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「孤独にならないで」SABU監督とイ・ジフンが共鳴する『アンダー・ユア・ベッド』のメッセージ

  • 2024.6.13
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初恋の女性が夫の暴力に苦しんでいたことを知り、ストーカーになってまで彼女を守ろうとする男性・ジフンの姿を描いた映画『アンダー・ユア・ベッド』(公開中)。2019年に高良健吾主演で映画化された大石圭の同名小説が、韓国で再び映画化された。メガホンをとったのは『うさぎドロップ』(12)、『砕ける散るところを見せてあげる』(21)など個性的な作風で様々な作品を送り出してきたSABU。主演をドラマ「新米史官ク・ヘリョン」などで知られるイ・ジフンが務めている。本作で初めて顔合わせし、タッグを組んだSABU監督とイ・ジフンに撮影現場での裏話や見どころについて聞いた。

【写真を見る】友人であるハン・ヒョジュの活躍を見て、もっと日本でも活動したいと話すイ・ジフン

過去に自分の名前を呼んでくれたイェウンを忘れられずにいるジフン [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED
過去に自分の名前を呼んでくれたイェウンを忘れられずにいるジフン [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

「ある意味チャンスだと思って韓国で撮ることに決めました」(SABU)

――SABU監督は本作で韓国映画界に初めて進出したわけですが、韓国のロケ地でスタッフ、キャストと仕事をするうえで、不安やブレッシャーはなかったのですか?

SABU「正直なことを言えば、最初に脚本をいただいた時は少し戸惑ったんです。内容的にDVシーンや性描写が今の時代とちょっと合っていない気がして。ただ、僕はいつも同じような作品を作り続けるのは嫌で、できるだけ仕事の環境を変えていろんなことに挑んでみたいと思っています。だから、今回のことはある意味チャンスだと思って韓国で撮ることに決めました」

主要スタッフ・キャストはほぼ韓国出身だった [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED
主要スタッフ・キャストはほぼ韓国出身だった [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

――撮影の時期は冬で、とても寒かったと聞いています。

SABU「そうですね。 しかも気温がマイナス18度まで下がって、足が凍るぐらいでしたよ。京畿道の広州市でロケをして、撮影に使ったのはモデルハウスでした。まだ建設途中で、『撮影までに完成します』と言っていたのに、完成しなくて。玄関のドアなどは美術部に作ってもらったんです(笑)」

イ・ジフン「僕はずっとベッドの下に隠れている役どころだったので助かりました。ベッドの下は暖かくて(笑)」

イェウンの家に侵入したジフンは、ベッドの下から異常な夫婦生活をのぞき見る [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED
イェウンの家に侵入したジフンは、ベッドの下から異常な夫婦生活をのぞき見る [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

――ジフンさんは日本人の監督との仕事は初めてでしたが、現場に入る前は不安などありましたか?

イ・ジフン「最初はコミュニケーションをうまく取れるかなという心配はあったんですけど、現場には韓国語、日本語の両方喋れる通訳さんもいたので、言葉の心配はまったく感じませんでした。それよりも、SABU監督がちょっと強面なので、心配だったんです(笑)。でも、いざ撮影に入るとイメージと全然違ってすごく温かい方で、監督はまるで僕を息子のような感じでいろいろと教えて下さいました。現場もすごく和やかに進んでいったんですよ」

――SABU監督はイ・ジフンさんに対して、どう感じていたんですか?

SABU 「ちょうど、ジフン君は映画の撮影と舞台が重なっていて。それで、僕は舞台を見に行ったんです。演じているのが、すごくコミカルな役どころだったので、それを引きずったまま、こちらの現場に来られても困るなあと、少し心配していたんですけど。さすがプロで、ちゃんと切り替えて現場に臨んでくれましたね」

初めて韓国での撮影を経験したSABU監督 撮影/杉映貴子
初めて韓国での撮影を経験したSABU監督 撮影/杉映貴子

――イ・ジフンさん自身はどうでしたか?それに精神的にも追い込まれる役どころだったと思うのですが、演じるに当たって、どんな気持ちで挑んだのですか?

イ・ジフン「すごく難しい作品で、難しい役でした。実際、このキャラクターをどう演じればいいのか、撮影の中盤まで来てもうまくつかめなくて、すごくプレッシャーも感じていました。でも、監督が『ジフン、 何かをしようとしなくてもいい、その場で自分が感じているものだけを表現すればいい。プレッシャーを感じなくてもいい』とおっしゃってくれたので、そこからは役に集中して演技に入り込んでいたら、いつの間にかに撮影が終わっていました。本当に監督の言葉のおかげで楽になりましたね」

「言葉は伝わらなくても、監督に慰めてもらってるような気がしていました」(イ・ジフン)

【写真を見る】友人であるハン・ヒョジュの活躍を見て、もっと日本でも活動したいと話すイ・ジフン 撮影/杉映貴子
【写真を見る】友人であるハン・ヒョジュの活躍を見て、もっと日本でも活動したいと話すイ・ジフン 撮影/杉映貴子

――今回のストーリーは日本版と違って、主人公のジフンだけでなく、ヒロインのイェウン、そして、彼女に虐待をする夫・ヒョンオにも心に傷があるという設定をしっかりと描いてますね。

SABU「もともと韓国側からいただいたシナリオは原作とほぼ同じだったんですが、現場に入ったら、プロデューサーから『3人(ジフン、イェウン、ヒョンオ)の話にしてほしい』と言われて、それなら好きに変えてしまおうかと(笑)。それで本当は3人それぞれ、こうなりたいと思っている自分があったけれど、そうなれず、『助けて』と声をあげたかった時に言えなかったという過去を抱えている設定にして、物語を作っていったんです」

 イェウンを24時間監視するジフン [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED
イェウンを24時間監視するジフン [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

――なるほど。日本版よりも、3人の背景が描かれている分、物語にも深みを感じました。

SABU「僕は、映画を観た後は観る前よりも気持ちが少しでも上がっている作品を作りたい。だから、最終的に希望を持てるものにしたくて。今回は、何か優しさを感じられるものにしたかったんです。ただ性描写に関しては生々しくしたくなかった。先ほども言ったけど、今回はいただいた作品で、そもそも『お好きにやってください…』とも言われたので自分ならではの色を出してもいいだろうと。それで画角を4:3にすれば。展開が早く見えたり、アート的にも見えるだろうし、画面に余白が生まれるところで想像を埋めるというか。おもしろい効果もあるんじゃないかと、ある意味挑戦だったんです」

――イ・ジフンさんは今回、演じた役が同じジフンという名ですよね。先ほど、監督から「何も考えずに演じてほしいと言われた」とおっしゃっていましたが、実際に自分自身と重なったり共感したりするところはありましたか?

イ・ジフン「彼女に対する気持ちというよりは、人って豊かな環境で育っていても、そうじゃない環境で育っていても、誰でも何か満ち足りていないと感じることはあるじゃないですか。僕自身も親から少し離れている時があって。劇中のジフンのように子どものころ、家族に大事にされなかったという記憶があるんです。だから、少しだけジフンの気持ちが理解できて。それをちょっとベースにしてお芝居したっていうのは確かにあるかもしれません」

――SABU監督との仕事はどうでしたか?

イ・ジフン「すごく勉強になりました。自分自身、『アンダー・ユア・ベット』の前と後では芝居が少し変わっているような気がするんです。とくに、SABU監督との仕事で、自分が仕事をした韓国人監督からは聞いたことがない3つのことを聞きました。まず、『ここが足りない』ということをちゃんと言ってくれる。そして『ここはすごくよかった』とちゃんと褒めてくれるし、また『ここは間違っているね』ということも全部その場で言ってくれるので、自分が何をすればいいのかということがすぐ分かるんです。僕のことをここまで考えてくれるんだと思いましたし、監督との仕事でも自分の芝居も監督からすごく影響を受けました。本当に学ぶ機会になったなと、SABU監督には感謝の気持ちでいっぱいなんです」

――監督とのことで特に印象に残っていることはありますか?

イ・ジフン「監督は笑っている時の目がすごい可愛いんです(笑)。ただ、作品に関してはすごく真摯で、厳しいというのが魅力でもあるんですよ。だから『アンダー・ユア・ベッド』の現場はずっと温かい雰囲気で楽しくて。 作品が終わるまですごく幸せな気持ちでできました。僕にとって、一番の思い出になったのは、毎回撮影が終わってから現場の裏のほうで監督と休憩していたことです。僕が日本語ができたらよかったんですけど、できない。だから、2人でただ休憩しているだけなんですけど、言葉は伝わらなくても監督と一緒に過ごしているだけで、何かすごく慰めてもらってるような気がしていました」

――SABU監督は初めての韓国のスタッフ、キャストと仕事をして、日本とは違うと戸惑った場面などはありましたか?

SABY「いや、そんなことは全然なかったですね。やりやすかったし、みんな優しかったです。ロケハンの時も、たまたま通訳がいない時があったのですが、韓国語のわからない僕をすごく気遣ってくれました」

SABU監督とイ・ジフン、イェウン役のイ・ユヌ、ヒョンオ役のシン・スハン [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED
SABU監督とイ・ジフン、イェウン役のイ・ユヌ、ヒョンオ役のシン・スハン [c]2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

――今回の作品でSABU監督が観客に届けたいことはなんでしょう?

SABU「やっぱり『孤独にならないで』ということですね。この作品で主人公が取る行動は間違っていますが、助けがほしい時、声をあげれば、どこかで誰かが聞いていたり、受け止めてくれたりする。だから決して諦めないでほしいということを伝えたいですね」

――イ・ジフンさんの思う見どころやメッセージは?

イ・ジフン「まず、僕も監督がおっしゃったように、『孤独にならないで』ということですね。韓国で公開された時にもおっしゃっていて心にすごく残ったんですが、改めて言われたのを聞いて、本当に僕もそう思います。あなたの声をどこかで聞こうとしている人がいるかもしれないから、孤独にならないでほしいと思います。僕自身のことでいえば、この映画で初めて脱いだんです、上半身だけですけど。まあ、初めてなので (ヒョンヌ役の)スハンさんみたいに全部脱いだほうがよかったかなと思いますけど(笑)」

 SABU監督もイ・ジフンの日本での活動に太鼓判! 撮影/杉映貴子
SABU監督もイ・ジフンの日本での活動に太鼓判! 撮影/杉映貴子

――今、日韓の俳優たちがドラマや映画で共演していますが、ジフンさんはどう考えていますか?また今後一緒に組んでみたい監督はいますか?

イ・ジフン「ハン・ヒョジュさんが今、日本で小栗旬さんとNetflixのドラマを撮影しているなど韓国の俳優が、日本で色々撮っているという話はけっこう聞くんです。なかには日本語が話せなくても出演している人もいます。僕はすごく暗記力がよくて覚えるのは得意なので、日本語のセリフは覚えられますから、機会があったら挑戦してみたいですね。日本映画のなかでは『そして父になる』が好きなので、是枝裕和監督と仕事できたらいいな。もちろんSABU監督とはまた別の作品でご一緒したい。どんなにちっちゃな役でもいいので。ぜひいつか出してくださいね』って、約束しましたよね(笑)」

SABU「その日を楽しみにしています!」

取材・文/前田かおり

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