1. トップ
  2. エンタメ
  3. 新垣結衣史上“最高傑作”に異論なし…映画『違国日記』の“槙生”役が完璧にハマったワケ。役者としての稀有な魅力を徹底解説

新垣結衣史上“最高傑作”に異論なし…映画『違国日記』の“槙生”役が完璧にハマったワケ。役者としての稀有な魅力を徹底解説

  • 2024.6.13
  • 2700 views
Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

”ガッキー”の愛称で多くの人から親しまれている俳優・新垣結衣。数多くのドラマ出演を果たし、長きにわたり活躍している。新作映画『違国日記』ではクールな主人公”高代槙生”を好演し、映画俳優として確固たる地位を築いた。今回は、新垣結衣の過去の出演作を振り返りながら、その魅力を徹底考察する。(文・苫とり子)
ーーーーーーーーーー
【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『違国日記』新垣結衣
Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

多くの人が心待ちにしていた映画『違国日記』がついに公開された。原作は、「FEEL YOUNG」(祥伝社)にて連載されていたヤマシタトモコの同名漫画。

【写真】新垣結衣の名演が堪能できる劇中写真はこちら。映画『違国日記』劇中カット一覧

少女小説家の高代槙生が姉の遺児である田汲朝を引き取るところから始まる物語で、累計販売数180万部を突破する、知る人ぞ知る名作だ。筆者はこの作品で、映画俳優として確固たる地位を築いた新垣結衣にすっかり魅せられてしまった。

新垣は今年で芸歴23年を数える。ファッション雑誌「ニコラ」(新潮社)の専属モデルとしてデビューし、ポッキーのTVCMに出演すると瞬く間にお茶の間の人気者となった新垣。

まもなく女優業にも進出し、『ドラゴン桜』(TBS系、2005)、『ギャルサー』(日本テレビ系、2006)、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(日本テレビ系、2006)、『パパとムスメの7日間』(TBS系、2007)など、コギャルから清楚なJKまでありとあらゆる高校生を演じた。

2007年には、映画『恋空』で壮絶な人生を歩むヒロイン・美嘉を演じ、映画賞新人賞を総なめしている。映画は大ヒットとなったが、おそらく新垣本人にとっても転機となったのではないだろうか。

10代での妊娠・流産、性的暴行、恋人の死など、様々な悲劇に見舞われる美嘉を情感たっぷりに演じたことで良い意味で初々しさが抜け、翌年放送された『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系、2008)での高評価に繋がっている。

医療ドラマという特性上、シリアスな場面も多い中で、自身の代名詞でもある“ガッキースマイル”を封印し、地に足のついた演技を見せた新垣は名実ともに国民的俳優の仲間入りを果たした。

新垣結衣
新垣結衣【Getty Images】

新垣が出演する作品に間違いはないと言っても過言ではなく、20代に突入してからも『リーガル・ハイ』(フジテレビ系、2012)や『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、2016)などをその圧倒的ヒロイン感で軒並みヒットさせた。

どちらもコメディ色が強いものの、社会に対するメッセージ性のある作品だ。新垣が演じるのも、ただ可愛いだけのヒロインではない。

『リーガル・ハイ』で演じた黛真知子は無敗の弁護士・古美門研介(堺雅人)の事務所で働くことになる新米弁護士。敏腕だが人間性にかなり問題のある古美門と、真面目だけど時に正義感が空回りする黛はとにかく相性が悪い。この作品における新垣は一切マドンナ的な扱いはされておらず、むしろウザキャラという珍しい立ち位置だ。

『逃げるは恥だが役に立つ』で演じた森山みくりも、大学院まで出たのに就職難のあおりを受けて派遣社員、しかも契約を切られるという不憫なスタート。システムエンジニアの津崎平匡(星野源)と契約結婚し、やがて本当の恋愛関係へと発展するも自身のコンプレックスである“小賢しさ”が出てしまう。

どちらも学級委員長タイプで、真面目で素直ないい子なんだけど、融通が効かない。そういう役が妙に似合うのは、新垣自身がキラキラとしたオーラがありながらも、トーク番組やバラエティで見せる顔とは少し違って、実は物静かで繊細な感性を持っているからなのだろう。キュートなコメディエンヌぶりを発揮する一方で、そういう本人の聡明さが役に滲み出ている。

新垣結衣【Getty Images】
新垣結衣【Getty Images】

先ほど「トーク番組やバラエティで見せる顔は少し違う」と記述したが、新垣がドラマ以外のテレビ番組に出演することは滅多にない。ほとんどの人が“ガッキー”という愛称で呼ぶように、親しみやすい雰囲気を持つ新垣だが、プライベートは謎が多くベールに包まれている。

かくいう筆者も10代の頃、新垣の大ファンで写真集やCD(新垣はかつて歌手としても活動していた)を買いあさり、彼女が出演する番組は全て録画していたが、少しも実態が掴めた気がしなかった。だからこそ、憧ればかりが募っていったのだが。

そんな筆者が感動したのは、『獣になれない私たち』(日本テレビ系、2018)で“市井の女性”を演じる新垣を見た時だ。いつも張り付いたような笑顔を浮かべて、上司の無茶ぶりに応え、部下のミスもフォローし、元カノと同棲している彼氏に文句を言うことさえできなければ、別れを告げることもできない。

死にたいくらい不幸なわけじゃないけど、迫り来る電車に思わず飛び込みそうになる主人公・深海晶に扮する新垣は、“私”だった。

見た目はもちろん全然違うし、30歳になったばかりの新垣は10代の頃から変わらずキュートだったけれど、芸能界という煌びやかな世界とは無縁の女性がそこにいた。

晶はみんなから好かれる人当たりのいい女性で、一見すると、いつものガッキーなのだ。だけど、その笑顔は痛々しく、まるで不幸を背負って歩いているようなオーラがある。

あの遠い存在だった憧れのガッキーが佇まいだけで普通の人に擬態している姿にいたく感動し、晶が真逆なようで実は似た者同士の会計士・根元恒星(松田龍平)とぶつかりながら少しずつ自分らしさを手に入れていく過程を自分ごとのように固唾をのんで見守った。

『違国日記』
Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合、2022)では主人公・北条義時(小栗旬)の妻となる八重の気高い生き様を体現し、『風間公親-教場0-』(フジテレビ系、2023)では刑事の仕事と子育ての両立に悩む等身大の女性を好演するなど、年齢とともに役の幅を広げていく新垣。

昨年11月に公開された映画『正欲』(2023)では、果敢にも“水”に対して欲望を抱く特殊性癖を抱えた女性という難役に挑み、社会からはぐれたような不安と焦燥感を繊細に映し出した。

そんな中、新垣が『違国日記』で主人公の槙生を演じることが発表された時は正直意外だった。というのも、原作における槙生はシャープなフェイスラインに涼しげな目元、まっすぐ通った鼻筋とビジュアルがかなり中性的。言ってみれば、宝塚の男役のようなキャラクターなのである。

対して、新垣は背が高くスラッとしてはいるものの、クールよりもキュートなイメージがあり、当初は槙生と結びつかなかったのだ。原作人気が高いゆえに不安もあったが、映画が始まってすぐにそれは杞憂だったことが分かった。

この映画は自他境界をめぐる作品だ。早瀬憩演じる朝は15歳にして事故で両親を失い、一人で砂漠の真ん中に放り出されたような不安や孤独を抱えている。

けれど、槙生は「あなたの気持ちがわかるよ」と言って彼女を抱きしめたりしない。「私とあなたは違う人間で、あなたの感情はあなただけのものだし、私の感情は私だけのもの」と一線を引く。当然、朝は寂しさを覚えるが、それは槙生の彼女に対する最大の尊重なのだ。お互いを傷つけ合わないためにも。

心地よい寂しさを全身にまとう新垣は完璧な槙生だった。カメラは完璧な大人ではなく、悩みもがきながら朝と向き合う槙生を演じる新垣の細やかな表情や動きを鮮明に捉えていく。

今やすっかりスクリーンに映える映画俳優となった新垣結衣。『違国日記』というエポックメイキングな作品を得て、さらに進化していくであろう彼女から目が離せない。

(文・苫とり子)

元記事で読む
の記事をもっとみる