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『東京タワー』小島透のような青年を演じさせると、キンプリ・永瀬廉は完ぺきなワケ

  • 2024.6.13
『東京タワー』小島透のような青年を演じさせると、キンプリ・永瀬廉は完ぺきなワケの画像1
もともとあった陰がグループ分裂でまた濃くなった永瀬(写真:サイゾーウーマン)

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、 『東京タワー』(日本テレビ系)主演のキンプリ・永瀬廉について俳優としての魅力をひもとく。

目次

・映画版よりシリアストーンのドラマ『東京タワー』
・透のような青年を演じさせると、永瀬は完ぺき
・朝ドラ『おかえりモネ』での深い闇を抱える好青年役
・主演映画『真夜中乙女戦争』、含みのある表情に吸引力がある
・永瀬廉の焦燥感といら立ち

映画版よりシリアストーンのドラマ『東京タワー』

永瀬廉が主演を務める『東京タワー』(テレビ朝日系)は、21歳の医大生・小島透(永瀬廉)と45歳の建築家・浅野詩史(板谷由夏)の不倫の恋を描いた恋愛ドラマだ。

夫がいると知りながらも詩史との関係にのめり込んでいく透。一方、透の友人・大原耕二(Travis Japan・松田元太)も家庭教師のアルバイトで知り合った生徒の母親・川野喜美子(MEGUMI)と不倫関係に陥ってしまう。

内向的で受け身に見えるおとなしそうな透と、明るく軽薄で能動的に見える耕二が、20歳以上年上の既婚女性にのめり込んでいく様子を対比して見せていくのが、本作の面白さだ。

原作は江國香織の同名小説(マガジンハウス)。2005年に岡田准一主演で映画化されているが、今回のドラマ版のほうが物語のトーンはシリアスだ。不倫に対する反発が強まっている令和の世相を反映してか、道ならぬ恋を貫いた結果、起きた男女の悲劇という側面が、より強まっているように見える。

また、永瀬が演じる透の佇まいも映画版(or岡田)に比べてどこか不穏で危なっかしく、よく言えば一途で純粋だが、悪く言えば視野が狭くて思い込みが激しい。

透のような青年を演じさせると、永瀬は完ぺき

第1話。デートした帰り道で「夫がいるのよ」と言って別れを切り出し、タクシーで帰ろうとする詩史に、透はいきなりキスし、そのままホテルで一夜を過ごす。

詩史は常に平然としているクールな大人の女性だ。若さゆえに世間を知らない透がそんな詩史に翻弄されて、悶々と葛藤する様子がドラマの中心となっているが、映像から受ける印象は真逆で、むしろ詩史の方が透に振り回され、いつしか退路を失ってしまったように見える。

第1話も勢いに任せた透による強引な展開だが、永瀬の強い眼差しと寂しげなモノローグを被せるという力技の演出によって、詩史が恋に落ちるのも仕方ないなと納得させられてしまう。

それだけ透には、異性を惹きつける魅力があるということだが、何より一番厄介なのは、彼が自分の魅力に無自覚なことだろう。

第4話。詩史との関係に苦しんでいる透に対し、同級生の白石楓(永瀬莉子)が「捨てられた犬みたいな顔してる」と言って心配し、詩史のことは全部忘れさせてあげると言って距離を縮めてくるのだが、詩史や楓が恋に落ちる姿を見ていると、透の寂しげな佇まいには、異性を魅了する独自の吸引力があることを実感する。

透のような、寂しさが醸し出す色気をまとった受け身の青年を演じさせると、今の永瀬廉は完ぺきである。

『おかえりモネ』、深い闇を抱える好青年を演じきった永瀬

アイドルグループ・King &Princeのメンバーとして大活躍している永瀬だが、俳優としての魅力に筆者が気づいたのは、21年のNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』だった。

永瀬が演じたのは、気仙沼の離島で漁師をしている「りょーちん」こと及川亮。11年の東日本大震災で母親を失ったりょーちんは、高校卒業後、漁師として真面目に働いていた。

周囲から、真面目で優しい好青年として受け入れられていたが、震災で母親を失ったことで意気消沈し、仮設住宅で酒浸りの日々を送る父親のことで苦しんでいた。その悩みを一人で抱え込んだ結果、どんどん自分自身を追い詰めてしまう。

真面目で優しく見えるが、心の中に深い闇を抱え、いつ爆発してもおかしくない危うさを抱えたりょーちんという難役を、永瀬は見事に演じきり、俳優としての評価を高めた。

主演映画『真夜中乙女戦争』、含みのある表情に吸引力がある

一方、『おかえりモネ』で開眼した危うい内面を抱えた青年役を別の角度から演じたのが、2022年の主演映画『真夜中乙女戦争』だ。

本作で永瀬が演じたのは劇中では「私」と語る大学生の青年。

大学の退屈な日々で、無気力な日々を過ごしていた「私」は、黒服(柄本佑)と呼ばれる男と先輩(池田エライザ)と呼ばれる女性と出会ったことで人生が変化していく。

『真夜中乙女戦争』は、「世界をぶっ壊してやりたい」という黒服の「破滅願望」と、先輩に対する「恋愛感情」の間で引き裂かれた「私」が、東京で悶々とする姿を描いた青春映画だ。物語は観念的でわかりにくく、思春期に鬱屈を抱え「こんな世界は滅んでしまえ」と思ったことがない人以外には、あまりピンとこない映画かもしれない。

だが、苦悶する永瀬の表情には深い色気があり、彼の含みのある表情の奥で見え隠れする本当の気持ちを知りたいと思わせる吸引力が、映画の中には存在する。そのため物語が理解できなくても、「私」のことが気になって最後まで目が離せない。

永瀬廉の焦燥感といら立ち

恋愛ドラマに特化した『東京タワー』と『真夜中乙女戦争』は正反対の作品に見えるが、舞台が東京、主人公が大学生、東京タワーのビジュアルが象徴的に挟み込まれるなど重なる部分も多い。何よりどちらの作品も永瀬が演じる主人公が一見、平凡にみえてミステリアスな存在で、彼の気持ちが知りたくて目が離せなくなる。

どんな役を演じていても永瀬はどこか寂しげで、焦燥感といら立ちを抱えているように見える。

そんな彼が苦しむ表情は切なく、危うい雰囲気が立ち込めている。その危うさが暗い色気となって醸し出す空気こそが、永瀬廉の最大の武器である。

成馬零一(ライター)
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020(PLANETS)がある。

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