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岩田剛典"花岡"の死を「バカ野郎」と一蹴…その真意は? 滝藤賢一の演技が心に刺さるワケ。NHK朝ドラ『虎に翼』解説&感想

  • 2024.6.17
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連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

伊藤沙莉主演のNHK朝ドラ『虎に翼』。本作は、昭和初期の男尊女卑に真っ向から立ち向かい、日本初の女性弁護士、そして判事になった人物の情熱あふれる姿を描く。第11週では、花岡の訃報に法曹界の知人たちに衝撃が走り、寅子は家庭裁判所設立に奮闘する。(文・あまのさき)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。

連続テレビ小説『虎に翼』第11週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

花岡(岩田剛典)が餓死したという衝撃の報せで幕を開けた第11週。「女子と小人は養い難し?」と題し、寅子(伊藤沙莉)が家庭裁判所の設立に奮闘する様を描いた。

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花岡は自らの職務に誠実であろうとし、食糧管理法を守って餓死した。この一件は人々の耳目を集める。命の尊さを突きつけられた戦後というタイミングに、まだまだ続く苦難。優三(仲野太賀)や直道(上川周作)の死を観てきたからこそ、せっかく生き永らえた命なのに、と思わずにはいられなかった。

そんな花岡の死から1年。翌年施行予定の少年法に登場する家庭裁判所の準備室に、寅子は突如配属される。制度の開始までにはもう2ヶ月しかないが、当時、家庭裁判所の役割を担っていた家事審判所と少年審判所は折り合いが悪く、一向に合併の話が進まない。

おまけに室長の多岐川幸四郎(滝藤賢一)が、ライアン(沢村一樹)に勝るとも劣らない曲者だった。家庭裁判所設立準備室の面々が揃ったときには、お互いのことを知るためと言って酒を飲もうとするし、大切な審議の場では率先して話を進めるどころか居眠りをしている。

だが、多岐川の登用にはライアンと桂場(松山ケンイチ)が関わっている。さらに、周囲への気遣いもできて優秀そうな室長補佐の汐見圭(平埜生成)が多岐川のことを慕っているから、もしかしたら信頼できる人なのかも…と期待したくなってしまう。

実際、ライアンの口から語られた多岐川の熱意を聞くに、彼が愛の人なのであろうと推測される。少年たちを救いたい、また、家庭を救いたい。そのために家庭裁判所を生活に根付いた愛に溢れる明るい場所にしなければいけない。それが多岐川の目標であった。

寅子の見えないところで、実は家事審判所と少年審判所の担当者を集めて酒を酌み交わしてもいた(本当にただ賑やかに飲んでいるだけだったが…)。

連続テレビ小説『虎に翼』第11週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

ある日、その場に同席した寅子。酔い潰れた多岐川と汐見を家まで送り届けると、そこにはかつて寅子とともに学んだ“ヒャンちゃん”(ハ・ヨンス)がいた。彼女の再登場に湧いた視聴者も多いだろうが、彼女は汐見の妻として香子と名乗り、寅子を避けるようにしていた。

せっかくの再会なのに、悲しい。でも、香子にはそうしなければならない理由があった。明律大学を辞めて朝鮮へ帰った香子は、法律を教えにきていた多岐川と汐見を手伝っていた。

そこで香子と汐見は惹かれ合うのだが、両家は結婚に猛反対。終戦後、汐見が日本に引き揚げるタイミングで香子も日本についてきて、名前を変えることとなった。当時の日本で彼女の出自がどれほど偏見を向けられるものであったのかがうかがい知れるエピソードである。

そしてそれ以来、家から勘当されて行き場を失った汐見と香子は多岐川の家に居候している。これもまた、多岐川が愛情深い人間であることをよく表していた。

連続テレビ小説『虎に翼』第11週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

そんな折、亡くなった花岡の妻・奈津子(古畑奈和)が寅子を尋ねてやってくる。顔を見るなり、寅子は「ごめんなさい」と頭を下げる。花岡の異変に自分が気付いていたら、何か変わったかもしれないと思ったからだ。

これは見方によっては傲慢かもしれない。かつてともに学んだ仲間とはいえ、一緒に暮らしていた家族を差し置いてなぜ自分なら、と思ったのか? と。

奈津子は「家族が何を言っても変わらなかったから、それで変わったら妬いてしまう」とやんわり返答しつつ、寅子にいつかのチョコのお礼を丁寧に伝えた。あのとき、家族が久しぶりに笑顔になれたという。

当たり前のことかもしれないが、人を支えるのに正解も不正解もない。寅子の、とにかく目の前のできることをしようとする姿勢が、沢山の人を救うことに繋がるのか、本当のところはわからない。しかし、当事者の気持ちに寄り添うことで救われる人もいるはずだ。

画家として活動していた奈津子の画をこっそり買い集めていた桂場は、具体的な策を講じていたといえる。それをこっそりやっていて、寅子に悟らせまいとしていたところが憎い。

そして法を遵守して命を落とした花岡を「大バカ野郎」と言った多岐川は、花岡の死に怒り続けなければならないとも言った。なぜそんなことが起きなければならなかったのかと問い続けること。このセリフは、多岐川の花岡への愛の裏返しだ。

朝鮮から引き揚げてきたときに戦争孤児に手を差し出され、子どもたちを幸せにすることに自分の使命を見出した多岐川。目の前の戦争孤児を救うための手っ取り早い解決策は、お金か食べ物を渡すことだろう。しかし、多岐川はもっと大きな枠組で問題を捉え、法を整備し、家庭裁判所をつくることでより多くの人々を救うことを目指した。

三者三様の正義。そのどれもが正解で、どれもが同時に存在すべきものだ。

連続テレビ小説『虎に翼』第11週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

結局、家庭裁判所の設立については、寅子が子どもたちのためのボランティア活動をしている弟の直明(三山凌輝)の協力を得て、なんとか無事に話をまとめた。

ところで気になるのは、花岡の死の直後に再会した轟(戸塚純貴)とよね(土居志央梨)だ。轟に、花岡のことが好きだったんだろう? と問うたよね。轟は最初こそ否定したものの、憧れも苛立ちも含んだ好意に自覚的ではあったようだ。

すべての“好き”を恋愛に帰結させる必要はないし、そもそも感情に名前をつけようとすること自体、野暮なのかもしれない。きっとよねは寅子に対して似たような感情を持っていたから、轟の想いも汲み取れたのではないだろうか。

そんな2人が一緒に弁護士事務所をやろうと堅く握手をしたのは胸が熱くなる展開だった。彼らが法曹界に帰ってくる。どこかで寅子の正義とぶつかる、なんてこともあるのかも。寅子とよねが感情をぶつけ合うシーンを期待したい。

(文・あまのさき)

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