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自分はマジョリティ? マイノリティ?──Z世代アクティビスト2人の人種差別をめぐる対談

  • 2024.6.18

Emiru Okada(以下、Emiru) 日本で育ち、現在は大学院で人権法について学ばれているメリッサさんですが、日本におけるマイノリティーとマジョリティーの違いはなんだと思いますか?

Luna Melissa Isomoto(以下、Melissa) 人数的な比較もあるかと思いますが、権力関係において支配している人や、声をあげられない人など、そもそもマジョリティとマイノリティをしっかり分けることは難しいと感じています。それこそ私は人種的なマイノリティではあっても、都市部に住んでいたり、健常者であったりとマジョリティとしての側面もあるので、流動性があることを念頭に置くべきだと思います。つまり、マイノリティ属性に関して問題提示はするけれど、だからといって自分のマジョリティ性が消えるわけでもない。これは逆も然りだと思います。

Emiru 皆、両方の属性が混合して成り立っているということですね。私は女性という点ではマイノリティでも、日本では人種的にはマジョリティになります。一方で、今住んでいるアメリカでは「モデルマイノリティ」と呼ばれ、どうすればほかのコミュニティの声を消さずに拡声器になれるか模索中です。人種差別や入管問題を中心にアクティビズムに関わられていますが、声を上げていく上で難しいと感じていることとは。

Melissa 日本に住んでいると、同じミックスでも日本社会に同化しやすい人とそうではない人がいますが、私は外見上馴染むことはありません。ただ、日本国籍を持ち、日本語を話せて自分の権利を制限なしに主張できるというマジョリティ性を自覚しています。だからこそ責任も感じています。自分は黒人系のルーツを持つ女性であり、プラットフォームを持つ環境に巡り会えたけど、コミュニティの代表ではないし、すべてのことを代弁できるわけでもありません。でもメディアや外部の方々からは自分が代表のように扱われるので、発言の仕方や内容の責任は重く感じています。

「均一化されたマイノリティ」に潜む危険性

大学院生でアクティビストの礒元メリッサ瑠奈。Photo_ ©︎Kate Jung
大学院生でアクティビストの礒元メリッサ瑠奈。Photo: ©︎Kate Jung

Emiru 日本の入管法にしてもそうですが、人権が守られなかったり、マイノリティの存在が「なかったこと」とされてしまっていることを度々目撃します。その原因なんだと思いますか。

Melissa 人種的マイノリティをめぐる問題においては、人種差別や外国人嫌悪がまだあるからだと思います。日常生活のなかに隠されたマイクロアグレッション(無意識の差別)や偏見が出てくるのも、その一例にすぎません。そしてマイノリティの中にも多様な属性があるのに、大雑把なカテゴリーが作られ、レッテルをはられてしまう。そのせいで、その中の多様性や権力関係が軽視されている気がします。「インターセクショナリティ(人種や性別、性的指向、階級や国籍、障がいなどの属性が交差したときに起こる、差別や不利益を理解する枠組み)」という言葉が、Black Lives Matter運動が起きた2013年頃から注目されるようにはなりましたが、未だ個人の多様な属性が認識されず「全員女性」「全員People of Color」と大きく括られるからこそ、マイノリティが均一化され、疎外される人が出てくるのだと思います。

Emiru メディアでも注意しなければいけないのが、一人の経験が象徴的な例として伝わってしまわないようにすることだと感じています。「自分には関係ない・他人事」という考え方を助長しかねない。

Melissa そうですね。例えばミックスという共通点があっても、ルーツや居住地など、さまざまな理由で経験してきたことは違うのに、その相違点を無視するのは危険です。同じミックスルーツの方と討論して意見が食い違うこともあるけれど、背景が違うから当然。また、ブラックルーツだというだけでスポーツやエンタメの分野で期待されたり、サクセスストーリーを期待されたりすることもあります。

自らの権利を社会のためによりよく使うには

Blossom the Media編集長の岡田笑瑠。
Blossom the Media編集長の岡田笑瑠。

Emiru 最近、レイシャルプロファイリング(人種や肌の色、国籍などを理由に相手を選ぶ職務質問)についてようやく取り上げられるようになったことは前進だと感じています。ですが、SNSのコメント欄では「仕方がない」「普通に考えて、夜道に高身長の黒人男性がいたら怖い」といった意見や、「舐められないようにドレッドヘアにした」などの発言が散見し、とても驚き言葉を失いました。

Melissa 私も見ましたが、複雑な問題すぎてどこから言及してよいか困惑しました。例えば、性犯罪刑法の問題点など、社会の構造に原因がある問題も個人の問題にされ、人権が軽視されてしまっている気がしています。

Emiru 自分のマイノリティ属性のために誰かを犠牲にしてはいけない、ということを理解するには自分のマジョリティ属性も把握していないといけません。自らの権利や社会における声の大きさなど、誰もが一度考えられたら──。メリッサさんは、どのように自らの権利をマイノリティの人たちのために使えると思いますか?

Melissa これについてはよく考えますが、私がこれほど発言できるのは、学生であり、言える環境にいるから。新社会人の友人は、職場で差別を経験したり目撃しても、声を上げられない環境にいると言います。指摘するのは勇気がいるし、性格的に言えない人たちもいます。でも、自分の言葉で表現できなくても、記事や投稿を引用したり拡散することはできると思います。直接的に言えないときは「こう言う話があってね」と話を振ってみるとか。

毎日が世界難民の日だと思って

Photo_ Satoshi Minakawa
Photo: Satoshi Minakawa

Emiru 今日からマイノリティコミュニティーを支援できる方法を教えてください。

Melissa Blossom the Mediaが行っているような情報拡散は一つ。土台となる知識量が異なる人と対話するためにも、いろんな投稿を読んだり、いいね・リポストしたりする。私もコロナ禍では、情報共有に力を入れていました。安全だと感じるコミュニティで、会話を始めることも大事です。日常会話に少しづつ入れてみると、より話しやすい環境に繋がると思いますし。インプットも大事だけど、アウトプットする場所がないのは残念ですから。あと、難民の日にだけ難民の話をするのではなく、問題が起こる前から、そして再び起きないように日頃から話していくことが必要。

Emiru 無知が生んでいる問題ってたくさんあるけれど、知らないことを理由に、重要な問題について会話がされないことを避けるためにも、私は情報拡散を第一に行っています。対話をして、意見や価値観を共有すると知識を深められるし、無関心と無知を解決できるのではないでしょうか。

Melissa その際に注意すべきなのが、受け身ではいないということ。会話をする際にマイノリティには必ず耳を傾ければいけないけど、「何も知らないから教えて」と求めると、その人たちの負担が圧倒的に大きくなってしまう。先に調べて疑問に思ったことなどは気軽に聞いて欲しい反面、全部聞かれると疲れてしまうこともあるので、前提の知識をある程度インプットしてから対話してほしいですね。

Emiru メリッサさんの「守りたい未来」とは?

Melissa 繰り返し起きる問題に向き合うのは疲れますが、現状をどうにかしようと頑張る人たちと手を繋いでいたい。そしてより多くの人が安全と感じるスペースができるよう願っています。「人権を守って」と訴えるデモやボイコットなどが非難され、まだまだ独裁的で冷笑的な風潮があるのを感じています。ですが、間違っていることにNOと言える社会であってほしい。だからこそ怒りを消さずに活動を続けて、私たちが経験したことを次世代に受け継がせないように、声を上げなくても済む社会にするために頑張りたいです。

Profile

Luna Melissa Isomoto

明治学院大学法学部卒。現在メルボルン大学のロースクールで人権法を専攻中。Voice Up Japanのメンバーとして反人種差別や入管問題を中心にアクティビズムに関わる。

Blossom the Media

メンタルヘルスをはじめ、人種やジェンダーの差別、政治、気候変動など、わたしたちが直面するさまざまな社会課題についてソーシャルメディアを通して発信し、今ではフォロワー数は7万人を超えるBlossom the Project(2020年4月に中川愛が設立)。そのプロジェクトの一環として、2021年1月に社会運動、芸術、文化を融合するメディアプラットフォーム/ウェブマガジンBlossom the Mediaをローンチ。学生やさまざまな職業に従事するZ世代のメンバーが集まり、岡田笑瑠が編集長を務める。Yuiとの対談の番外編や詳しいバックグラウンドについては、同マガジンをチェック。https://www.blossomthemedia.com/?lang=ja

Text: Emiru Okada Editor: Mina Oba

Pillarno. Asturias.
SAO PAULO, BRAZIL - AUGUST 28_ Avon Global Ambassador, Reese Witherspoon, puts the Women's Empowerment bracelet on Maria da Penha Maia Fernandes, who pioneered the fight against domestic violence in Brazil and inspired the creation of the Maria da Penha Act, during a press conference to spread messages of female empowerment and announce efforts to help reduce domestic violence in Latin America. (Photo By Marcos Jose Issa De Souza/Avon via Wireimage.com)
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