1. トップ
  2. エンタメ
  3. まさに不朽の名作… 月日が経っても色褪せない魅力とは? 映画『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』考察&評価レビュー

まさに不朽の名作… 月日が経っても色褪せない魅力とは? 映画『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』考察&評価レビュー

  • 2024.6.18
  • 1085 views
©2004The Scion Films Phantom Production Partnership
©2004The Scion Films Phantom Production Partnership
©2004The Scion Films Phantom Production Partnership

世界各国で上演されてきた至高のミュージカル『オペラ座の怪人』を、名匠ジョエル・シュマッカー監督が2004年に映画化した本作は、作曲を担当したアンドリュー・ロイド=ウェバーが製作・脚本も手掛け、絢爛豪華な美術や衣装、美しい音楽で情感たっぷりに愛を描いている。

物語の舞台は19世紀パリ・オペラ座。誰からも愛されずオペラ座の地下に棲みついた怪人“ファントム”は、正体を隠したまま、愛するクリスティーヌに音楽を教え、“音楽の天使”を信じる彼女をプリマドンナへと仕立て上げる。

クリスティーヌは幼馴染のラウル子爵に恋心を抱きつつも、素晴らしい芸術の才能を持ちながら孤独を背負うファントムに惹かれていく。程なくして彼女はその仮面の下に隠された秘密を知ることになる。そしてそれを機に、オペラ座全体を震撼させる事件が次々と起きていく。

上記の筋立てをもつ本作は、1870年のパリの雰囲気に存分に浸ることができる上、美しくも悲劇的なロマンスが現実を忘れさせてくれる作品となっている。

本稿では、2024年の今、不朽の名作映画『オペラ座の怪人』を鑑賞する意義について、作品の魅力を紐解きながら解説していく。

©2004The Scion Films Phantom Production Partnership
©2004The Scion Films Phantom Production Partnership

本作は、ガストン・ルルーのゴシック小説が基になっている。初演は1986年ロンドンのハー・マジェスティーズ劇場だ。すぐさまその評判は世界中を駆け回り、1988年にはミュージカルの聖地・ブロードウェイに上陸。ブロードウェイ史上最長のロングラン作品として名を馳せ、2023年に惜しまれつつも35年の幕を閉じた。

実はブロードウェイに上陸した年と同じ1988年に日本で劇団四季による初演が行われている。それ以降、劇団四季は全国各地で断続的に『オペラ座の怪人』を上演している。2024年6月現在は神奈川・KAAT神奈川劇場にて横浜公演が行われており、今もなお人々に感動と興奮を届け続けている。

そんな名作ミュージカルを映画化した本作の主題は「愛」と言えよう。この映画は3人の若者のラブストーリーであり、歌姫クリスティーヌと初恋の相手・ラウルとのロマンティックな恋を描くと同時に、クリスティーヌが怪人“ファントム”の魅力に本能的に惹かれていく劇的な瞬間も映し出している。

メガホンをとったのは、名匠ジョエル・シュマッカー監督。SFアクション映画『バットマン フォーエヴァー』(1995)や、サスペンス映画の佳作『フォーン・ブース』(2002)など様々なジャンルを手がけてきたが、ミュージカルは新たな試みだった。

愛と憎しみが交錯するこの物語でファントム/エリック役を託されたのはジェラルド・バトラーだ。悲しく寂しい運命を背負うファントムは、恋敵であるラウルとは対照的な暗い魅力を持っている。

ラウル・シャニュイ子爵役に選ばれたパトリック・ウイルソンは、演技もテノールの歌声も美しい実力派。他のキャストを差し置いて、彼の配役がいの一番に決まったという。劇中では、深い愛でクリスティーヌに尽くすラウルの感情を丁寧な芝居で表現している。

ヒロインのクリスティーヌ・ダーエ役には、オーディション当時16歳だったエミー・ロッサムを起用している。7歳の時からメトロポリタンの舞台に立っていた彼女の歌声や演技は非常に素晴らしい。

ちなみに、クリスティーヌ役のエミーとラウル役のパトリックは音楽の経験者だが、ファントム役のジェラルドは正式にレッスンを受けたことがなく、一から始めなければならなかった。しかしながら、そのパフォーマンスはとてもミュージカル初心者とは思えない。優れたパフォーマンスで独自のファントム像を作り上げることに見事成功している。

©2004The Scion Films Phantom Production Partnership
©2004The Scion Films Phantom Production Partnership

『オペラ座の怪人』は、音楽と物語が深く結びついており、天才作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェバーの映画版ならではの仕掛けも堪能したいところ。精鋭揃いの大編成のオーケストラとコーラス、そこにロックのリズムが加わり珠玉の音楽が紡がれていく。

さらに音楽だけでなく、豪華なセットや衣装などビジュアル面も充実している。スワロフスキー社製のシャンデリアを筆頭に、美しい女性の彫像など画面の至るところに見どころがある。

本作で使用された巨大なオペラ座のセットは900人を収容する観客席、舞台、広間、楽屋、衣裳室、厩舎まである。また、オペラ座の地下は水に浸されており、鬱屈した内面の持ち主であるファントムの隠れ家に相応しい雰囲気を形作っている。オペラ座の暗い地下はファントムの複雑な心を可視化しているようだ。

衣裳も豪華そのもの。映画『オペラ座の怪人』には、オペラ、バレエ、仮面舞踏会のシーンがあり、衣装のバリエーションが非常に多い。大勢のキャストが舞う「マスカレード」のシーンでは、白、黒、金、銀で色調が統一されており、ダイナミックかつ統制のとれた視覚表現に圧倒される。

本作では随所に舞台版とは異なるアレンジが加えられているが、本質は変わりなく、小説のエッセンスも受け継いでいる。クライマックスの始まりを象徴するシャンデリアが落下する衝撃的なシーンの撮影では、念入りな準備のもと、実際にシャンデリアを落下させることで、舞台では味わえない緊迫した瞬間を形作ることに成功している。

©2004The Scion Films Phantom Production Partnership
©2004The Scion Films Phantom Production Partnership

先述したとおり、『オペラ座の怪人』が描くのは、普遍的な愛の主題である。それはいつの時代においても人々の心を揺さぶるものである。

現代に生きる私たちも例外ではない。ロマンティックな恋と破滅的な愛との間で揺れるクリスティーヌ。ラウルに恋心を抱く一方、危険な魅力を漂わせるファントムに強く引き寄せられていく姿は共感を呼ぶ。本当の彼を知って、恐れを抱きつつも憐れみの心を持つようになる展開もまた深く頷けるところだ。

他方で、本作はファントムの心情を深く描いていく。大半の場面においてマスクを装着しているからか、観る者はファントムの内面をより一層強く想像するようになる。その果てに、彼の孤独な心情に共感できるというわけだ。

映画『オペラ座の怪人』は、かのように様々な創意工夫を凝らすことで、公開から何年経っても色褪せることなく観る者の心を引き込んでいく。

オペラとミュージカルとの融合、またロックの要素をも組み込んだ本作は、観客を深く心酔させ、非日常へと誘う。実際のオペラやミュージカルに足を運ぶきっかけになり得るという点でも、貴重な作品だ。

(文・藤崎萌恵)

元記事で読む
の記事をもっとみる