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美学のある人になるために、必要な「勇気」とは?

  • 2024.6.20
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フィガロジャポンは、フランスの「アール・ドゥ・ヴィーヴル(Art de Vivre)」という考え方を大切にしています。自分の感性をもとに知恵と工夫を凝らして何気ない日常を楽しくするーー「暮らしの美学」とも訳されるこの考え方は、国を超えて、すべての人の中にあり、その人の生き方を豊かにするものです。

そんなアール・ドゥ・ヴィーヴルについて考える新連載「アール・ドゥ・ヴィーヴルを探す旅。」(全4回)。プロフェッショナルコーチの畑中景子さんと一緒に、人生を豊かにしてくれる、あなただけのアール・ドゥ・ヴィーヴルを探してみませんか?

 

自分を満たすために、「選択する」ということ。

文/畑中景子

前回の記事では、アール・ドゥ・ヴィーヴルの種を見つけるべく、自分が惹かれるものを思い出していただきました。それを楽しんでくるという宿題をやってみて、いかがでしたか? 少しずつでも、自分を満たしてあげた時の感覚を体験できているといいな、と思います。

この感覚が、アール・ドゥ・ヴィーヴルを育てていくためのコンパスになります。今回は、そのコンパスに従って、「選択する」ことをやっていきましょう。

クライアントとコーチングセッションをしていると、「ランチの店は、同僚に合わせている」「夕食の献立は、家族が食べたいものにしている」とおっしゃる方がいます。

では、「自分が食べたいものは何ですか?」と質問すると、答えに困っている様子。さらに訊いていくと、「考えるのが面倒」「行きたい店はあっても、相手の希望を尊重しておいたほうが楽」「付き合わせるのは申し訳ない」など、その事情はさまざまです。

たかだかランチの話。ですが、意識していてもしていなくても、何かを積極的に選び取っていない時ですらも、私たちの生活は、日々、選択の連続です。上の例では、「自分で考えることを手放す」、「自分よりも相手の希望を優先する」、「希望はあるけれど言わない」などの選択をしています。

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毎日の生活や職場を振り返ってみてください。今日何を食べるか、何を着るか、どこに行くか、誰と会うか、何をするか......。どれくらい自分自身で自分を満たすための選択をしているでしょうか?

選んでいるようでいても、無難そうな服にする、断りづらいから行く、人に誇れるものだから買う、そうしないと嫌われそうだからするなど、状況に合わせていくために、あるいは条件で選んでいる、ということはないでしょうか。積極的に自分の好き・嫌いで選択している場合はどれくらいあるでしょうか。

「嫌いなことは全部投げ捨てて、好きなことだけして生きよう」と言っているわけではありません。生活や人生の中では、もちろん折り合いをつけたり、やりたくないことをやらなくてはならない時もあります。ただ、その時の選択に意識的でいましょう、ということです。

「早く帰るつもりだったのに、仕事を頼まれたので残業になった」というのと、「今日は早く帰って大切な人と過ごしたかった。けれども、私は困っているチームを助けることを選んだ」ということの間には、大きな違いがあります。

外側の行動だけを見れば、どちらも残業していることに変わりはないのですが、内側のあり方はまったく異なります。前者でいる限り、状況や相手の被害者になってしまいます。一方、後者は自分の物語を自分で描く人です。目には見えませんが、残業をする前に、ワンクッションあります。仕事を断る、という選択肢も、ここには立ち現れています。断れないという癖は、それはそれでコーチングのテーマとしてもよく登場するものですが、まず「断る」という選択肢が自分にあることに気付くだけでも大きな一歩と言えます。

自分の感覚で選択していく。

まずは、選択しているということに意識的になってみましょう。そして、次は、自分の気持ちに素直になって選択していってください。まずは、最も簡単にできるところから。

スーパーに行ったら、自分が食べたいものを買う。本屋では、「これを読んでおかないとな」ではなくて、心が惹かれる一冊を買う。洋服も、「これが流行かな」ではなく、ときめく一着を買う。

「嫌いなはずだけど、なぜか気になる」という場合もあるかもしれません。その時は、「惹かれている」という事実を認めてそれを選んでみましょう。

わからなくなったら、頭ではなく、心と身体に訊いてみましょう。続けているうちに、自分がうれしい時の心身の感覚がより強く感じられるようになってきます。また、自分が喜ばないものを選択した時の感覚にも気付くようになってきます。

このように自分が満たされている感覚のことを、Co-Active®コーチング(筆者がファカルティを務めているCTIのコーチングの手法)では「響いている(Resonant)」と表現します。

自分の響きに従って選ぶことは、勇気が必要なことも少なくありません。「今日は珍しい服を着ているね」「そういうのが好きだったんだ」と驚かれるかもしれません。

でも、もしかしたら、「今日の感じ、素敵だね」「最近、楽しそうだね」と言われるかもしれません。仮に周囲の反応がよくなかったとしても、自分自身が満足しているということが体験できるかもしれません(それは素晴らしい体験だと思います)。

自分の感性に従って選んでみたものの、期待したほど心は弾まなかった、という気付きもあるかもしれません。何事にもハズレはあります。「なるほど、こういうのは違うんだな」と自分についての新しい発見があっただけで大収穫です。

周囲の反応も、自分がどう感じるのかも、実際にやってみるまではわかりません。新しいことをするのは、いつだって多少のリスクは伴います。「自分に素直になって選択する」という小さな一歩を踏み出している、そんな自分を応援しながら、やってみてください。

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NOと言う勇気。

慣れてきたら、だんだんとその範囲を広げていきます。

ふたつ予定が重なったら、「行くべきほう」ではなく「行きたいほう」へ。やることが山積みになっていたら、「響くもの」から。 このように範囲を広げていくと、自然と、何かを断る必要が出てきます。

たとえば、重なった予定の片方にYESということは、もうひとつにNOと言うことでもあります。

この時、試してほしいのは、「先約を優先すべきだから」とか、「断ると雰囲気が悪くなるから」という義務感やあきらめで選択するのではなく、自分にとって大切なほうを選択してほしいということです。

私たちは、人間関係を壊したくないと思えば思うほど、NOは言いづらいと感じます。「付き合いが悪い人と思われたらどうしよう」「もう誘ってもらえなかったらどうしよう」「相手をがっかりさせたらどうしよう」などいろんな心配が渦巻きます。

NOと言うことは、それ自体が誰かを傷つけたり、人間関係を断絶するものではありません。むしろNOと言いながら、関係を深めることも可能です。NOの背景を話せば、あなたが何を大切にしようとしている人なのかが相手により伝わります。それは、あなたのアール・ドゥ・ヴィーヴルが、自分だけではなく相手にも垣間見える機会でもあるのです。

上の例で、先約を断らなければならない時、あなたのことを大切に思ってくれている人たちならば、事情を話せば、きっと「そんなに行きたいところがあるなら行っておいで」と理解してくれるはずです。その人たちも、あなたが幸せになるのを邪魔したいわけではないのですから。

「今回はごめんなさい。ほかの日はいかがですか?」「こういうのは苦手です。でも、こんな機会だったら行ってみたいと思います」など、自分の望みを通すだけでなく、自分とその人の希望の両方をかなえる方法を一緒に考えることもできます。

逆に義理を優先して行って、つまらなさそうにしていることほど、お互いにとって不毛なものはありません。

もちろん、断ることで次の機会がなくなるということもあるでしょう。嫌われることもあるかもしれません。そうしたら、それはそこまでの縁ということなのかもしれません。これは人間関係だけではなく、仕事など、ほかの局面でも同じです。

「この仕事よりも、もっとこちらをやってみたいと思うのです」と、NOだけでなく、何にYESなのかを伝えれば、周囲の人にも、あなたが何を大切にして、何のために働こうとしているのかが伝わります。察してもらおうとするのではなく、自分から、何がYESなのかを伝えてみましょう。その小さな一歩の積み重ねが、あなたのアール・ドゥ・ヴィーヴルを創っていきます。

では、今回の宿題です。自分が喜ぶ感覚に素直になって選択し、大胆に行動してきてください。

少しの勇気を持ってみて。「大胆」というのは自分基準で大丈夫です。新しい場所に飛び込むことにドキドキする人もいますし、愛を伝えることに勇気が必要な人もいます。自分なりのチャレンジをしてみてください。

「これをやって何になるの?」という声が聞こえてきたら? 初回から読んでくださっている方なら、もうおわかりですよね。「いまは、アール・ドゥ・ヴィーヴルを見つける旅の途中だから」と言っておきましょう。

ではまた1週間後に!

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畑中景子/ Keiko Hatanaka

プロフェッショナルコーチ、CTIジャパン ファカルティ。プロフェッショナルコーチとして、経営者や起業家を中心にリーダーシップの意識の目覚めと可能性の開花を支援しているほか、世界最大の体験型コーチトレーニング及びリーダーシップ開発機関CTI(The Co-Active Training Institute)にて、ファカルティとしてトレーナーを務める。CTI認定CPCC。国際コーチング連盟認定PCC。INSEAD MBA。ポッドキャスト「独立後のリアル」パーソナリティ。神保町PASSAGE「ここみち書店」店主。@keikotrottolina

 

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