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胡散臭いけど憎めない…松下洸平演じる“周明”の不思議な吸引力とは? NHK大河ドラマ『光る君へ』第23話考察レビュー

  • 2024.6.15
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『光る君へ』第23話より ©NHK

吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。まひろは父・為時と共に越前の地へと到着するが、為時は多忙にあけくれて倒れてしまう。父の治療のために現れた薬師は、敦賀で出会った周明だった…。今回は、第22話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『光る君へ』第21話より ©NHK
『光る君へ』第21話より ©NHK

松原客館の通詞・三国若麻呂(安井順平)が何者かに殺害された。越前国府の役人である源光雅(玉置孝匡)や大野(徳井優)らは、宋からきた商人・朱仁聡(浩歌)を捕らえる。

【写真】胡散臭いけど魅力的…松下洸平“周明”の劇中カット NHK大河ドラマ『光る君へ』劇中カット一覧

しかし、薬師の周明(松下洸平)が朱の無実を主張。さらに証人として連れてきた下人が、真実を語る。三国の死は越前国武生の商人・早成(金子岳憲)と揉めた末の事故だったが、その現場を目撃した下人に光雅(玉置孝匡)が嘘の証言をするように脅したのだ。

ほどなくして解放された朱は、為時(岸谷五朗)に越前に来た本当の狙いを語り出す。光雅が疑っていたように、朱たちは宋の朝廷から越前を足掛かりに日本との貿易を図るよう命じられていた。力を貸してほしいと頼まれた為時が葛藤する一方で、まひろ(吉高由里子)は周明と距離を縮めていく。

周明がまひろに宋の言葉を教える形で心を通わせていく2人。そんな中、越前にやってきたのは宣孝(佐々木蔵之介)だ。越前でのひと時を過ごした宣孝は都に帰る直前、「わしの妻になれ」とまひろに求婚するのだった。

『光る君へ』第23話より ©NHK
『光る君へ』第23話より ©NHK

周明の正体が明らかとなった『光る君へ』第23回。対馬で生まれた周明は12歳の時に口減らしのために海へ捨てられ、宋の船に拾われたという。宋では牛や馬のように働かされ、このままでは死ぬと逃げ出した先で薬師に助けられ見習いにしてもらった、と周明はまひろに語った。

周明は日本人でありながら、自身のことを宋人と称する。それだけ宋に恩義を感じているのだろう。まひろも身分にかかわらず、試験を受ければ官職を得られる宋に兼ねてより興味を持っており、周明から宋の文化や言葉を教わる。

明示こそされていないが、まひろよりも年は少し上だろうか。人生の酸いも甘いも噛み分けた周明は物腰が柔らかく、自然な色気があり、まひろはドキッとさせられる。『最愛』(TBS系、2021)ファンにはたまらない、愛おしい時間を吉高由里子と松下洸平が作り出した。

一方で、正体は明らかとなったものの、周明には依然として謎めいた雰囲気がある。ラストには、まひろが左大臣・道長と知り合いであることを知った周明が朱に「うまく取り込んで左大臣に文を書かせます」と告げる場面があった。その見返りとして周明は宰相の侍医に推挙してほしいと朱に願い出る。

覚えが早いまひろを「賢い」と褒める優しい顔と、そのまひろを利用してまで地位を得ようとする野心的な一面を見事に演じ分けた松下。だが、不思議と悪い人に思えないのはその瞳の奥に葛藤が見えるからだ。

まひろに惹かれる気持ちはあれど、周明には為さねばならぬことがあるのだろう。道長に友情めいたものを感じつつも、貧しい人たちに分け与えるために貴族の屋敷から金品を奪う盗賊として暗躍していた直秀(毎熊克哉)のように。それが直秀の最期のような悲劇を招かないことを願うばかりだ。

『光る君へ』第23話より ©NHK
『光る君へ』第23話より ©NHK

一方、定子(高畑充希)に会えず気落ちする一条天皇(塩野瑛久)のために、道長(柄本佑)は倫子(黒木華)のアドバイスで後妻たちとの交流の場を設けた。だが、一条天皇の心は依然として定子のもとにあり、詮子(吉田羊)は「あんなに激しく求め合う2人の気持ちがわからない」と疑問を呈する。

すると、道長は妻以外に惹かれてやまない女性がいると明かし、まひろを頭に浮かべながら「よい女でございました」としみじみ語った。

道長をはじめ、多くの男性たちにとって目が離せない存在であるまひろ。その魅力がよく表れていたのが、宣孝が都から持ってきた土産に対する反応だ。都で流行っているという肌油(おそらく美肌グッズのようなものだろう)にはさほど興味を示さなかったまひろだが、宣孝が為時のために買ってきた巻物には飛びついた。

おしゃれよりも勉学に興味がある女性は当時としては珍しく、男性たちの目には新鮮に映るのだろう。いわば、平安の“おもしれー女”なのである。

『光る君へ』第23話より ©NHK
『光る君へ』第23話より ©NHK

吉高自身、ぱっと見は涼しげな印象を受けるが、バラエティなどでは明るく親しみやすい顔を見せている。ゆえに色気もありながら、どこか少女心を残した大人の女性を演じるのが上手で、まひろが興味を引くものに目をキラキラと輝かせる様も愛らしさ満載。

そんなまひろにいつしか心を奪われていたのが宣孝だった。為時とは遠い親戚、かつ長年の友人であり、幼い頃からまひろのことを知っている。ゆえに最初は娘のように思っていたのだろう。

しかし、母親との死別、父親の失業、愛する人との別れなど様々な苦難を乗り越えたまひろは、いつの間にか少女から、元々持っている天真爛漫さを残しつつもそこに聡明さが加わって大人の女性となった。

まひろと夕食をともにしながら、「お前と会うと違う世界が垣間見える。新たな望みが見える。未来が見える。まだまだ生きていたいと思ってしまう」と語る宣孝は純粋に恋しているように見える。その表情から覗く熟した大人の色気にぐらっときた。

一方で、宣孝には妻も子供もいて、妾もいる。その上、娘でもおかしくない年齢のまひろに惹かれる宣孝の衰えぬ好色っぷりに視聴者からは賛否両論が巻き起こった。父である為時も複雑だろう。宣孝がまひろにプロポーズをしたと知った時の反応が気になるものだ。

(文・苫とり子)

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