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三谷幸喜が「背中を押してくださった」、戸田恵子が俳優になるまで

  • 2024.6.15
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アンパンマンなど数多くの人気キャラクターの声優を経て、40歳を過ぎてから役者としてもブレイクした戸田恵子。2018年に三谷幸喜の構成・演出で発表した『虹のかけら~もうひとりのジュディ』が、なんとアメリカ・ニューヨークの音楽の殿堂「カーネギーホール」で上演されることに。

俳優・声優として活躍する戸田恵子、今回出演する舞台『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』は、戸田の還暦(2018年)を祝して三谷幸喜が作り上げた舞台

7月には日本でも凱旋公演がおこなわれるわれる本作に、再び向き合う直前にインタビューが実現。制作の裏話やアメリカ公演にかける思いとともに、すっかり良きパートナーとなっている三谷幸喜との愉快な関係についても聞いた。

取材・文/吉永美和子
写真/バンリ

◆ 「ニューヨークは観に行く所としか思ってなかった」

──『虹のかけら』は、映画『オズの魔法使い』で知られるジュディ・ガーランドの生涯を、彼女の付き人だったジュディ・シルバーマンの日記の朗読と、さまざまな名曲の生演奏、戸田さんの語りで綴っていくという、一人芝居とコンサートを併せたような舞台です。

私の還暦記念で三谷さんに作っていただいたんですけど、脚本ができあがったのが本番の6日前ぐらいだったんです(笑)。それで初演は四苦八苦したので、翌年リベンジで再演させていただきました。それを「カーネギー・ホール」の関係者がたまたま観て「これ、カーネギーでどうでしょうか?」とおっしゃっていただいたのがはじまりでした。ただカーネギーと言っても大・中・小のホールがあって、私は身の丈に合った小ホールにあたるワイル・リサイタルホールですけど(笑)。

『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』の劇中シーンより

──60歳を過ぎてから、初めてニューヨークで芝居をする人生が来るなんて、想像できませんよね。

まったくですね。私はよくニューヨークに芝居を観に行ってるので、みんな「一度は(舞台に)立ちたいと思っていたんじゃないですか?」って言うけど、(芝居を)観に行く所としか思ってなかったんです。だから本当に、青天の霹靂でした。三谷さんも「本当に行くんですか?」みたいな反応でしたし・・・この前最初のミーティングをしたときも、まだ「やりますか? 本当にやるんですか?」って言ってました(笑)。

──ニューヨーク公演用に、変えていくところはあるんでしょうか?

プロットや音楽は、基本的に変わらないです。大変なのは、「カーネギー・ホール」がすごく規約が多いってことなんですよ。劇場じゃなくて音楽ホールだから、照明の細かい調整ができないとか、ステージ上の物はホールのスタッフに動かしてもらわないといけないとか。

舞台『虹のかけら~もうひとりのジュディ』は日本、そしてニューヨークの名ホール「カーネギー・ホール」でも上演される

──相当な制約があるなかで、上演されるんですね。

ちょっと並大抵じゃない大変さですけど、それだけの価値がカーネギーにはあるってことなんだと思います。これをみんなで乗り越えて、はじめて立つことができる。だからやっぱり、特別なホールなんでしょうね。誰もができる場所じゃないっていう。

──舞台に立つ前から、プレミア感が演出されているわけですね。ただ「制約を受けたうえで、さらに面白いものを作るのが、自分のやり方だ」と話す三谷さんの性格を考えると、そういう制限があればあるほど、燃えているんじゃないでしょうか?

三谷さんとはこれまでも「え? ここまで稽古してきたのに、これができないの?」ということにいろいろ遭ってきたんですけど、そのたびにそれを逆手に取って「こっちの方が良かったね」と思うぐらいのことをしてくださるんです。やっぱりそこが、天才たるゆえんですね。だから今回もまったく心配してないし、良いバージョンが生まれるんじゃないかと思います。

『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』の劇中シーンより

◆ 「三谷さんからメールが来て『鼻から牛乳が出せますか?』」

──「絶対いいものができる」と思えると、まずはひと安心ですね。

そうですね。でも現地で舞台に立ったら、多分アクシデントがいっぱいあると思います。それを楽しもう!という気でいかないと、きっと打ちひしがれますね。だから「(アクシデントは)あって当たり前」ぐらいの、メンタル強めで。バンドのメンバーとも「もう私たちは楽しんでいい歳に来ているから、エンジョイ・ニューヨークぐらいの気持ちで行こう」と言っています。若かったら、そんなことも言ってられなかったでしょうけど。

三谷幸喜の手にかかれば、おもしろいものが出てくる「今回もまったく心配してない」と、戸田は信頼を寄せる

──もっと若かったら、気負っていたということでしょうか?

30代40代なら、それがすごくあったと思いますよ。「あわよくばニューヨークで、なにか残していこう」と考えたかもしれない。今はそんなことはさらさらなくて、今までがんばってきたご褒美だと思っています。

──そのニューヨークの初舞台が、長年一緒にやってきた三谷さんの作品というのも、感慨深いかと思います。三谷さんとの仕事で、特に印象に残っていることってありますか?

三谷さんとご一緒したら「まだ私に、こんな小さな引き出しがありましたか?」という、おもしろい発見が必ずあります。とにかくたくさんの資料を自分のなかにお持ちだし、本当に突拍子もないことをおっしゃるので・・・たとえとしてはあまり良くないかもしれないですけど、香取慎吾さん主演のテレビ番組(『HR』/2002~2003年)のときに、三谷さんからメールが来て「鼻から牛乳が出せますか?」って。

──はい?(笑)

聞いてみると、私になにかが起こって、振りかえったら鼻から牛乳が出ているという設定だったんですね。でも当然仕込んでおかないとできないことだから、普通の牛乳がいいのか、練乳みたいなものがいいのか、コーヒークリームがいいのかって、家でいろいろ試して、流れる感じをチェックしたんです・・・ということを言うと「じゃあ、なにが良かったですか?」「どれぐらい入りますか?」って。

──いつの間にか話が膨らんでるじゃないですか。

いっつもそう。ラリーなんですよ。お互いにおもしろいことを言い合って、絶対もうひとつ上に乗せてくるみたいな感じになっていく。そんな風に、私が自然に生きていたなかでは出てこないような発想が、三谷さんの手にかかるといろいろ出てくるんです。たとえ本がいつも遅かろうが(笑)、それがすごく楽しいし、期待大なところですね。

──戸田さんが「三谷幸喜のミューズ」と言われる理由が、この話だけでわかったような気がします。

いやいや、三谷さんにはミューズなんかいっぱいいますよ(笑)。みんなのいろんな引き出しを、きっと同じように開けていると思うので、その都度どみんながミューズになっているはずです。

◆「『声だけで十分食べていけるし』と尻込みをしていた」

──現在でこそ、声優がドラマや舞台に出たり、コンサートを開く状況が当たり前になりましたが、戸田さんはその先駆者と言ってもいいと思います。声優からキャリアを築き上げたことが、俳優としてプラスになったことがあったのでしょうか?

いや、なにひとつないです。みなさんが思うほど、深くは考えてなかったので(笑)。というのも、私はもともと劇団で舞台女優をしていて、声の仕事は単に稼ぐための手段と思ってたから。幸いすぐにレギュラーにつけて、食べることには困らなくなりました。「お芝居をする」という意味では舞台の演技と同じことだから、まったく違う仕事をするよりは良かったかもしれないです。でもそれを10年も続けていると、声の仕事の奥深さやありがたみもわかってきました。

キャリアを積むきっかけとなった声優の仕事、そして40歳で飛び込んだ俳優の仕事について改めて語る戸田

──確かにどんな現場でも「声で情景や感情を伝える」というのは基本ですし。

それで40歳になったときに、はじめて三谷さんの連続テレビドラマに出ることになったんですけど、当時は「今からドラマに出なくても、声だけで十分食べていけるし」と尻込みをしてたんですね。テレビは出るものではなく、見るものだと(笑)。でも三谷さんが「戸田さんもご存知の舞台俳優さんもたくさん出るので、おそれずにやってください」と背中を押してくださったんです。

──それが『総理と呼ばないで』(1997年)だったと。あの当時は「戸田恵子は顔を出しても、こんなにすばらしいんだ!」と、なかなかの衝撃を受けました。

でも結局は、舞台も声優も映像も、そんなに大きく分かれたものではないんだな、って。それぞれのルールがちょっと違う・・・「舞台は全身が見える」「映像はカメラワークで切り取る」というのを把握できたら、やりやすくなりました。今は、朝は『アンパンマン』の声をやって、午後は舞台の稽古をして、夜はドラマの撮影という日もあって。身体はしんどいんですけど(笑)、どれもお芝居をするということに変わりがない、というのはよかったなあと思います。

──そうして走り抜けてきた役者人生の、大きなご褒美と言える今回の舞台ですが、ジュディ・ガーランドについて予習しておいた方がいいのでしょうか?

まったく必要ないです。これを観たら、すべてわかるはずなので(笑)。しかもジュディ・シルバーマンという人を通して見ることになるので、普通に(ジュディを)演じるよりも、おもしろく観られると思います。

ジュディは「カーネギー・ホール」で復活ライブをして、そのライブ盤は涙が出るぐらいにすばらしいんです。そのゆかりの場所に立てるというのはご縁だし、多分もう二度とないこと。彼女の47年という短い生涯を、駆け抜けるように私も演じますので、みなさんも一緒に駆け抜けてもらって、その生き様を感じてもらえたらいいですね。

『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』の劇中シーンより

『虹のかけら~もうひとりのジュディ』大阪公演は7月5〜7日に「COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール」(大阪市中央区)にて上演。音楽監督は、三谷作品でもおなじみの荻野清子がつとめ、振付・ステージングは本間憲一が担当する。チケットは9300円で、現在発売中。

『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』

期間:2024年7月5日(金)〜7日(金)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール(大阪市中央区大阪城3-6)
料金:9300円

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