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スティーヴン・キング絶賛の犯罪小説シリーズ、完結編にして作家最終作! マフィアの抗争からラスベガスへ逃れた主人公に待ち受けるものは?

  • 2024.6.18
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ダ・ヴィンチWeb
『終の市(まち)』(ドン・ウィンズロウ:著、田口 俊樹:翻訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

ドン・ウィンズロウ『終の市(まち)』(田口俊樹:翻訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)は、『業火の市』『陽炎の市』に続くダニー・ライアン3部作の完結編であり、今作をもって作家を引退するドン・ウィンズロウ最後の壮大な犯罪叙事詩である。

1986年のロードアイランド州プロヴィデンスで幕を開ける第1作『業火の市』は、同地で長らく共存関係にあったアイルランド系とイタリア系のマフィアが些細な諍いから血で血を洗う凄惨な抗争へと発展する。アイルランド系マフィアの片隅に身を置いていた主人公のダニー・ライアンもその渦中へと否応なしに引きずり込まれていく。

第2作『陽炎の市』では、ダニー・ライアンは仲間たちとともにプロヴィデンスを離れロサンゼルスのハリウッドへとたどり着く。華やかなショービジネスの裏側で繰り広げられる策謀と果てしなき欲望は彼らを再び暴力の世界へと呼び戻す。

そして3作目となる『終の市』は舞台を1991年のラスベガスに移し、カジノとホテル経営で名を成して名士となったダニー・ライアンは合法的なビジネスの世界で自身の“夢”をその手に掴もうとする。しかしライアンは己の過去から自身を遠ざけることはできなかった。

冒頭、ダニー・ライアンは古いカジノホテルの爆破解体を眺めている。そして彼はその爆破を“内破”と呼ぶ。内側からの破壊だと。

内側からの破壊は本3部作を通して描かれるテーマだ。ダニー・ライアンを取り巻く人々やコミュニティ、そして彼が築き上げようとするものは、外側だけでなく内側にも脅威を抱えている。そしてひとたび“内破”が起こると崩壊を防ぐことができない。本作はライアンが贖罪とともに、過去2作でも辛酸を舐めたいつ起こるともしれない“内破”への恐れを理解することで、よりダニー・ライアンの心情に寄り添うことができるだろう。

また、暴力と争いの最中にあっても道徳心と救いから和解を模索するライアンはとても魅力的だ。

前2作と打って変わりギャンブルの街ラスベガスを舞台にビジネスの世界を描きだす本作は、過去への贖罪を胸に、頑ななまでにクリーンなビジネス手腕で成り上がろうとするライアンの勤勉ながらも危うく切ない姿が心に残る。また舞台となるラスベガスはその昔にマフィアによって牛耳られていたものの時間をかけて裏社会の支配を排除してきた歴史があり、だからこそダニー・ライアンの過去とその人生をラスベガスと重ねずにはいられない。ラスベガスはまさにダニー・ライアン3部作の終焉を迎えるにふさわしい舞台なのだ。

本作を最後に引退を表明している著者のドン・ウィンズロウは1991年に『ストリート・キッズ』(東京創元社)の探偵ニール・ケアリー・シリーズでデビュー。2005年に出版されたメキシコ麻薬カルテルと捜査官アート・ケラーの攻防を描いた『犬の力』から始まる『ザ・カルテル』(以上、KADOKAWA)、『ザ・ボーダー』の3部作や『ダ・フォース』(以上、ハーパーコリンズ・ジャパン)などハードな犯罪小説を得意とする作家。

2000年代にも多くの作品を発表し続けてきたが、意外にも2022年に第1作『業火の市』が発表されたダニー・ライアン3部作の構想はニール・ケアリー・シリーズを発表していた90年代まで遡る。本3部作は長年にわたって執筆が続けられ、実に30年近い時間をかけて『終の市』でここに完結する。

稀代の作家ドン・ウィンズロウの最後の作品を噛み締めるように読んでほしい。

文=すずきたけし

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