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『ルックバック』や『帰ってきた あぶない刑事』も。2024年の「バディ映画」から見えてくる多様性と変化

  • 2024.6.21
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2024年に続々と「バディもの」の映画が誕生していることにお気付きでしょうか。『ルックバック』『帰ってきた あぶない刑事』などから、バディ映画の変化と多様化を語ってみます。(※サムネイル画像出典:(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会)
2024年に続々と「バディもの」の映画が誕生していることにお気付きでしょうか。『ルックバック』『帰ってきた あぶない刑事』などから、バディ映画の変化と多様化を語ってみます。(※サムネイル画像出典:(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会)

2024年には、続々と「バディ(相棒)もの」の映画が誕生しています。

2023年にもバディものの最高峰と言える『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』がありましたが、2024年はさらに多様なバディの関係性が描かれるようになってきており、今の時代ならではの変化も感じられるのです。主要な5作品を紹介しつつ、さらなる注目作を紹介しましょう。

1:『ルックバック』(6月28日公開)

『チェンソーマン』で知られる藤本タツキによる、2021年に『ジャンプ+』(集英社)で公開された読み切り漫画のアニメ映画化作品です。予告編での 「原作の絵がそのまま動いている」様に度肝を抜かれた人も多くいましたが、実際の本編では繊細さのあるキャラクターが躍動感たっぷりに動く様も圧巻で、『あんのこと』の河合優実と『カムイのうた』の吉田美月喜の表現力にも涙腺を刺激されました。

(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会
(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会

物語は、学生新聞で4コマ漫画を連載していい気になった小学4年生と、同学年の不登校の少女が出会い、一緒に漫画を描きあげつつ青春を過ごすというもの。年相応のかわいらしさと不器用さのある、正反対の2人の「ずっと見たくなる」ほどの尊さと、その後はいわゆる「共依存」的な危うさが同居する関係性が描かれています。「創作」にまつわる寓話 ( ぐうわ)としても、漫画のアニメ映画化作品としても、1つの到達点といえる傑作です。

(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会
(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会



2:『バッドボーイズ RIDE OR DIE』(6月21日公開)

『バッドボーイズ』のシリーズ第4弾で、物語は亡き上司に汚職疑惑がかけられ、その無実の罪をはらすべく警察官コンビが奔走するも、彼ら自身もまた追われる身になってしまうというもの。かたや常識人、かたやトラブルメーカーなコンビの活躍はユーモラスではありますが、まさに四面楚歌(そか)といえる状況下のハラハラも描かれます。PG12指定にも納得の刺激的なアクション&空の上でのスペクタクルは映画館向けです。

なお、劇中にはウィル・スミスが第94回アカデミー賞で起こした「平手打ち」の事件をメタフィクション的に捉えたようなシーンもあります。その時の彼の怒りは当然だと思う反面、自身のSNSで「全ての暴力は有害で破壊的」と謝罪した通りの問題は残り続けます。そんなウィル・スミスの罪と責任の大きさを踏まえた上での「これから」を、フィクションをもって鼓舞するような優しさが感じられました。

3:『ブルー きみは大丈夫』(劇場公開中)

母親を亡くした12歳の少女が、子どもによって生み出されたイマジナリー・フレンド(空想上の友達)“ブルー”たちの新たなパートナーを見つけるべく、彼らの存在が見える隣人の大人と相棒になり、奔走するという物語です。少女がちょっと頼りなくも見える大人と対等な立場で、誰かのための行動をする様は、「少し背伸びをしてビジネスパートナーになろうとしている」ようにも見えて、(ちょっと危うくもあると同時に)尊くほほ笑ましいのです。

設定は『屋根裏のラジャー』に近く、ファミリー向けのように思えますが、実際の作劇とメッセージはどちらかといえば大人向け。悪役は登場せず、淡々と進行する「渋い」タイプの作品なのです。意図的なあいまいに思える描写もありますが、それも「描かれていないことにも想像の余地を残す味わい」「心に不安を抱えた主人公の“創作”の物語」として、個人的には楽しめました。

4:『ドライブアウェイ・ドールズ』(劇場公開中)

ドライブに出かけた2人の女性が、謎のスーツケースを巡った事件に巻き込まれるクライムコメディーなのですが、「これでPG12指定止まりで大丈夫!?」と心配になるほど、遠慮のないバイオレンスとえげつない下ネタが満載の内容で、その印象はさながら汚い『テルマ&ルイーズ』。好き嫌いが分かれるのは間違いないですが、85分の短い上映時間で、いい意味で悪趣味な笑いをサクッと楽しみたい人にはピッタリでしょう。

また、真面目な性格の主人公はレズビアンで、はちゃめちゃな言動をする友人との距離感には悩んでいるけれど、レズビアンであることそのものには悩んでいません。ヤバい状況下でも己の道を突き進んでいく様はどこかすがすがしく、現代にもっとあってほしい「元気が出る明るいLGBTQ+映画」でもあるのです。けんかしつつも仲の良い関係性を求める人にもおすすめです。

5:『帰ってきた あぶない刑事』(劇場公開中)

人気シリーズの8年ぶりの劇場作品です。主人公の2人を演じる舘ひろしと柴田恭兵は現実では70代となり、劇中にも「もう年」な自虐ネタもあって少し切なかったりもするのですが、それ以上に元気で、相変わらずの相棒とのしての距離感や信頼が心地良い……そんな関係性の尊さは、初めて『あぶない刑事』を見る人にも伝わるでしょう。

出色なのは、今回のゲストキャラクターである土屋太鳳。ハーレーを乗りこなす彼女の姿そのものがカッコいいのですが、今もなお独身である主人公2人と、「その2人のどちらかの娘かもしれない」彼女との、格式ばらない「家族」のような、それともちょっと違うような「強制させない」関わりもまた気持ちが良いのです。

ちなみに、「日米あぶない刑事祭り!」と称した、配給会社の垣根を越えた『バッドボーイズ RIDE OR DIE』×『帰ってきた あぶない刑事』コラボ映像が作られていたりもします。くしくも、男性同士の関係性で生まれてしまいがちな、過度に男らしさを誇示したり一方的な価値観を強制する「有害な男性性」からの脱却と思しきシーンがあることも、両者は共通していました。

劇場公開中のバディ映画は他にも!

こうして振り返ると、小学生の女の子2人、少女と大人の男性、レズビアンの女性2人、そしていい年の重ね方をした刑事2人(2作品)と……さまざまな形なバディものが作られていることが分かるでしょう。

さらに、2024年に公開のバディ映画には以下もあり、やはり多様なキャラクター性の関係性が描かれていいます。

『朽ちないサクラ』(6月21日公開)……県警の広報職員の女性×年下で同期の青年。親友の変死事件の謎を追うサスペンスで、ある過去を抱えた上司との関係も重要でした。

『蛇の道』……娘を殺された中年男性×精神科医の女性。復讐のため結託するインモラルなサスペンス。目つきが鋭く淡々と行動する柴咲コウが“恐ろしい”存在感を発揮しています。
『ライド・オン』……スタントマン×馬。ジャッキー・チェンが現実の本人と重なるスタントマンに扮(ふん)して、「家族」ともいえる馬との友情も描かれます。

『辰巳』……裏稼業で生きる孤独な男×姉を殺された少女。『レオン』的な危うい関係性でのバイオレンスサスペンスが展開します。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』……タイトル通り2大怪獣が共闘。「もはやヤンキー映画」「セリフがないのに何を言っているのかが分かる」ことも話題に。

『違国日記』……変人な小説家の女性×利発な15歳の少女。歳の離れためいとの共同生活での変化が描かれます。
『マッドマックス:フュリオサ』……孤独な女戦士×警護隊長の男性。中盤からの共闘。後の『怒りのデス・ロード』での主人公の関係にもつながっていることも話題に。

『デッドデッドデーモンズデデデデストラクション』(前章/後章)……不思議ちゃんっぽい女の子×真面目に見える女の子。明日死ぬかもしれない絶望的な世界で友情を超えて「絶対」になる関係性が描かれます。

「距離が離れていても影響し合う」2人の関係性が描かれた映画も

バディものというジャンルからは少し離れるかもしれませんが、物理的な(精神的にも)距離は離れている、それでも強く影響し合う2人の関係性が描かれている映画もあります。

例えば、6月21日公開の人気エッセイの映画化作品『九十歳。何がめでたい』で描かれるのは、人生崖っぷちの編集者が断筆宣言をしたおばあさんの元を訪ね続けていること。その後はなんだかんだで気の置けない関係になるのがほほ笑ましかったりもするのです。

さらには、以下もいい意味で「近すぎない」関係性が面白い映画でした。

『数分間のエールを』……MV制作を始める高校生とミュージシャンを諦めたばかりの教師。夢について正反対の2人の夢への絶望と希望が交錯します。
『碁盤斬り』……立場が異なるも囲碁をしている間は「清廉潔白」な間柄になるおじさん2人の友情。後半ではそれを打ち砕く事態が描かれるけ れど……?
『ディア・ファミリー』……娘を救うために大学を訪ねる工場の経営者と、人工心臓が10年でできるわけがないと冷静に考える学生。2人の考えは正反対だけれど……?

主要登場人物は3人だけど、「2人になった時はまさにバディ」な映画も

さらには、基本的には主要登場人物を3人に絞った上での関係性を描きつつ、2人になった時はまさにバディに思える映画も公開されています。

『チャレンジャーズ』……テニス界の元スター選手と、彼女を愛する親友同士のテニス選手の10年以上の愛情を描いた物語。下世話な三角関係が描かれつつ、ラストには今までにない衝撃的な映像と決着が!

『ホールドオーバーズ置いてけぼりのホリディ』(6月21日公開)……嫌われ者の教師、母親が再婚した学生、息子を亡くした食堂の料理長の3人がクリスマス休暇を寄宿学校で過ごす。「この時だけ」の関係性を描いた物語が染みる1本です。

今後はアメコミ原作のヒーローのバディものが続々!

さらに、今後の期待作は、アメコミ原作のヒーロー映画。くしくも3本がバディものだったのです。

『デッドプール&ウルヴァリン』(7月24日公開)……破天荒な言動ばかり×マジメな2人の相性は最悪(?)。7月26日のアメリカの公開日から“2日前倒し”になったことも話題に。

『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』(10月11日公開)……悪役ジョーカーと、その恋人であるハーレイ・クインが登場。日本でも興行収入50億円を超える大ヒットとなった『ジョーカー』の続編です。

『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(11月1日公開、10月25〜27日先行上映)……今回も中年男性×奇声生物の夫婦漫才も見どころなのは間違いない、シリーズ第3弾にして完結編です。

そして、こうして2024年のバディものを振り返ると、型通りの「友人」「恋人」とは異なるばかりか、さらには「相棒」というくくりとも違うとさえ思えたりもする、複雑で豊かな関係性を紡いだ、やはりバディものの変化と多様化が進んでいるように思えるのです。

創作物の関係性から、「こういうのもいいなあ」と現実で似た関係性を築いたり、そもそも現状で築いている関係性を大切に思うことも、いいことなのかもしれませんよ。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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