介護の担い手が家族の一人に集中してしまうケースがあります。自分の親ではなく、義両親の世話をしている人も少なくないでしょう。しかし、血族ではない場合、看取り後に遺産を受け取る資格はあるのでしょうか。
介護に費やした時間と苦労を考えると、まったく遺産を受け取れないというのは納得できない…と考える方もいるでしょう。
配偶者の親の遺産は受け取れないのか、行政書士さんにお話を伺いました。
私だけが介護をしていたのに…
義父が亡くなったときの話です。先に他界した義母、そして義父とどちらも要介護だったため、結婚直後から同居している私が介護をしていました。
夫は、仕事が忙しいといって介護や日々の家事などはいっさいしてくれませんでした。夫のきょうだいやその家族たちも私にすべて任せっきりでした。子どもたちはすでに成人しており、家を出て働いています。
義父が亡くなった途端、夫から離婚を切り出されました。介護要員としては必要だったが、もう両親が亡くなったため必要ない、と言い出したのです。はっきりは言いませんが、ほかに再婚したい相手がいるような雰囲気です。
生前、義両親は遺産は私にも残したいと言ってくれていましたが、遺言書は書いていませんでした。
夫は、私に遺産を受け取る権利はないと言います。
何十年も共に暮らしずっと介護をしていたのに、血縁関係者ではない私は義両親の遺産を受け取ることはできないのでしょうか?
今後どのように生活をしていけばよいか、途方に暮れています。
こちらのケースについて、行政書士である奥村行政書士事務所の奥村美妃子さんにお話をお伺いしました。
---この投稿者さんは、義父の遺産を受け取ることはできないのでしょうか?
「義理のお母様、お父様をずっと介護されてきたとのことですが、民法1050条で定める『特別の寄与』と認められる可能性があります。
民法725条で定められている親族のうち、亡くなられた方(被相続人)に対して無償で療養看護等をした6親等以内の血族(相続人を除く)、3親等以内の姻族は、遺産を取得した相続人に対して『特別寄与料』を請求できるようになりました。今回のご相談者様は、息子のお嫁さんなので3親等以内の姻族に該当します」
---遺産を取得した相続人に対して請求できるのですね。
「以前から『一番介護をしたお嫁さんは相続権がないので何ももらえない』という問題点は指摘されており、特別寄与料は民法の改正とともに導入された新しい制度です」
---このようなケースが多かったのですね。同居して義両親の面倒をみていた人も、義両親とはあまり会っていなかった人も、状況には関係なく同様に、配偶者は遺産の相続権がないのでしょうか?
「原則として相続人とならず、相続権はありません。しかし相続人には該当しなくても『被相続人に対して無償での療養看護その他の労務の提供をし…(以下中略)被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした』場合には民法1050条の特別寄与者に該当する場合があります。
今回の相談者様のように、義両親の介護をずっとお1人でされてきた場合には、特別寄与者に該当する可能性がありますが、『遠方に住んでいてたまにしか会わない』のであれば、特別寄与者にも該当しません」
---生前の関わりが重要になってくるのですね。また、離婚することになったとして、この投稿者さんは夫からどのような金銭を受け取ることができるのでしょうか?
「下記のパターンが考えられます。
- 特別寄与料
- 財産分与
- 離婚の精神的苦痛に対する慰謝料
義父の介護を長年行ってきたので、特別寄与料の請求が可能と思われます。
また、これから離婚されるとのことですが、結婚していた間夫婦が協力して築いた財産(預貯金、有価証券、不動産など)は、わけてもらうことができます。加えて精神的な苦痛を被ったとして、離婚に対する慰謝料を請求することができます。
なお、相談者様が『ほかに再婚したい相手がいるような雰囲気』とおっしゃられていましたが、不倫関係となっている相手がいる場合には、その女性に対しても慰謝料の請求が可能と思われます」
---諦めずに対処した方が良さそうですね。ありがとうございました!
遺産トラブルに気をつけて
今回の投稿者さんは、特別寄与料の請求ができる可能性があるようです。さらに、離婚の財産分与、夫の不貞に対して慰謝料も請求できる可能性も出てきました。
介護をした義両親からの遺言状がない場合でも、諦めることなく請求する手立てを調べてみる必要がありそうですね。