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ラストが悔しいほど完璧だった…ドラマ『95』最終回が描いた希望とは? “絶望の時代”を描いたドラマ、総括レビュー&解説

  • 2024.6.13
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Ⓒ「95」製作委員会

テレビ東京開局60周年記念ドラマ『95』(テレ東系)が最終回を迎えた。 本作は、早見和真の小説を原作とし、主演の髙橋海人が1995年に起きたある出来事について回想する。今回は、青春の残酷と救いを隅々まで見せつくし、大団円を迎えた最終話のレビューをお届け。(文・田中稲)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。

ドラマ『95』第10話よりⒸ「95」製作委員会
ドラマ『95』第10話よりⒸ「95」製作委員会

【写真】髙橋海人&中川大志の怪演にゾクッとさせられる劇中写真はこちら。ドラマ『95』劇中カット一覧

まさか、こんな爽快感と開放感が用意されているとは思ってなかった!

しばらく余韻が抜けない。なんたって、青春の残酷と救いを隅々まで見せてもらったのだから。

渋谷打ち上げ花火計画を進めようとする秋久(髙橋海人)たちは、武闘派集団「キューティーハニー」に絡まれ、乱闘になる。

たびたび彼らの前に立ちはだかる暴力軍団は、分かりやすい敵でもあり、世界の終わりをうっすらと期待していた1995年の荒みそのものだ。

その乱闘で、秋久は、「銃」という、一発で決着がつく「銃」という、「ダセェ大人」の象徴で決着をつけようとする。巨大でクレイジーな大黒(勝矢)に銃口を向けるのだ。

しかし翔(中川大志)が制止する。

「終わらせたくても続くんだよ世界は。だからQ、一人で行くな!」

ドラマ『95』第9話よりⒸ「95」製作委員会
ドラマ『95』第9話よりⒸ「95」製作委員会

翔はチームを作った張本人であり、親は権力者、本人はカリスマ性を持つイケメン。やっていることは正義感からである。けれど、自分のエゴで周りを振り回すことに無自覚だ。オウム真理教に少し関わっていたことがある、という設定もまた、彼の完全主義や潔癖症を感じさせる。

彼の傲慢さは、無意識で多くの人を軽んじ、傷つけてしまっていたのではなかろうか。私は勝手に『95』で描かれた闇のなかには、翔のカリスマ性が作った影もあると思っている。

宝来(鈴木仁)は翔に銃を向け「俺に興味を示さないおまえが嫌いだ」と怒るのだ。最後までチームに入れてもらえなかった栗田(井上瑞稀)もまた、「自分を見ようともしない」と、翔に嫌悪感を示していた。

翔は、彼らの悔しさにきっと気づかない。『95』からは、そんな「受け入れられなかった者の怒り」もしっかり届いてきた。

ドラマ『95』第9話よりⒸ「95」製作委員会
ドラマ『95』第9話よりⒸ「95」製作委員会

敵と殴り合いながら、翔と秋久に

「明日、学校で会おうぜ」

と言い、スチャッと二本指敬礼ポーズを取るシーンは、粋過ぎた。あの笑顔! ハートを撃ち抜かれても仕方がないというものである。

翔が脚を撃たれ「誰かなんか話をしてくれ、痛みを紛らわせたい」と言い、「神戸に帰ろうと思う。じいちゃんが俺を忘れる前に」と口火を切ったドヨン(関口メンディー)に乗り、「じゃあ俺も話しとくわ。来年芸大を受けようと思う」と、クリエイティブな未来を語り出すシーンもよかった。絶対彼はストレートで芸大に受かる。頑張って、レオ!

そしてもう一組、胸がキュンキュンしたのは、花火を打ち上げようと奔走する恵理子(工藤遥)と加奈(浅川梨奈)の友情復活。恵理子を演じる工藤遥の明るさは、さめた目をして世の中を見る絶望系ギャルではなく、今を楽しむことに長けた希望系。

「ギャルにできないことはない!」

これを合言葉に、発売されたばかりのケータイで新城さん(渡邊圭祐)と連絡を取り合い、遠隔操作でドカンと大きな花火をぶち上げたシーンは圧巻(のぞき込んだらどうしようとヒヤヒヤしたけれど)。

最後のシーン、教室で頭を寄せ合い、「egg」を読み談笑する恵理子と加奈の姿は、こちらまで笑顔になる。トンネルを抜け、リスタートしたことを思わせた。

ドラマ『95』第10話よりⒸ「95」製作委員会
ドラマ『95』第10話よりⒸ「95」製作委員会

新城さんについては、一度でも影ボス疑惑を持ったことを謝りたい。「希望の花火」を上げた立役者でありながら、チームとの距離ちゃんと取り続ける。ラストのカラオケシーンではスタッフに戻り、彼らが集まる2号室を外からそっと見守り、笑顔で「ごゆっくり」と言い、通り過ぎるのだ。

人格者……! あくまでも応援する側であり続ける新城さん、素敵すぎる。彼の未来は、きっと明るい。

最後はTHE BLUE HEARTS「少年の詩」(1987)で幕を閉じた『95』。THE BLUE HEARTS がバンドを解散したのも1995年だったのが。そうくるか、そんな最終兵器を残していたのか、と悔しさまで覚えた。完ぺきな選曲ではないか。

1995年という「世界が終わる」と信じてしまいそうだった絶望の時代を通し、「強くなりたい」という思いを、すごい熱量で見せつけられた全10話。

これから、打ち上げ花火の見え方が変わりそうだ。

(文・田中稲)

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