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「長男だけが遺産相続」はあり得る?現代でも起こりうるトラブルを【プロが解説】

  • 2024.7.30
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

朝の連続ドラマ小説『虎に翼』(NHK)で以前、「夫が死亡した際に、長男のみが遺産を相続し、妻と残りの子ども(次男、三男)は相続放棄しろと迫る」というシーンがあり、遺産相続について話題になりました。

戦後直後の昔の価値観だと感じた方が多いようですが、SNSでは、「私もおなじ目にあった」「自分の父親も父の兄だけに相続させるといって揉め、絶縁した」「遺書に『男兄弟にのみ相続させる』とあり、姉と揉めた」などなど、なんと、令和の今でも同じことが起きているようです。

家父長制のいまだ色濃く残る遺産相続のケースについて、行政書士の奥村美妃子さんにお話をお伺いしました。

長男だけが遺産相続するなんて!?

---夫が死亡した際に、長男のみが遺産を相続し、妻と残りの子ども(次男、三男)は相続放棄しろと迫り、妻・次男・三男がそれを不服とした場合、どうなるのでしょうか?

相続放棄は強要することはできません。もし長男が他の相続人に対して相続放棄をするように強く迫り、『相続放棄をしなければひどい目に合わせる』と脅したり、暴行を加えた場合、長男が強要罪に問われる可能性があります」

---もし裁判になった場合、現代ではどういった判決が出るのが一般的ですか?

「遺書がない場合には、いきなり裁判ではなく家庭裁判所で遺産分割調停(いさんぶんかつちょうてい)という手続を行います。この手続は、相続人だけで話がまとまらない場合、家庭裁判所の裁判官と調停委員が、相続人それぞれの主張を聞いたうえで、相続人全員の合意を目指す手続です」

---もし夫が遺書を残していて「遺産は長男にのみ相続させる」と書いてあった場合、妻・次男・三男が民法の定める配分で遺産を相続できないのでしょうか?

長男を含む相続人全員で合意すれば、民法の定める配分で遺産を相続することは可能です。しかし実際には、遺産の中に不動産などの分けにくいものがあるため、民法で定める配分どおりに分けることは難しいかもしれません。

なお長男が合意しない場合、民法の定める配分通りに分けることは難しいものの、民法1042条では、兄弟姉妹以外の相続人には『遺留分』と呼ばれる最低限度の遺産取得分が定められています。今回のケースの場合、すべてを相続した長男に対し、自分の遺留分を侵害されたとして減殺請求が可能です。家庭裁判所に申立を行うことに加え、内容証明郵便などで相手方に通知しなくてはいけません」

---遺留分の請求が可能なのですね。遺留分はどれくらいの金額になるのでしょうか?

「遺留分の計算は、相続人が配偶者と子どもの場合、法定相続分×1/2となり、子どもが何名かいれば、子どもの人数で割ります。

今回のお話のように、相続人が配偶者と子ども3人の場合、遺留分を算定する基礎になる財産が3,000万円だとすると、本来の相続財産は3,000万円×1/2=1,500となり、遺留分はその1/2となるため、配偶者が請求できる遺留分は1,500万円×1/2=750万円、子ども1人当たりの遺留分は、750万円をさらに3等分し、1人分は250万円になります。

遺留分の減殺請求には時効があることに加え、手続が煩雑であり、時間もかかりますので、早めに弁護士などの専門家へのご相談をおすすめします。詳しくは裁判所のHPもご覧ください」

「遺留分侵害額の請求調停」(裁判所)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html

---もし妻も高齢で、夫の介護を長男の奥さんのみがしていた場合(妻も長男もしていない)、遺産の配分は変わってくるものでしょうか?

「民法725条により、亡くなられた方(被相続人)に対して無償で療養看護等をした6親等以内の血族(相続人を除く)、3親等以内の姻族は、遺産を取得した相続人に対して『特別寄与料』を請求できます。長男の奥さんは3親等以内の姻族に該当します。

長男の奥さんが無償で夫の療養看護をしていた場合など、民法1050条の『特別の寄与』が認められる可能性があり、特別寄与料を相続人に対して請求することができます

特別寄与料は、当事者同士で話し合って決めることができますが、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所への審判を求め、家庭裁判所が金額を決めます」

---『特別の寄与』が認められる可能性があるのですね!相続人が複数いる場合はどうなりますか? 

各相続人がそれぞれの相続分に応じ、特別寄与料を負担することになります。例えば、長男の奥さんに600万円の特別寄与料が認められた場合、妻(被相続人の配偶者)に対して600万円×1/2=300万円、長男、次男、三男は、残りの300万円を3等分した100万円を、長男の奥さんに支払うことになります。そのため遺産の配分と金額が変わり、注意が必要です」

---やはり専門家に相談した方が良さそうですね。ありがとうございました!

うやむやにせずプロに相談を

地域や慣習によっては、残念ながら現代でも家父長制の風潮が色濃く残っているため、遺産相続の際にトラブルが発生するかもしれません。

泣き寝入りをするのではなく、どういった手続きが必要で、どれくらいの金額の遺産が相続可能なのか、法律の専門家に相談してみることをおすすめします。



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