1. トップ
  2. 山田裕貴インタビュー「演じたケンに対して、共感しかなかった」<「Ultraman: Rising」>

山田裕貴インタビュー「演じたケンに対して、共感しかなかった」<「Ultraman: Rising」>

  • 2024.6.19
  • 66 views
主人公・サトウ・ケン(ウルトラマン)の日本語吹替えを担当した山田裕貴 (C)宮川朋久
主人公・サトウ・ケン(ウルトラマン)の日本語吹替えを担当した山田裕貴 (C)宮川朋久

【写真】ウルトラマンと赤ちゃん怪獣・エミとの”親子愛” 「Ultraman: Rising」キーアート

円谷プロとNetflixが共同製作したCGアニメーション長編映画「Ultraman: Rising」が、Netflixにて世界190ヶ国で独占配信中。この作品は、半世紀に渡り世界で愛され続けているウルトラマンの“親子愛”や“家族愛”をテーマにした、老若男女誰もが楽しめるオリジナルストーリー。CGアニメーションを「スター・ウォーズ」「ジュラシックパーク」などを手がけた“インダストリアル・ライト&マジック(ILM)”が担当しており、戦闘シーンの描写も大迫力だ。今回、日本語吹替え版のサトウ・ケン(ウルトラマン)を担当したのは、俳優の山田裕貴。「サトウ・ケンと自分には共通点が多い」と言う彼に、作品に対する想いや初の吹替えの苦労などをアツく語ってもらった。

親近感が湧く、人間味溢れるウルトラマン

今作のウルトラマンは、非常に人間味溢れるキャラクター。人間の姿のサトウ・ケンの時はもちろん、ウルトラマンとして戦っている最中も愚痴ったり弱音を吐いたり…。感情をストレートに表す点に親近感を覚える視聴者は多いはず。そして、赤ちゃん怪獣の世話をするハメになってしまい、慣れない日常にヘトヘトになる様子など、パパママ世代にも共感できる展開もあり、従来の「ウルトラマン」とは一線を画している。

ウルトラマンが子育て!?

サトウ・ケンは読売ジャイアンツのスター選手。知られざる彼のもう1つの姿はウルトラマン!ある日、強大な怪獣・ジャイガントロンと戦っていたところ、その子供を連れ帰らざるをえない状況に…。エミと名付けられたその赤ちゃん怪獣を、野球選手、ウルトラマン、新米パパ、と1人で何役もこなしながら育てるケン。孤軍奮闘する中で、彼は疎遠になっていた父親との関係や“ウルトラマンである事”の本当の意味と向き合っていく、というストーリーだ。

ウルトラマン(サトウ・ケン)は、赤ちゃん怪獣・エミを育てる事態になる… Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
ウルトラマン(サトウ・ケン)は、赤ちゃん怪獣・エミを育てる事態になる… Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ

サトウ・ケンと山田裕貴の共通点

――ケンに対して共感する部分が多かったそうですが、どんな点でしょうか?

山田 サトウ・ケンという人間に対してもですし、父親との関係性についても、自分にスゴく似たものを感じました。ケンは幼い頃、お父さんが仕事で家に居なくて、本当は甘えたかったけれど…みたいなところがありますよね。僕も子供時代、プロ野球選手の父が試合で1年の半分以上家に居なくて、寂しかったり、自分の想いを上手く伝えられないまま育ったので「ものすごくシンクロ率高いなぁ。シンパシーを感じるなぁ」と思いました。

――山田さんは、どんなお子さんだったんですか?

山田 とにかく父が厳しかったので、反抗期も無かったんです。逆らって殴られたとかは無いですけど、怒られたりすることを怖がって、本心を言えなかったんですよね。だから、両親からしたら何を考えているのか、分かりづらい子供だったと思います。でも中学生の時、家出して友達の家に一晩泊めてもらった事がありました。その友達と一緒に地図も見ずに、川沿いをまっすぐチャリンコで走った思い出があります(笑)。

――お父さんとは、あまり話さなかった?

山田 別に仲が悪いとかではないんですけど、僕の性格上、コミュニケーションを取るのがあまり上手くなくて。親父も寡黙なタイプなので、休日にキャッチボールに誘ってくるという事も無かったです。今思えば、親父なりに愛してくれていたんだな、というのはスゴく分かるんですけど。会話が多くなくても、テレビ番組やドラマ、映画、ゲームなど色々な話をしていました。

――ゲームもですか!?

山田 「案外この人、ゲームするんだな」ってくらい、僕のゲームを勝手にやっていたりしたんです。しかも、どんどん先に進めちゃって、「何で先にクリアするの!?」って(苦笑)。

――持ち主より先に(笑)。

山田 そういったエンタメ面では色々と話をしていたので、僕が俳優になろうと思ったのも、親父に見てもらいたかったからなのかもしれません。

――承認欲求のような…?

山田 そうです。ケンも同じですよね。ケンはハッキリと感情をぶつけて、「もっと見て俺の事を気にしてくれよ」と表現するので、僕とは異なりますが、共感する部分です。

――他にもケンと似てる部分はありますか?

山田 野球選手と俳優という違いはあるけれど、人の目に触れるお仕事をやっている身として、表に立つ自分と普段の自分とのギャップや葛藤という部分は、とても共感しました。

 主人公のサトウ・ケン Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
主人公のサトウ・ケン Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
 保育士になりたかったほど子供が好きなんだそう (C)宮川朋久
保育士になりたかったほど子供が好きなんだそう (C)宮川朋久

エミとのシーンで初めて感じた父性

――今回、(赤ちゃん怪獣のエミを育てた)ケンを通して間接的に子育てを体験したワケですけど、大変さを実感しましたか?

山田 いやいやいや、世のお母さん方には絶対に頭が上がらないので、間接的に経験したなんて言えないです。ですが、僕の周りにも親になったという人が増えてきて、その人達の話を聞いたり、彼らの子どもを見たりしていると、本当に計り知れない大変さと愛情がそこにあるんだなと感じます。僕は、保育士になりたかったぐらい子どもが好きなんですが、好きっていう気持ちだけでは乗り越えられないくらい育児って大変なんだろうなって思いました。

あと、エミが敵に鎮静剤を打たれてしまうシーンがあるのですが、セリフを言いながら、本当に腹が立ったんですよ、自分の子供ではないのに。「ふざけんな!!」って。「あぁ、コレが父性なんだろうな」と初めて抱いた感情でした。もし自分に子供が居たらと想像しながら、エミとのシーンを演じたのですが、きっとケンと同じような感情を抱くんだろうなと共感していました。

「ヒーローだって完璧じゃない」

――子育てと本来の仕事との両立とか、今回のウルトラマンは今までに無い描かれ方ですよね。

山田 スゴく面白いな、と思います。でも、過酷すぎますよね。ウルトラマンって怪獣を倒さないといけないので、絶対にウルトラマンをやっているだけでも大変だと思うんです(笑)。なのに、それに加えて野球選手もやらなければいけないし、スーパースターだからカッコよく居続けて子どもたちに夢を与えなければいけない、ってもう何役やっているんだと。だからこそ、拾った怪獣の子どもを自分の手で育てようって思えるケンは素晴らしいと思います。僕だったら、ウルトラマンは辞めてしまうと思うので、彼に対してはものすごくリスペクトしています。

――怪獣と闘ってる最中に、普通のトーンで喋るのも、今までに無いウルトラマン像ですよね。感情丸出しで「チェッ」って言ったり、泣き言を言いながら闘ってるのがスゴく人間味があって新鮮でした。

山田 それがこの作品の良さじゃないですかね。今って、憧れている人を神格化しすぎてしまって、その人が何かミスをしてしまったら一斉に非難してしまう世の中じゃないですか。でも「ヒーローだって完璧じゃないんだ」と思わせてくれますし、今回のウルトラマンでスゴくいいなと思ったのは、怪獣を倒そうとしていないところ。ぶっ飛ばしてはいるけれど、「なぁ、話を聞けよ」って、「このままだとやられちゃうから、おとなしく帰った方がいいぞ」って言えるウルトラマンってなかなかいないと思うんです。「悪だから即倒す」ではなくて、1回話し合おうというスタンスは、僕はスゴく素敵だなって思いました。

 慣れない子育てにヘトヘトのウルトラマン。こんな姿、見た事無い! Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
慣れない子育てにヘトヘトのウルトラマン。こんな姿、見た事無い! Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ

初の吹き替えでパニックになった理由

――今回、ケンを演じるにあたって心がけた事はありますか?

山田 吹替えなので、基本的にはオリジナル(英語版)のケンにテンションを合わせるようにしましたし、「人間である事」は忘れないように演じようと思いました。ケンの成長物語でもあるので、序盤では「ホントにもう限界だ!」という気持ちを表現しました。人間味が溢れていいと思いましたし、ウルトラマンになったからといって声を変えたりすることもしませんでした。

――声優のお仕事はいくつもされていますが、吹替えは今回が初めてですよね。

山田 はい。実は家で練習している時に、僕、パニックになっちゃたんです。例えば、他のアニメーションでは、鉛筆の線画で作られた無音の映像があって、そこにセリフを入れていくんですけど、今回練習用に頂いたのは、オリジナルのケン役の俳優さんの英語でのセリフが入っている状態の物で、その英語を聞きながら日本語の台本を見つめて練習していると、「えっ、今、どこの事言ってるの?」ってなってしまって。そう思っている間に次のシーンに進んじゃったりしていたので、流石に「これヤバいぞ」と思い、友達の(声優の)木村昴くんに、吹替えの練習はどうやったらいいのか尋ねました。

――木村さんのアドバイスは?

山田 まずはその海外の俳優さんが、どういうテンションでそのセリフを言っているのかを把握する。その次は、鼻と口、どっちで息をしているのか、どこでどう痛がったのか、吸って吐いて吸って吐いての回数や秒数も計って、それを全て台本に書く。そこまでしてから、やっと練習だ、と教えてもらいました。練習当初は、日中、他の作品の撮影をしていたので、帰宅してから毎日この作業と格闘していました(苦笑)。

わからない部分が無いほど自分と重なったケンの気持ち

――すごく大変だったんですね…。

山田 いや、格闘しながらもスゴく楽しかったんです。何で楽しかったかと言うと、子どもの頃から観ていたウルトラマンですし、先ほどお話ししたように自分と重なる部分も多かったので、追憶するような感覚もあったんですよね。そのくらいケンの気持ちに共感できない部分が無かったんです。だからこそスゴく「頑張ろう!」っていう気持ちになりました。

――オリジナルのケンのテンションに合わせたとの事ですが、さっき仰っていた父性が生まれたというのは山田さんの感性じゃないですか。そういうオリジナルとは違う感情が生まれた時はどう演じられたんですか?

山田 なるべく元のテンションに合わせて声をあてていったのですが、僕が思うサトウ・ケンもあっていいのではないかという気持ちもあったので、時にその気持ちを優先させていただく事もありました。英語と比べると日本語はあまり流れるように聞こえないですし、音の伝わり方も異なるので、日本語ではこういう音として伝わった方がいいとか、とにかく“音”は大事にしました。

――今回、190ヶ国で配信されて、どこの国でも山田さんの吹替えも選択できるんですが、世界中に自分の声が届くのは、どんなお気持ちですか?「ウルトラマン」は日本のヒーローだから、日本語で観てみたいって人も多いと思うんですよ。

山田 全世界で僕の声を聞いてもらえるんだ、なんて大それた事は考えてなかったですけど、「日本のヒーローだから」と思って日本語音声を選んでくれたら嬉しいです。

 エミと遊ぶケン。2人の間に親子の絆が生まれていく… Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
エミと遊ぶケン。2人の間に親子の絆が生まれていく… Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
 「もし実写化された時は、ケン役をやりたいです」 (C)宮川朋久
「もし実写化された時は、ケン役をやりたいです」 (C)宮川朋久

井ノ原(快彦)さんに会うと「ティガ」の主題歌が歌いたくなる衝動(笑)

――山田さんの「ウルトラマン」の思い出は?

山田 ウルトラセブンが、他のウルトラマンたちと違ってメガネ(ウルトラアイ)で変身するのが印象的で、心に残っています。ティガ、ダイナ、ガイアはずっと観ていましたし、ゼアスは、母に映画館へ連れていってもらいました。アンディ・フグ選手がその映画に特別出演していて、当時K-1も見ていたのでスゴく覚えています。ゼアスが石油会社のCMに出ていたのも、ずっと頭の中に残っているんですよ。あと、「特捜9」(テレビ朝日系のドラマ)で共演した井ノ原(快彦)さんの顔を見ると、ティガの主題歌(V6の「TAKE ME HIGHER」)を歌いたくなっちゃって(笑)。この衝動は何なのか説明がつかないですが。

――目の前で歌った事は無いんですね?

山田 ちゃんとは無いですけど、口ずさんでみた事はあります。「知ってくれてるの?」って喜んでくださって、「(小さい頃)観てたんです!」って。

「俺、ほぼヒーロー制覇してんじゃん」

――そんなずっと観てきたウルトラマンに今回なれたのは、すごく嬉しい事ですよね。

山田 はい。これまで、ゴジラとも戦いましたし(「ゴジラ-1.0」)、戦隊ヒーローにもなって(「海賊戦隊ゴーカイジャー」)、ライダーにも変身して(「スーパーヒーロー大戦」)、次はウルトラマンだ、って思っていたワケではないですが、「俺、ほぼヒーローを制覇してんじゃん」って思ったら、スゴく嬉しくなりました。

――実写化もできたらいいですよね。

山田 ここまでの表現は、アニメーションだからこそだとは思うんですが、いつかできるかもしれませんね。

――実写化されたら、ケン役はもちろんやりたいですよね?

山田 やりたいですね。僕もケンと同じ左バッターですし、元・右バッターなので右でも打てるんです。打席を左右替えるシーンがあるんですけど、「うわっ、できる!」って思いました。それに、僕も外野手だったので「一緒だ!」って思いました。

不本意だったセリフとは…

――ケンは読売ジャイアンツの選手ですけど、名古屋出身の山田さん的には中日ドラゴンズだったら良かったな、とか思いませんでした?(笑)

山田 僕は星野(仙一)監督時代の阪神が好きなんです。作中に「阪神タイガースなんかに!」ってセリフがあるんですけど、「これはフィクション、フィクション…」と自分に言い聞かせながらも、内心「ちょっとやめてよ…」って思いました(笑)。

――山田裕貴じゃなくてサトウ・ケンが言ってるんだ、と(笑)。

山田 巨人に対して負け続けていた頃のドラゴンズの思い出とかもちょっと蘇ってきたりして。でも、自分(ケン)が巨人のユニフォームを着ているのを見ると、優越感が生まれるのは、野球をやってきたからなのかなと思います。実際に自分が着ているワケじゃないんですけど(笑)。

山田が「優越感が生まれた」と言う、ジャイアンツのユニフォーム姿のケン Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
山田が「優越感が生まれた」と言う、ジャイアンツのユニフォーム姿のケン Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ

休みなくオファーを請ける原動力は「ありがたさ」

――山田さん、「令和タレントテレビドラマ出演本数ランキング」(ニホンモニター調べ)で、274本で1位じゃないですか。ずっと休まずに出演を続ける原動力やひっきりなしに来るオファーが来ることに対しての心境はいかがですか?

山田 僕が選べる立場では全然無いですが、お話を頂けるのはもう感謝でしかないです。原動力というか、その作品に対しての熱意みたいなモノは「ありがたい」という事しか無いですね。

――でも、作品が続くと、自分の引き出しから出すばっかりになりますよね…。

山田 これまでずっと走り続けてきて、目の前の自分の事で精一杯だったので、今後は少し余裕のあるペースにしていこうと思っています。自分の時間を作って、仲間と遊んだり、次回作の原作を読んだり…。やってみたい作品のアイデアを考えて、実現に向けて準備したりするのもできたらいいなと。これまで時間が無くて諦めてしまっていた事をする時間を確保しつつ、活動していこうと思っています。

――そんな山田さんが今、ウルトラマンに助けてほしい事は何ですか?

山田 スケジュールの調整ですかね(笑)。マネージャーを手伝ってあげてほしいです(笑)。

◆取材・文=鳥居美保

ウルトラマンは究極のべビーシッター!? Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
ウルトラマンは究極のべビーシッター!? Netflix映画 『Ultraman: Rising』 Netflixにて世界独占配信中 (C)円谷プロ
元記事で読む
の記事をもっとみる