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正義の基準とは。戦後の社会変化で見えてきたもの/新装版 わたしが正義について語るなら③

  • 2024.6.14
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『新装版 わたしが正義について語るなら』(やなせたかし/ポプラ社)第3回【全5回】正義とは何か、正義の味方とはどのような人なのか――。『アンパンマン』の作者・やなせたかしさんが自身の体験談を交えながら、正義への思いを綴った1冊です。戦争や自然災害、物価高…混迷の時代に生きる人々を勇気づける、やなせ流の人生哲学を『新装版 わたしが正義について語るなら』の中から抜粋してお届けします!

ダ・ヴィンチWeb
『新装版 わたしが正義について語るなら』(やなせたかし/ポプラ社)

どっちが正義でどっちが悪?

戦争で感じた大事なことがもう一つあります。それは、正義というのはあやふやなものだということです。

ぼくが子どもの頃は、天皇は神様である、天皇のために忠義を尽くし、日本を愛しなさいと教えられていました。子どもですから、先生が言えばその通りだろう、それが正しいのだと思っていました。

二十一歳で戦争に行った当時は「天に代わりて不義を討つ」と歌う軍歌がありました。「この戦争は聖戦だ」と勇ましく歌う歌です。ぼくも兵隊になった時は、日本は中国を助けなくてはいけない、正義のために戦うのだと思って戦争に行ったのです。

でも、聖戦だと思って行った戦争だって、立場を変えてみればどうでしょう。中国の側から見れば侵略してくる日本は悪魔にしか見えません。

そうして日本が戦争に負け、すべてが終わると日本の社会はガラッと変化しました。

それまでの軍国主義から民主主義へ。それまでは天皇が神様だと言っていたのに、急にみんな平等だ、民主主義だと言われるようになりました。

民主主義が何かということは本当はまだ誰にも分かっていませんでしたので、みんな右往左往していました。ぼくも状況がのみこめるまでぼんやりした感じでした。でも、だんだんはっきりと分かってきたことがあります。

正義のための戦いなんてどこにもないのです。

正義はある日突然逆転する。

逆転しない正義は献身と愛です。

それは言葉としては難しいかもしれないけれど、例えばもしも目の前で餓えている人がいれば一切れのパンを差し出すこと。それは戦争から戻った後、ぼくの基本的な考えの中心になりました。

正義が何かというのは難しい。後になってから気がつくことはあるけれど、その時には何が正しいのか分かりません。昨日まで正しいと思っていたことが、明日には悪に変わるかもしれない。戦争だって、両方とも光と影があって絶対的な悪があるのではない。アラブにはアラブの正義、イスラエルにはイスラエルの正義がある。相手をやっつければいいかというとそうはいかない。そんな簡単なものじゃない。このことはまた後で詳しくお話しします。

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