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映画界の巨匠・原田眞人、渾身の青春×演劇×エンタメ小説! NYの演劇学校に飛び込んだのは、母の仇討ちのため――。

  • 2024.6.13
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ダ・ヴィンチWeb
『ACT!』(原田眞人/文藝春秋)

1997年。ニューヨークの演劇学校に短期留学した日本人の“ぼく”。その目的は、志半ばでハリウッド女優としての道を断たれた母の仇討ちだった。いろいろなバックボーンを持つクラスメイトたちと出会い、毎日しのぎを削りながら、“ぼく”のなかの才能が目覚めはじめる――。

『日本のいちばん長い日』『BAD LANDS バッド・ランズ』など、骨太な題材を扱った社会派ドラマから痛快エンターテインメントまで、日本映画の第一線で活躍し続ける原田眞人監督。これまでに映画の小説版をはじめ何作か小説を発表してきた原田監督だが、本作『ACT!』(文藝春秋)は本格的な小説家デビュー作と呼びたい力作にして快作だ。

“ぼく”こと主人公の名は城島ペン=PJ。芸名ではなく、れっきとした本名だ。母はかつて、ハリウッド映画のゲイシャ役としてのみ知られる元女優のペニー・ジョー。ペニーは非白人、そして女性であるがためにハリウッドで冷遇され、母国日本では国辱女優扱いされた。病で余命いくばくもない母ペニーは息子に訴える。

「仇とってよ」

ゲイシャでもカラテキッドでもない、アメリカ映画で当たり前の日本人を当たり前に演じるような役者になってよ、と。

かくして20歳のPJは、かつて母が学んだ名門演劇学校ビッツの門を叩く。そこには多種多様な生徒たちが集ってくる。ユダヤ系のリッチガール、テリー。地下鉄警官として働きながら受講するナターシャ。ベストセラー作家を父に持つブロンド美女トリッシュ。謎めいた魅力を放つ韓国人と黒人のダブル、ランヒー。4ヶ国ものルーツを持つ陽気な青年ルー。宗教上の理由でダーティワードを口にできないヤン。シェイクスピア信者のオーエンに、元ハリウッド映画の一発屋ラファエル……。

まさに人種のるつぼ。生徒ひとりひとりにPJに負けないほどのドラマがあり、著者の筆はPJに注ぐのと等分に彼らの生きざまを綴る。憎まれ役にあたる人物も、授業からフェイドアウトしていく生徒も、無駄な人物はひとりとしていない。そんな人間描写の厚みはそのまま物語の厚みともなっている。

未来のスターを目指す生徒たちに、教師パウンダーは言い放つ。

「俳優になるには、二〇年かかる」

これまでに数限りない俳優たちと接してきた著者が書いているだけに、迫ってくる言葉だ。

パウンダーをはじめ厳しくも情熱的な教師陣から、PJたちは演じることを学ぶ。それはただ台詞を覚えることではない。キャラクターになりきることでもない。ビッツの創設者サイラス・ケインの言葉を借りるなら『与えられた想像上の状況における真実を生きること』。二人一組で向きあい、相手の反応を繰り返す「リペティション」をひたすら特訓するうちにPJは演技の奥深さ、底知れなさに魅せられていく……。

語り手であるPJの目を通して映しだされるニューヨークの街並みの鮮やかさ。ビッツの理念に強い影響を与えた、ロシア演劇界の不世出の天才メイエルホリドの存在。ソ連、日本、アメリカにおける共産主義弾圧と闘った演劇人たちの歴史。さまざまな要素が重層的に絡みあい、ときに脱線しかけては、より豊かになって本筋に戻ってくるのも長編小説ならではの愉しさだ(なにしろ原稿用紙1000枚強なのだ)。

主人公の成長ドラマを軸として恋愛に青春、社会派エンターテインメントに謎解きミステリまでも加わって、映画同様に活字でも100パーセントの原田眞人ワールドが展開。著者自身が青春時代を過ごし、映画監督として学んだアメリカのエンターテインメント産業への尽きせぬ思いが隅々にまで――行間からあふれんばかりにこもっている。

文=皆川ちか

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