラクターたちは、質感も動きもすごくよかったです!」とビジュアルを思い浮かべながら笑顔を見せる。

もふもふのブルーに、グラスに入った氷というアイス…それぞれの違う質感はキャラクターの個性にもマッチ! [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
もふもふのブルーに、グラスに入った氷というアイス…それぞれの違う質感はキャラクターの個性にもマッチ! [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「結末は“ここにたどり着くんだ…!”という感じで、結構意外でした」

ブロッサム(人形のテントウムシ)のビジュアルも「すごく好き!」だそう [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ブロッサム(人形のテントウムシ)のビジュアルも「すごく好き!」だそう [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「映画 すみっコぐらし」の1作目はサプライズと感動を呼び起こす終盤の展開も話題に。本作も後半の伏線回収が注目を集めている。「カルが何者なのかは、ずっと気になっていました。僕の想像ではビーのお父さんとなにか関係があるのかな?とか、頭のすみっこに置きながら観ていたのですが、結末は“ここにたどり着くんだ…!”という感じで、結構意外でした。最後の最後までわからなかったので、タネ明かしはシンプルに驚きながら楽しめました(笑)。まさにサプライズです。おばちゃんのイマジナリーフレンドもサプライズだったし、ビーがイマジナリーフレンドが見えなくなっていくところの描き方も上手だなと思いました」。

本作のクライマックスに訪れる伏線回収には角田貴志も驚いた [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
本作のクライマックスに訪れる伏線回収には角田貴志も驚いた [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

角田が育った時代とは見るものも、触れるものも違っている現代の子どもたちは本作をどのように観るのか想像してもらった。「主人公は12歳。すでに大人な部分もあって、イマジナリーフレンドを想像することもなくなっている年ごろのような気がします。でも、本当はそのぐらいの年齢の子こそ実は不安定でイマジナリーフレンドのような存在が必要だったりするのかなと思ったりもします。インターネットやSNSをやっている子も多いだろうから、それこそ自己肯定感を満足させるために、なんでも肯定してくれるキャラクターがいたらいいとか思ったりするのかな、なんて想像したり。ビーの年齢よりもちっちゃい子たちは、いろいろなキャラクターを見て単純に楽しめると思うけれど、逆に、ビーくらいの年齢の子がどのように観るのか興味があります」。

ビーと同じ年齢の子たちが『ブルー 君は大丈夫』を観てどう感じるのだろうか? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ビーと同じ年齢の子たちが『ブルー 君は大丈夫』を観てどう感じるのだろうか? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

本作では脚本も務めているクラシンスキー監督は、頭のなかで脚本を書き進めながら、監督目線で演出も同時につけ、映画全編が見えた時点で一気に書き上げるというやり方だ。「僕はイラストも描くので、すごく近いやり方かもしれません。ただ、頭のなかで描くので、映像はすべて僕の頭のなか。だから、プロットの段階では説明不足で伝わらなかったりすることもあります(笑)」と苦笑い。

「すみっコぐらし」の脚本を手掛けた角田貴志は脚本家目線で『ブルー きみは大丈夫』をどう観た? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
「すみっコぐらし」の脚本を手掛けた角田貴志は脚本家目線で『ブルー きみは大丈夫』をどう観た? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

大事にしているのは「どんな作品でも、キャラクターなり物語なりの配置は結構考えます。『すみっコ』であれば、単純に無邪気にかわいいとかそういうことだけじゃなく、いまの時代、現実に接続できればと頭のすみっこに置きながら書きました。それが出来上がった作品への感想につながっていることもしっかり実感できています」とのこと。脚本家、大人など様々な目線で『ブルー』を楽しんだ角田だが、「いろいろなバリエーションのキャラクターを楽しんでほしいですね。僕もわりとそこですごく満足したところもあるので(笑)。キャラクターを楽しむって、言語化したり、批評のポイントにはならなかったりするけれど、それだけで楽しいってすごくいいなと思えました」と満面の笑みを浮かべ、「そういった部分こそ、大人も単純に“現実逃避”できるポイントです」とおすすめした。

映画『ブルー きみは大丈夫』(公開中)の大人に刺さるポイントとは? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
映画『ブルー きみは大丈夫』(公開中)の大人に刺さるポイントとは? [c]2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

取材・文/タナカシノブ

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