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「プリンスは僕の人生を変えた人」映画『プリンス ビューティフル・ストレンジ』ダニエル・ドール監督、単独インタビュー

  • 2024.6.15
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ダニエル・ドール監督
©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC
©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC

―――個人的にプリンスはとても好きなアーティストです。特に80年代に発表したアルバム『1999』、『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の3枚は、今でもよく聴くアルバムです。

「そうですか! あなたのように若い世代の方から、プリンスの音楽が心に刺さっているというお話を聞くたびに、プリンスの影響力に圧倒されます」

――――今回の映画は、アーティストとしてではなく、人間としてのプリンスにフォーカスが当てられていて、初めて知る情報も多く、とても面白く拝見いたしました。 ドール監督とプリンスとの出会いから伺えればと思います。

「私とプリンスは年齢が一歳差で、同世代ではあるのですが、実は、アーティストとして親しんできたわけではなかったんです。もちろん偉大なアーティストであると認識はしていて、何度か音楽を聴こうと試みたのですが、どうしても親しみがもてませんでした。当時は、自己中心的で奇妙な人、というパブリックイメージをそのまま受け取っていて、彼のことを全然知りませんでした。しかし本作を制作したことで、今では僕の人生を変えた歴史上で最も素晴らしいアーティストの1人だと思っています」

―――映画づくりを通して、プリンスに対する認識がガラッと変わったのですね。

「楽曲の歌詞や演奏が素晴らしいのはもちろん、プリンスほど、ファンや同業者を含めた人々との繋がりを大事にしたアーティストはいないのではないかと思っています。彼は“Love&Unity”(愛と一体感)というメッセージを強く打ち出しているアーティスト。人種に関しても、ブラック、ホワイト、ピンク、パープル…どんな色でも共存できるというメッセージを、ずっと昔から発し続けていた偉大な人でもあります」

―――人種や性別はもちろん、プリンスの表現には世代間の壁を貫通する力があります。

「プリンスを讃えるパーティーに足を運ぶと、10代から80歳まで幅広い世代の人たちが集まっていて、驚かされます。何でみんなこれほど彼に惹かれるのだろうって考えた時に、音楽性ももちろんですけれども、楽曲を通して、彼の人間性がとてもよく見えるからではないかと思っています。

一方で、彼は神でもなく、完璧な人間ではありませんでした。彼の未熟な部分、100%でないところが、音楽を通して赤裸々に共有されていて、みんなのエネルギーの源になっているんじゃないかなと思っています。

彼から学ぶことでファンの人たちも人間的に良い方向に変えられたんじゃないかと思っていて。僕自身もプリンスを知ることによって、すごく良い人間になれたような気がしています」

©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC.
©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC

―――人間・プリンスを描くというコンセプトに関係すると思いますが、原題が『Mr.Nelson On The North Side』となっていて、プリンスという名称をあえて使われていません。タイトルに込めた意図を伺えますでしょうか。

「プリンスは最初、ネルソンという名でデビューしようとしていて、レーベルや周囲の友人たちが『プリンスの方が絶対いいよ』と説得したというのです。加えて、プリンスは幼少期から、自分のことを『ミスター・ネルソンと呼んでくれ』と、ことあるごとに言っていたというエピソードも残されている。これは彼の中でミュージシャンであった父親(ジョン・ネルソン)の存在がいかに大きかったのか、雄弁に物語っていると個人的には思っています。今回のタイトルにはその辺の意味合いも込められています。

また、北部で生まれ育ったという点も、プリンスの生涯を考える上ですごく重要なポイントです。アメリカでは北部と南部とでは文化が大きく異なります。今回の映画では、ノースサイドの人としての側面に光を当てているところがあり、タイトルに入れました」

―――プリンスといえば、メディアへの露出に積極的ではなく、ミステリアスな印象が付きまとっていますが、本作ではデビュー前からプリンスと親交のある方から、チャカ・チャーンやパブリック・エナミーのチャックDといったアーティスト仲間、さらには熱心なファンの人々まで、多岐に渡る人物の言葉によって構成されています。取材対象者はどのような方針で選ばれましたか?

「本当はもっと沢山の人にインタビューをしたのですが、全部使うとなると、尺が10時間くらいになってしまうため、泣く泣く刈り込んだのです。その中でも、チャカ・カーンのインタビューは必ず入れたいと思っていました。アーティスト仲間の中では、彼女はプリンスのことをおそらく最もよく知っている人物で、プリンスも彼女のことを姉のように慕っていました。

あとは、ZZトップのフロントマンであるビリー・ギボンズに話を聞けたことも大きかった。プリンスは、誰もが認めるギターの達人であるギボンズをもってしても、『超えることはできない』と言わしめる存在です。ギボンズの話を入れることで、プリンスのアーティストとしての偉大さを改めて浮き彫りにできたと思っています」

―――今お話に出た方以外のミュージシャンにも取材をされたのでしょうか?

「はい。しかしながら、取材をさせてもらったミュージシャンの中には、プリンスの人柄、彼との交流について語るのではなく、偉大なアーティストであるプリンスと自分がいかに仲が良かったかとか、自慢話に終始する人もいて。そのような人たちよりも、プリンスのことを真摯に話してくれる人…プリンスの最初の音楽教師だった男性とか、幼馴染だった人… のお話を多く使いました」

―――今回の映画では、プリンスがステージで躍動する映像はほとんど使われておらず、写真とアニメーションを駆使して彼の様々な側面に光を当てています。こうした構成をとられたのはなぜでしょうか?

「ストーリーを再現するのに、映像ではなく、画で表現したいと思ったのです。一方、画で表現するのにはリスクも伴います。というのも、皆さんの頭の中にはそれぞれのプリンス像があるので、それを超えるような画でないと、観る人は納得しないからです。それが懸念だったのですが、幸いなことに、南アメリカで活動している水彩画アーティストの方とご縁ができて、彼が素晴らしい画を作ってくれました」

©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC
©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC

―――最後の質問です。写真やアニメーションを使ってプリンスの人物像に迫っていく本作ですが、プリンスの肉声ではなく、彼が弾くギターの音色が印象的に使われていると思ったのですが、いかがでしょう?

「今回、権利の関係で、音楽は入れられなかったのですけど、そうした条件を聞いて、逆に安心しました。というのも、今ではスマートフォンを通じて音楽はどこでも聴けますし、ファンであれば誰しもがプリンスの音楽を聴いているのは当然だからです。今回の映画は、ミュージシャンとしてではなく、人間としてのプリンスにフォーカスしているので、音楽を入れるということはあまり考えていませんでした。

一方で、劇中では、プリンスがモントリオールで行われたライブで披露したソロギターの映像を使っています。個人的に、プリンスという存在を物語っているパフォーマンスの一つだと思っていまして、あの映像は入れたかったんです。

他にも3箇所ほど、プリンスのギターの音を入れているんですけど、ダメ元で版権元に弁護士を通して『入れてみたいのですけどダメですかね?』と訊いてみたところ、『入れた方がいいです』という回答をいただきまして(笑)。今回、ギターの音色を数箇所ですが、入れることできました」

―――短い時間でしたが、充実したお話を伺えて嬉しく思います。ありがとうございました。

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