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「欲望にネガティブにならずに素直に出せる人間に」映画『僕の月はきたない』主演・古谷蓮& 工藤渉監督、対談インタビュー

  • 2024.6.15
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左から主演の古谷蓮、監督の工藤渉 写真:武馬玲子
写真:武馬玲子
俳優の古谷蓮。写真:武馬玲子

―――映画を拝見しまして、本作のHPでのコメントにもあった通り、迂闊にも感動している自分がいて、性欲は生きる原動力なんだという製作者たちの想いと人間の生命力を感じる作品でした。本作は吉田浩太監督作『30days』の後日談となっています。まずは吉田監督との出会いと、映画『30days』の製作経緯を教えてください。

古谷蓮(以下、古谷)「吉田監督とは2019年に佐藤周監督との合同ワークショップに参加したご縁で、佐藤監督の新作に出演させていただいたんですけど、その現場に吉田監督は助監督として入っていて、その時から仲良くさせていただくようになって。だからと言って頻繁に連絡を取るわけではなかったんですけど、コロナ禍になった時に、『古谷主演で、30日間禁欲生活をフェイクドキュメンタリーとしてやろう』とお話をいただき始まりました」

―――その期間はしっかり禁欲生活はしていたのでしょうか?

古谷「もちろん。それをしないと始まらない(笑)」

―――そこはちゃんとドキュメンタリーなんですね(笑)。その後、実際にお寺へ修行に行かれたそうですね。本作『僕の月はきたない』は、どこまでがフィクションでどこまでが事実なのか見分けが付かないところが面白いのですが、企画の成り立ちを教えてください。

古谷「映画『30days』をきっかけに、役者としても人としても変わりたい、成長したいと思ったし、とにかくこのままではいかんと思っていたけど、コロナ禍で海外には行けないし、海外に行ったところで外国かぶれして帰ってくるだけだなと思ったら、それも違う。そこで“それなら和の心だ!”と思い立ちお寺に行きました。

吉田さんにはすぐに連絡して、『お寺に100日間修行してきます』と伝えたんですけど、修行を終えて東京に帰ってきた時に、『俺が面倒見てやるから、とりあえず脚本を書いてみなさい』と仰っていただいて、そこで本作の原案となる脚本を1年以上かけて書きました。書いてはその都度吉田監督にダメ出しをしてもらって、また書き直しっていうのを繰り返して。最初は、僕が監督・脚本・主演でやる企画だったんですけど、気付いたら工藤さんが入っていました」

―――工藤監督にはどういう段階でお話があったのでしょうか?

工藤渉監督(以下、工藤)「吉田監督とはENBUゼミの先輩後輩の関係で、『こういう企画があるんだけど』と渡された脚本が第3稿くらいのもので、その時は『hungry days』ってタイトルで凄いスカしたホンだったんですよね。だから却下して(笑)」

古谷「スカしてないですって。脚本なんて書いたことないからわからなかったんですもん」

工藤「凄いカッコいい感じだったよね」

古谷「違う、違う!」

工藤「その脚本は、古谷君の経験に伴って書かれているからめっちゃ重たくて…。最初は『これどうにもできないよ』と思って、受けるのを渋っていたんですけど、意外にも古谷君がポジティブに考えていたから、じゃあいいのかなって」

―――本作の仕上がりはコメディチックですが、最初は結構シリアスな内容だったと。

工藤「ナーバスな感じでしたね。でも古谷君は『もう大丈夫ですよ』みたいな感じだったので、“あれ、コイツ人の心ないんじゃないかな”と思って(笑)。そこからもう少しエンターテイメントに持っていかないといけないと思って、脚本の鈴木太一さんにお話をしました」

写真:武馬玲子
映画監督の工藤渉。写真:武馬玲子

―――HPでの工藤監督のコメントには、「禁欲にかける想いを古谷君から聞いたのが面白かった」と書かれていましたが、具体的にはどんなお話をされましたか?

工藤「『なんで禁欲にしたの?』って聞いたら、『いや、モテたくて!』…いや、そうなんだろうけど、悩むにしても、もっと別なことないの?と思いましたね。何言っているのか全然わからなくて、コイツやべぇ奴だなと思いました(笑)。

ただとにかく自分を変えたいんだなっていうのはわかったし、監督もそうですけど、役者さんって何歳までにこうしたいっていうのは自分では選べないし、その足掻きみたいな部分は上手く作品に昇華できるかもしれないっていうのは思いましたね」

―――鈴木太一さんが脚本に入ってから、どんな風に変わりましたか?

工藤「それがかなりぶっ飛んでいて、主人公とヒロインの2人が自慰行為を見せつけ合って戦うっていう話を書いてきたことがあって。どうすんだよこれと思って(笑)」

―――それはそれでちょっと面白そうではあります(笑)。

工藤「太一さんに『これ無理ですよ』と伝えて、その後書き直してもらったものをチェックして、何度か改稿しましたね。ただ太一さんの書いたものは面白かったし、パワーは残したかったので、削るのは個人的には辛かったですね。古谷君もノリノリだったし」

―――『僕の月はきたない』というタイトルはどなたが付けられたんですか?

工藤「僕が付けました。一人称にしたかったんですよね。あと『月が綺麗だね』という口説き文句と逆の意味を込めたかったのと、メインビジュアルにも使われているんですけど、架乃ゆらさん演じる海野琴絵が古谷君を見つめ、古谷君は月を見たいと仰ぎ見るけど見ることが出来ないというくだりも関係していて。

あとこれは中二病っぽくて恥ずかしいんですけど、本編で月は出てこないんですよ。でも“好き”っていう気持ちは映っているなと思いまして、“僕の好きはきたない”という意味も込められています」

古谷「初めて知りました!タイトルのことを聞いても答えてくれなかったですもんね」

工藤「恥ずかしすぎて誰にも言えないと思ってさ(笑)」

写真:武馬玲子
写真武馬玲子

―――ヒロイン・海野琴絵役の架乃ゆらさんと共演してみていかがでしたか?

古谷「共演シーンは撮影の後半からで、そんなに会話もしてないからまだ打ち解けてない感じだったんですけど、ベンチでのシーンでいきなりアドリブをぶっ込んできて、“この人度胸が凄い”と思いましたね」

―――今回、ベテランの仁科貴さんと芹澤興人さんとも共演されていますが、個人的にはあのお2人が登場するとコメディ感が増すような感じがして、映画に活気をもたらしてくれる存在だなと思います。現場ではいかがでしたか?

古谷「仁科さんと芹澤さんは安心感が半端ない。和尚様から写真集を返してもらうシーンは、芹澤さんに感情を乗せていただいたような気がします。

仁科さんは劇中では破天荒な役柄ですけど、めちゃくちゃ優しくて、撮影の待機時間に色んなお話をさせていただいて、お芝居のことはもちろんですけど、『この近くに美味そうな穴子屋さんがあって、この後食べに行くんだよ』というようなことまで。本当に無邪気で素敵な方でした」

―――現場での印象的なエピソードを教えてください。

工藤「ベンチでのシーンは、最初は2人で歩きながら撮るつもりだったんですけど、撮影も終盤に差し掛かっていたのもあって、スタッフ陣があまりにも疲弊しているのに気がついて…“俺はなんてことしてしまったんだ!”と。とりあえず移動することは辞めて、『ここで撮るので5分時間ください』って言って、その間に休んでもらいつつ考えて。あれは本当に焦りましたね」

―――監督がちゃんとスタッフの疲労具合を感じて、切り替えられるのは凄いことですし、素敵です。

工藤「本当のこと言うと、『考えた計画が全部無くなったー!』とは思ったんですけど(笑)。でも個人的には上手くいったなと思っているんです。スタッフも休ませられたし、土壇場で考え方が意外と良かったのかなと思うと結果オーライだったなと。あと古谷君がスタッフに好かれていて、ツッコミが追いつかないっていうのは覚えている」

古谷「きっかけを作り出したのは工藤監督ですから。監督が言えばみんなも“大丈夫なんだ”っていう空気になるから、スタッフ全員からいじられてツッコミが追いつかなくって(笑)」

―――撮影してない時も撮影してるみたいな(笑)。

古谷「むしろそっちがメインみたいな(笑)」

写真:武馬玲子
写真武馬玲子

―――本作では和尚さんが20年間禁欲をしている設定でしたが、実際に修行した時に、和尚さんの人間的な面を見ることはありましたか?

古谷「いやむしろ全然住職感が無かったですね。すぐ怒るし、毎晩筋トレしてるし(笑)。僕が修行に参加した次の日に僕と同じ年の人が来て、意気投合して『お互い頑張ろうね』とか言っていたのに、その子は次の日の朝帰って(笑)。その時に、本当に和尚さんなのかと疑うような怒号が聞こえてきて…。もっと仏みたいな人を想像していたんですけど、全然違いましたね(笑)」

―――和尚さんも人間ですね。修行して変わりましたか?

古谷「何も変わらなかったですね。人が変わったかどうかは周りが判断するものじゃないですか。自分で『俺変わったぜ!』って言っている奴って変わってないと思うし、自分では変わったとは思わないけど、気付けたことは沢山ありました」

―――具体的にどんなことに気付けましたか?

古谷「なぜ俺は役者を始めたんだろうとか、今の自分になるまでのことを考えたりして、その時に結局自分は人に愛されたいんだろうなって思ったんです。でもじゃあそもそも愛ってなんだろうみたいなことを延々と繰り返して。そういうのもあって毎日日記を書いていました」

工藤「メインビジュアルの字は古谷君の直筆の日記から引用しているんですよ。汚い字ですよねぇ〜」

古谷「いいでしょ! 人に見せると思って書いたんじゃないんだから。これでも小学校6年間、習字の賞を逃したことないですからね」

工藤「人格を疑いますよね」

―――(笑)。完成した作品を観ていかがでしたか?

古谷「主演で映画を撮らせていただいて、しかも自分の実話に基づいた話で、こんな有難いことってなかなか無いと思うんですよ。まだまだ勉強不足な部分を思い知らされましたけど、この時出来る限りの精一杯は出来たかなとは思いますし、これが結果なので、これで勝負していくしかないなと思っています。でも本当に鈴木太一さんの脚本を読んだ時は、“これだ!”と思いましたし、撮影はやっぱりとにかく嬉しかったし、楽しかったですね」

写真:武馬玲子
写真武馬玲子

―――本作を製作するにあたって、参考にした作品はありますか?

古谷「僕は本作の脚本を書いている時に、山下敦弘監督の『リアリズムの宿』(2003)をやりたいと思って、映画を流しながら書くみたいな感じでしたね。自分にそれが出来るかどうかはわからなかったけど、オフビートコメディが出来たらいいなと思っていたので憧れの1本ではありましたね」

工藤「僕は脚本を書いている時に、『リアリズムの宿』はもちろん観ていたし、同監督の『もらとりあむタマ子』(2013)とかも観ていたんですけど、一番参考にしたのは『こち亀』ですね。

両津勘吉が好きで、最初は主人公を行動的で尚且つ人情家というキャラクターにしようと思っていたんですよ。古谷君もそっちのけがあるし、多分ハマるなと思って漫画を50巻くらいは読み直しましたね。あとは『ドン・キホーテ』の風車に立ち向かうオジサンをイメージして脚本に落とし込みました」

―――この映画は、生きることを体現してる作品だと思ったのですが、お2人が考える“生きること”について伺えればと思います。

古谷「真面目にこれに答える日が来るとは思わなかったです(笑)。やっぱり死ぬまで勉強じゃないですかね」

工藤「僕は生きることについて自問自答したことがあって…でもこれめちゃくちゃ恥ずかしいな(笑)。僕は旅することだと思っているんですよ。違う場所に行った時に、どう自分が感じるかという、その旅をずっと繰り返していきたいと思っているので、生きるとは旅をすることです」

―――最後に本作をこれから観る方にメッセージをお願いします。

工藤「色んな生きづらさがあると思っていて、それは僕自身も感じていることなんですけど、今はこの時代特有の生きづらさがあるのかなと思います。そこに対する答えはわからないし、人がどう感じるかはわからないですけど、人も自分も肯定して生きていけるようになればいいなと思っています。この映画はそういうことを描いている作品なので、真面目に観る必要はないんですけど、そんなことを感じてもらえるといいなと思っています。是非劇場にお越しください」

古谷「この映画は生きることに対する作品です。“生と死”とポスターにも書いてありますが、もう一つの“性”の意味もあって、劇中での和尚様のセリフで『欲望には良い欲と悪い欲がある』とありますが、自分の欲望に対してネガティブにならずに素直に出せる人間になれたらいいなと僕は常に思っているんです。この映画はそういうことを描いていますし、人生どうなるかわからないですけど、一所懸命に生きたいと思っています。是非観てほしいです」

【作品情報】
出演:古谷蓮、架乃ゆら、仁科貴、国保裕子、鹿野裕介、坂牧良太、吉田浩太 / 芹澤興人
監督:工藤渉 脚本:鈴木太一 プロデューサー:吉田浩太、後藤剛
音楽:零式 主題歌『よろこびの歌』

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