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雨の日に酔いたい【TheBookNook #24】

  • 2024.6.14

みなさんは雨の日、なにをしてますか? 連載「TheBookNook」Vol.24では、八木さんがぜひ雨の日に読んでほしい3冊をピックアップしてくれました。雨の日のお供に、ぜひどうぞ。

文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹

梅雨や台風、ゲリラ豪雨など、年間を通して雨の降る日は幾度かあります。恵みの雨という一面がある一方で、憂鬱な気分になったり、外に出るのが辛くなる人も多いのではないでしょうか。

でも、寂しいときも嬉しいときも、そのときの心の向きに寄り添ってくれる、何者にでもなってくれるのも、雨。騙されたと思って、雨の音に耳を傾けながら本を開いてみてください。雨はときに、小説のなかの決まった物語さえを、大きく変えていきます。

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なぜ作者はここで雨を降らせたのか……。物語のなかにある“雨”の意味を考えて読むのも、描かれていない“雨”を想像して読むのも、楽しいものです。

今回はそんな雨が印象的に描かれている作品を紹介させていただきます。今、降る雨とリンクさせながら読む物語はいつもよりも色濃く映るはず。この機会に、家のなかで楽しめる雨小説に酔ってみませんか。

1.市川拓司『いま、会いにゆきます』

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6月の雨の日、亡くなった妻が帰ってきた……記憶は失っているけれど。2004年に実写映画化され、海外でもリメイクされた今作品。病気を抱えた父と息子のもとに訪れた切なくて優しい奇跡の物語。

いろいろな本を読んでから出会うと、より、本作から溢れ出すおとぎ話のようなピュアな言葉達に心が浄化されてゆくのを感じます。純愛小説なんて興味ない! という人にこそおすすめです。

というか、絶対に読んだ方がいい。

語り手目線で物語が進んでいくのですが、終盤に明かされた真実のおかげで、妻はどれほど嬉しく満ち足りた時間を過ごしていたのだろうかと、この作品を冒頭から包み込んでいた大きな愛にハッとさせられ、不覚にも涙が頬を伝いました。

“亡くなった人が帰ってくる”というありきたりな展開に収まらず、一度読み終えた後でも、別の結末、別の幸せを求めて、何度でも読み始めてしまいます。手のぬくもり、会話のリフレイン。いま、会いにゆきます。

2.道尾秀介『龍神の雨』

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梅雨の季節を彩った雨の一冊。物語の最初から最後まで、土砂降りが続く小説が他にあっただろうか。読んでいるあいだはずっと心が締め付けられるような気持ちが続きます。それぞれの継母、継父と暮らす2組の兄弟が、万引き犯と被害店舗の従業員という形で繋がっていく本作品。

人間誰しもが抱いたことがあるであろう、“あのときアレがなければ……”“あのときこうしていれば……”という後悔めいたものを主軸に、“道尾色(みちおしょく)”濃いめで描かれており、締め付けられる胸を労わりながら読み進めました。

どこかで雨が降って、そこに人がいて。傘をさすのか、濡れて歩くのか、立ち止まって首を縮めながら雨が止むのを待つのか……。そんな正解のない小さな選択が、ただの“雨”が、4人の運命を侵してゆきます。

物語最後の言葉が心に深く刺さり、私のなかにも消えない“毒”として残りました。この不条理をどう消化するのかが、私たち読者への宿題なのかもしれません。鳥肌必須の解説も、ぜひ。

3.水野敬也『雨の日も、晴れ男』

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ふたりの小さな神様のいたずらで主人公・アレックスは不条理な出来事に遭遇し続ける運命となります。しかし、職場をクビになろうと、家が燃えようと、妻子が出ていこうと、アレックスはその出来事のなかにポジティブなものを見つけ出す天才でした。

同著者の“夢をかなえるゾウ”で学んだ人生を豊かに生きる方法がここにも盛り込まれています。どんなときでも前向きに生きること、笑うことがいかに人生に必要か、他人を喜ばせることが自身の喜びだといえる彼の生き様から、神様たちは大事なことに気づかされていきます。

超絶ポジティブ男の生き様から学ぶ人生は、いい意味でしょうもない。しょうもなくて、素晴らしく愛おしい。彼のようになることはできないけれど、正直なりたくはないけれど、少しでも自分のなかに彼の欠片がいてくれたら……。

とても読みやすい物語なので、気分が沈んだり、集中力が続かない雨の日でもサクサクと読めます。読み終わる頃には少し降る雨が綺麗に見えるかもしれません。“神様は、人を不幸にすることも、幸福にすることもできない。ただ、出来事を起こすだけ。”

■雨の日こそ読書

雨だから天気が悪いと決めつけず、自然の雨の音をBGMに、物語の世界観をより一層、色濃く味わってみてください。

また、雨の日に会えますように。

■「TheBookNook」について

この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。

一冊の本から始まる「新しい物語」。

「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。

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