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カルティエが日本に最初のブティックを開いて50年。『結 MUSUBI』展で辿るメゾンと日本の半世紀のあゆみ

  • 2024.6.17
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《大型の「ポルティコ」ミステリークロック》1923 年 / ゴールド、プラチナ、ロッククリスタル、ダイヤモンド、コーラル、オニキス、ブラックエナメル / カルティエ コレクション Marian Gérard, Cartier Collection
大型の「ポルティコ」ミステリークロック《大型の「ポルティコ」ミステリークロック》1923 年 / ゴールド、プラチナ、ロッククリスタル、ダイヤモンド、コーラル、オニキス、ブラックエナメル / カルティエ コレクション Marian Gérard, Cartier Collection

カルティエ(CARTIER)が日本に最初のブティックを開いてから50年を記念し、企画展示「カルティエと日本の半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展 — 美と芸術をめぐる対話」を6月12日より開催中だ。左右対称の構造をなす東京国立博物館 表慶館を会場に、建物右側ではおもに「メゾン カルティエと日本」、建物左側では「カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト」という2つの絆を紐解く展示構成となっている。

建物に足を踏み入れると、右側のROOM 1には神社の鳥居(ポルティコ)をかたどった「ポルティコ」タイプのミステリークロックや、日本の印籠を想起させるフォルムのヴァニティケース、トンボをモチーフにした「ドラゴンフライ」ブローチとそのデザイン画など、20世紀前半から中盤にカルティエが発表したアイテムの数々が並ぶ。展示室の奥に進むにつれ、「ドラゴン」がモチーフの20世紀初頭のシガレットホルダーと2014年発表のスケルトンウォッチが並ぶなど、モチーフを同じくしながら作家それぞれが時代を超えて、どのように日本由来のモチーフを扱ってきたのかが見えてくる。

1世紀半も続くカルティエと日本文化の対話

《「日本風の結び目」ブローチ》1907 年 / プラチナ、ゴールド、ダイヤモンド、ルビー / カルティエ コレクション Marian Gérard, Cartier Collection
《「日本風の結び目」ブローチ》1907 年 / プラチナ、ゴールド、ダイヤモンド、ルビー / カルティエ コレクション Marian Gérard, Cartier Collection《「日本風の結び目」ブローチ》1907 年 / プラチナ、ゴールド、ダイヤモンド、ルビー / カルティエ コレクション Marian Gérard, Cartier Collection
《ブローチ》1903 年 / プラチナ、ダイヤモンド / カルティエ コレクション Nils Herrmann, Cartier Collection
《ブローチ》1903 年 / プラチナ、ダイヤモンド / カルティエ コレクション Nils Herrmann, Cartier Collection《ブローチ》1903 年 / プラチナ、ダイヤモンド / カルティエ コレクション Nils Herrmann, Cartier Collection

右側の展示では、1898年から経営に携わった創業者の孫で、美術愛好家でコレクターでもあったルイ・カルティエ所有の日本美術コレクションも展示されている。それらのアイテムに見る自然界をモチーフにした日本の美学と、カルティエのデザインへと展開した動植物のモチーフ。つまり、1974年に初めて原宿のパレ・フランスにブティックをオープンするずっと以前から、日本の表現はカルティエにとってインスピレーションソースであり、そこから多くの作品が生まれたのかがわかる展示構成となっている。

記者発表において、カルティエ現代美術財団ディレクターのエルベ・シャンデスと、キュレーターを務めるエレーヌ・ケルマシュテールは、口を揃えて次のようなことを強調していた。「この展覧会で紹介したいのは、メゾン カルティエと日本の歴史であり、また同時に両者の対話が生き生きと今も続いているという事実。モダニズムが引き継がれ、そこから未来に向けて新しい美の形を追い求める現在進行形であり、未来に向けてものづくりを探求する姿勢をご覧いただきたい」

杉本博司 「春日大社藤棚図屏風」2022 年 / 六曲⼀隻 ピグメントプリント、和紙 201.5 x 586.5 cm
杉本博司 「春日大社藤棚図屏風」杉本博司 「春日大社藤棚図屏風」2022 年 / 六曲⼀隻 ピグメントプリント、和紙 201.5 x 586.5 cm

カルティエ現代美術財団で展示経験のある現代美術家、杉本博司による『春日大社藤棚図屏風』が展示されたROOM 2を抜け、2階へと向かう。過去に日本で5回にわたって開催されたカルティエの展覧会が紹介されており、デザイナーの吉岡徳仁、現代美術家の杉本博司と新素材研究所の共同設立者である榊田倫之らによるメゾンの解釈が、どのように展覧会を彩ったのかを知ることができる。

創作の実験室であるカルティエ財団

2014年以来、横尾忠則はカルティエ財団からの依頼により肖像画を描いてきた。
カルティエと日本 半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展 — 美と芸術をめぐる対話2014年以来、横尾忠則はカルティエ財団からの依頼により肖像画を描いてきた。

建物2階の中央の空間には、横尾忠則がカルティエ財団からの依頼で手がけたアーティストたちのポートレートシリーズより20点が並び、建物左側のカルティエ現代美術財団に関連した作品展示へと誘われる。最初に目に入ってくるのは、三宅一生がフォルムの刷新・再発明をコンセプトに手がけたドレス。1998年にカルティエ現代美術財団が招聘して開催した、『Making Things』展で発表された作品だ。後年、三宅は次のようなコメントを残したという。「私はここで生まれ変わりました。カルティエ財団が、変わる可能性や、考える自由をもたらしてくれたからです」

日本のアートシーンを代表する国内外16人のアーティストの作品が展示。
カルティエと日本 半世紀のあゆみ 「結 MUSUBI」展 ― 美と芸術をめぐる対話日本のアートシーンを代表する国内外16人のアーティストの作品が展示。

財団のディレクターであるエルベ・シャンデスは、「私たちの役割は、多くのアーティストと出会い、作品を紹介し、自由な創作機会を提供することで、さまざまな分野のクリエイションと社会を、あるいは異分野のクリエイターたちをつなぐ場を生み出すことです」と今回の記者発表で話しており、展示のキャプションに記されていた三宅の言葉とシンクロしていることが確認できた。

カルティエ現代美術財団が関わった日本人アーティストとして、村上隆や北野武、森山大道、荒木経惟、宮島達男、森村泰昌など、錚々たる顔ぶれの作品が並ぶ。ジャンルも表現言語も異なる豊かな作品群を鑑賞し、会場入口に戻ってくると、澁谷翔がカルティエ ジャパン50周年を祝うべく制作を依頼されたインスタレーション作品『日本五十空景』が、メゾン カルティエとカルティエ現代美術財団を結ぶ。

澁谷翔が日本全国を旅し、制作した絵画50点の連作『日本五十空景』。
カルティエと日本 半世紀のあゆみ 「結 MUSUBI」展 ― 美と芸術をめぐる対話澁谷翔が日本全国を旅し、制作した絵画50点の連作『日本五十空景』。

歌川広重の『東海道五十三次』にオマージュを捧げるべく、浮世絵師が旅を開始した日本橋に足を運んだ澁谷。日本橋の街の景色は、広重が見たそれとは変わってしまったが、ここから見える空は江戸時代と変わっていないのではないか。そう考えた彼は、35日間をかけて47都道府県すべてを訪れ、各地の地元新聞日刊紙の一面に空の景色を描いて連作を仕上げた。それは、江戸時代の浮世絵師と澁谷翔という現代作家との「結び」のみではなく、カルティエと日本、過去・現在・未来など、オーバーラップする複数のつながり、関係性に言及する作品として、展示を締めくくる。

歴史ある表慶館の建物を訪れ、変化を厭わず前進を続けるメゾン カルティエの、連綿たるクリエイションの探究を味わってみてはいかがろうか。

カルティエと日本 半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展 — 美と芸術をめぐる対話

会場/東京国立博物館 表慶館

会期/2024年6月12日〜7月28日

開館時間/9:30〜17:00(金・土〜19:00)※入館は閉館の30分前まで

休館日/月・7月16日(火) ※7月15日は開館

料金/一般1,500円 大学生1,200円 ※高校生以下、障がい者とその介護者1名は無料

https://www.tnm.jp

Text: Ryohei Nakajima

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