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「熱中症の怖さを伝えても微動だにしない」猛暑なのに冷房をつけない頑固な老親が素直になる必殺フレーズ

  • 2024.6.17
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老親の熱中症を防ぐにはどうしたらいいのか。精神科医の井上智介さんは「高齢者は、体が熱中症になりやすいことに加え、暑くてもエアコンをつけない人も多い。しかし、熱中症の危険を訴えて理屈で説得しようとしても難しい。親にとって、『アメとムチ』のうちの『アメ』は何かを考えて、伝え方を工夫する必要がある」という――。

暑さに苦しむ高齢者
※写真はイメージです
高齢者は熱中症になりやすい

今年の夏も、全国的に猛暑になりそうです。

昨年夏(5月から9月)に熱中症で救急搬送された人は9万人を超え、そのうち約5万人、過半数が65歳以上の高齢者でした。

なぜ高齢者は熱中症になりやすいのでしょうか。

まず、高齢者の体は、もともと熱中症になりやすくなっています。筋肉は、体の熱をつくるほか、体の水分をためておくタンクとしての役割もあるのですが、人の体は加齢にともなって筋肉が落ちます。さらに、のどの渇きも感じにくくなるので、水分補給を怠りやすくなります。このため、筋肉の少ない高齢者は、体内の水分を保持できず、体温の調節をする機能が落ちて、熱中症になりやすいのです。

さらに、年をとると、暑さや寒さを感じ取る感覚も鈍くなります。このため、暑さや寒さに応じて着るものを変えたり、空調で気温を調節する力も低下するのです。

自分の体で暑さや寒さを感じることが難しいので、まずは、表示が大きくて見えやすい、温度計を設置してあげるといいでしょう。体感に頼れない分、室温調節が必要かどうかを温度計の数字ではっきりと「見える化」できるようにしてあげてください。

なかなかエアコンをつけないのはなぜか

しかし、温度計で、気温が上昇しているのがわかっていても、なかなかエアコンをつけない高齢者は多いようです。理由は大きく3つあります。

1つ目は「電気代を節約したいから」。高齢者は、年金暮らしの人が多く、収入が安定していない人もいます。ものの値段も上がっていますし、電気代も年々上がっており、今年は特に値上がりが大きくなっています。そのため、「多少暑くても、我慢すればいい」と、エアコンをなかなか使わないというわけです。

これについては、子供世代も電気代の負担増は苦しいところではありますが、場合によっては金銭的な援助を考える必要があるかもしれません。

2つ目は、「クーラーは体に悪い」という思い込みです。昔から「クーラー病」という言葉があるように、「クーラーは体が冷えるので体によくない」と刷り込まれている高齢者は少なくありません。実際、筋肉の少ない高齢者には、ちょっとした冷風も寒く感じてしまうことがあります。本当は、猛暑が続く近年の夏は、エアコンを上手に使わないことの方が体に良くないのですが、それでも「体によくないから」と、エアコンを使わないことがあるのです。

3つ目は、「昔からの価値観や習慣が変えられない」。窓を開けて自然の風を入れる、庭先に打ち水をする、暑ければ扇風機を使う……。「夏の暑さは、そうやってしのぐべきもの」という価値観が根強く、これまでの習慣がなかなか変えられない高齢者も少なくありません。「これまで、エアコンなしでやってきて問題がなかった」「去年もそれで大丈夫だったから、今年も大丈夫なはず」と考えてしまうわけです。

これら3つが複雑にからまって、「周りがいくら言ってもなかなかエアコンを使わない」ということになってしまうのです。

正論で説得しようとしても効果はない

こうした高齢者には、正論をぶつけて説得しようとしても、なかなかうまくいきません。

「温暖化が進んで、昔に比べて夏の気温が上がっているんだから」「高齢者は熱中症になりやすいし、毎年亡くなる人も多いから」……。子供が、こうした正論を伝えて、エアコンを使うように親を説得しようとしても、実際はなかなか行動の変化には結びつきません。

一般的に、人間の行動を変えるには「アメ」と「ムチ」を考える必要があります。「行動を変えると、こんなにいいことがある」という報酬(アメ)を渡すか、「行動を変えないと、こんなに悪いことが起きる」という罰則(ムチ)を課すか、ということです。

たとえば「○○をしてはいけない」と、行動を禁止するときには、ムチが有効です。一方、行動を促すには、アメのほうが効果的です。

高齢者のエアコンの問題は、行動を禁止するのではなく、行動を促すほうなので、アメのほうが効き目があると考えられます。「エアコンをつけないと熱中症になってしまうぞ」と脅かしても響かないのです。

それよりも「エアコンをつけたら、こんなにいいことがあるよ」と、アメを渡すことを考えたほうがいい。

そのためには、自分の親にとって、何が「アメ」=「ご褒美」になるのかを考えてみるといいでしょう。何が「アメ」になるのかは一人ひとり異なりますが、例えば、こんなことが考えられるでしょう。

子供や孫と会う約束をする

特に、離れて住んでいる高齢者にとっては、子供や孫と会うのは、楽しみなことではないでしょうか。「子供や孫と会う」ことを「エアコンを使って元気でいること」の報酬にすることで、行動を促す方法です。

「お盆に帰るときまで元気に過ごしてほしいから、部屋の温度計が28度以上になったらエアコンをつけて、体調に気を付けて」「○月○日に子供と会いに行くから、熱中症にならないように毎日エアコンをつけてね」

こういった「会う約束」をすることで、「じゃあ熱中症にならないように、エアコンをつけて元気に過ごそうか」といった行動につながりやすくなります。

リモコンでエアコンを操作する人の手元
※写真はイメージです
褒めてモチベーションを上げる

エアコンの利用も、一日つけるだけでは意味がありません。夏の気温が高い間、継続して利用して習慣化することが大事です。そのためには、「褒める」ことで、モチベーションを維持することが効果的です。

エアコンではありませんが、「褒める」ことでモチベーションを維持することに成功した事例があるのでご紹介しましょう。

ある男性が、医者から痩せるように言われて、渋々スポーツジムに通い始めました。イヤイヤながら通っていたのですが、ある時、この男性がスポーツジムから帰ってきたときに、その男性の妻が、「いい感じに筋肉がついて、かっこよくなってきたね」と、褒めたのだそうです。するとその男性は、嬉々としてスポーツジムを継続できました。

その後も妻は、時々そうして、運動することで変化してきた男性の体の様子を褒めました。それがモチベーションとなって、男性はスポーツジム通いが続いて習慣化できたそうです。

妻が褒めたのは、夫の「スポーツジムに行く」という行動そのものではなく、その行動によって生じた“変化”(筋肉がついてきた)です。それが夫に大きな報酬を与え、継続を促すことになったのです。

行動による“変化”を褒める

これをエアコンにも応用してみましょう。エアコンを利用することのモチベーションを維持するためには、「エアコンをつける」という行動自体でなく、その行動で得られる結果を褒めるようにします。

例えば、「エアコンをつけていると、汗まみれになっていなくて清潔感があるね」「やっぱりエアコンを使っていると、顔色がよくて若々しく見えるね」「家の中でキビキビ動けるようになっているね」といった声をかけてはどうでしょうか。会ったときに伝えてもいいですし、離れて暮らしているなら、テレビ電話を使って伝えてもいいでしょう。

ポイントは2つあります。一つ目は、うそでもお世辞でもいいということ。大げさに褒めてあげてください。そして二つ目は、すぐに褒めることです。「即時性」といいますが、その行動を行ったすぐあとに褒めるのがベストです。先週、先月のことを褒められても、効果は薄れてしまいます。

「自分で選んでそうしている」という感覚を持ってもらう

人間は誰しも、強制されるのはいやなものです。特に親の場合は、子供から強制されて行動を変えることには抵抗感が強いでしょう。子供が「エアコンをつけろ」と言い続けるのは、溝が深まるばかりになります。

ですから、親が「自分で選んでそうした」という感覚を持ってもらえるような伝え方をするといいでしょう。

たとえば、「暑い時には、窓を開けるのもいいし、扇風機を使うのもいい。打ち水をしてもいいし、遮光カーテンやすだれを使うのもいい。公民館や図書館など、エアコンが効いたところに涼みに行くのもいい。ただし室温が28度超えたら、エアコンをつけよう」と伝えます。

単に「室温が28度超えたら、エアコンをつけて」と言うだけだと、選択肢がなさそうですから、ほぼ強制になってしまいます。その前に、さまざまな暑さ対策の選択肢を提示することに重点をおいてください。こうして、本人が主体性を持って、「自分で選んでそうしている」という感覚を持ってもらうようにしましょう。

ここでは、「子供や孫と会う約束をする」「褒めてモチベーションを上げる」「自分で選んでそうしているという感覚を持ってもらう」の3つを挙げましたが、いずれも、親子のコミュニケーションがカギを握ります。親が普段、どんな行動をしているのか、どんなことで嬉しいと思うのか、どんな言い方をすると耳を傾けてくれるのかを知っておかないと、的外れな言い方になりかねません。

1年のうち、エアコンが必要な期間は長くなっていますし、今後もこの傾向は変わりそうにありませんから、毎年夏になると親の熱中症を心配する必要は出てきます。親の考えや生活スタイルを尊重しながら、最適なやり方を探してほしいと思います。

認知症の兆候にも気を付ける

冒頭でお伝えしたように、年をとると暑さに対する感受性が低下しますが、認知機能が衰えると、さらに感覚が鈍化します。自分の体調の変化にも気付きにくくなる可能性があります。

真夏なのに、コートを着込んで外出したり、厚い冬用の布団で寝たりする高齢者もいます。こうしたちぐはぐな行動の背景には、認知症が潜んでいる可能性があります。帰省の機会が限られている人は、こうした点も頭の片隅に置いておき、お盆など、夏の様子も見るようにするとよいでしょう。

どうしても自分の親のことになると、「自分の親は大丈夫だろう」「本当に暑くなれば、エアコンくらいつけるだろう」と思ってしまうものです。しかし、昨今の夏の暑さは、私たちの親世代も経験したことがないレベルのものです。子供世代も認識を変え、親が元気で夏を乗り切ることができるよう、サポートをしてほしいと思います。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。

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