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13歳・中須翔真の芝居が凄まじい… 心を揺さぶる衝撃のラストとは? 映画『かくしごと』徹底考察&評価レビュー

  • 2024.6.13
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©2024「かくしごと」製作委員会

『生きてるだけで、愛。』(18)で鮮烈な長編監督デビューを飾った映像クリエイター、関根光才の待望の2作目『かくしごと』が全国の映画観で公開中だ。ミステリー作家・北國浩二の小説『噓』を、俳優・杏を主演に迎えて映画化した本作のレビューをお届けする。(文・寺島武志)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】
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※この記事では原作と映画のクライマックスについて言及があります。

©2024「かくしごと」製作委員会
©2024かくしごと製作委員会

本作は、SFやミステリーを得意とする北國浩二の小説「嘘」を原作に、広告会社時代にカンヌ国際広告祭を獲得するなど、非凡な映像センスを持ち、長編映画監督デビュー作『生きてるだけで、愛。』(2018)では新藤兼人賞銀賞を受賞し、映画監督としてもその才能を開花させた関根光才の監督・脚本によって描かれたヒューマンミステリーだ。

キャストも、主演の杏をはじめ、奥田瑛二、安藤政信、酒向芳、丸山智己などといった一流俳優が名を連ね、重厚なドラマを綴っていく。

絵本作家の千紗子(杏)は、自身が学生結婚したことが原因で不仲となった父・孝蔵(奥田瑛二)と絶縁状態にあったが、孝蔵の認知症進み、母も亡くなっていたため、ただ1人の肉親である千紗子を介護するために、渋々と故郷の長野に戻る。

仕事はリモートワークで何とか凌ぐが、一刻も早く、東京に戻る旨を、旧友の久江(佐津川愛美)に明かす。

父の孝蔵は、当然のことながら、千紗子に関する記憶もなく、母の遺影を見せても思い出せない始末。それでいて、ライフワークとしている仏像彫刻の際には、人が変わったかのような集中力を見せる、不思議な人物だ。

古くからの友人である医師の亀田(酒向芳)だけが、孝蔵の唯一の理解者だ。

©2024「かくしごと」製作委員会
©2024かくしごと製作委員会

他人のような父親との同居に辟易する日々を送っていたある日、久江との再会を祝い、食事した帰り、2人はある少年(中須翔真)を車ではねてしまう。

お酒が入っていた久江は、飲酒運転をした挙げ句、少年を轢いたとうろたえるが、幸い、命に別条はなかった。

しかし、少年を助けた千紗子は彼の体に虐待の痕を見つけ、しかも彼は全ての記憶を失い、自分の名前さえも言えなかった。

少年が親の虐待を受けていると察知した千紗子は、彼を守るため、久江の反対を押し切り、少年の親代わりとなることを決意。彼に「里谷拓未」と名付ける。

その後、ニュースでは、「犬養洋一」という少年の失跡事件が報じられ、久江は、失跡した少年が拓未ではないかと千紗子に告げる。

千紗子は、捜索活動を続ける地元消防団に話を聞くと、少年の両親は、事件直後に「仕事のため」と言い残し、捜索にも加わらず、東京へと戻ってしまったという。これが事実だとすれば、とんでもないネグレクトだ。

千紗子は、真実を確かめるため、公務員である久江の協力によって、居所を突き止め、NPO職員を名乗り、少年の実家を訪れる。そこでの母親(木竜麻生)、そして内縁関係にあった父親の安雄(安藤政信)の対応で、千紗子は2人が紛れもない“毒親”だと確信する。

少年を守るため、千紗子は自分が母親だと嘘をつき、父・孝蔵、“息子”拓未との奇妙な共同生活が始まる。

©2024「かくしごと」製作委員会
©2024かくしごと製作委員会

千紗子には忌まわしい過去があった。実の子どもを水難事故で失っていたのだ。それが遠因となり離婚した千紗子は、心に空いた穴を埋めるように、拓未に愛情を持って接する。

拓未もそれに応えるように、千紗子を「お母さん」と呼ぶ。さらに、孝蔵を「おじいちゃん」と呼び、困惑する孝蔵をヨソに、仏像作りを教わるなど懐いていき、3人は“家族”となっていく。

孝蔵の認知症は悪化する一方で、粗相を繰り返すようになる。服を脱がせて、体を洗い流す千紗子。かつては教師で、厳しかった父親の情けない姿に、千紗子は思わず泣き崩れてしまう。

弱っていく父の介護と、見ず知らずの少年の育児と家事、さらには仕事…。1人の女性にとっては、あまりにも多くのことを背負い込んでしまっていたのだ。そんな千紗子を、親身となって見守る亀田の存在が、決壊しそうな彼女の心を優しく包む。

久江とその息子との交流を通じ、友人もでき、充実した日々を送っていた拓未。しかし、そんな幸せな時間は、ある日突然、終わりを告げる。

絵本作家として取材を受けていた千紗子の前に、その雑誌記事の切れ端を手に、安雄が現れる。安雄は息子を連れ帰るために暴れ出し、孝蔵を蹴り倒し、千紗子につかみかかる。

その瞬間、拓未が彫刻刀で安雄の背中を刺す。そして瀕死の安雄に対し、拓未が持っていた彫刻刀を手に取り、千紗子がとどめを刺す。

©2024「かくしごと」製作委員会
©2024かくしごと製作委員会

場面は裁判所に移る。千紗子は、母親から一転、殺人犯となる。

嘘に嘘を重ねて築いてきた自分を悔い、久江との面会でも、責任の全てを被る覚悟を示す。それに引き換え、自分の実子を“捨てた”にも関わらず、少年の母親は被害者面に徹する。それは見る者をイライラさせるほどだ。

ところが裁判が急展開する。第2回公判で、拓未自身が証人出廷するというのだ。

ラストシーンでは、拓未が証人として発言するのだが、その驚愕の発言に、見ている者全てが心を揺さぶられ、涙を抑えられないはずだ。

本作は、ネグレクト、介護、育児、隠蔽などに加え、家族とは、血縁とは、真実の愛情とは何かを問う物語だ。

そして、信念を貫くため、タイトルの“かくしごと”と原作タイトルの“嘘”をつき通すことで、わずかな時間であっても、幸せな時間を実現させていく物語でもある。

主人公の千紗子を演じる杏はもちろん、奥田瑛二は痴呆症の老人・孝蔵を演じ、74歳にして、これまでにない新味を見せている。

悪役イメージが強い酒向芳演じる亀田の深い愛も、本作の重要なパートを担っており、安藤政信と木竜麻生が演じる毒親ぶりもハマっていた。

しかしながら、本作で最も輝きを見せたのは、拓未(洋一)を演じた13歳の子役・中須翔真だろう。

NHKの朝ドラでは、『スカーレット』(2019)、『おちょやん』(2020)、『舞いあがれ!』(2022)と3作にわたって出演している実績は、その演技力に裏打ちされたものだろう。

かわいらしい外見に加え、本作では“裏の一面”もある難役を完璧に演じ、迫力すら感じさせ、本作の“MVP”といっても、過言ではない存在感を見せた。

そして、これだけ多くのテーマを盛り込みながら、中弛みさせることなく、芯の通った物語を構築した関根光才の手腕も光る。会話劇のみならず、映像や、挿入される音楽の美しさも、本作を彩っていた。

千紗子のしたことは確かに重罪だ。そうと、頭でわかっているのだが、自分だったらどうするか…。そんな大きな問いを与えてくれる作品だ。

(文・寺島武志)

【作品概要】
脚本・監督:関根光才
出演:杏、中須翔真、佐津川愛美、酒向芳、木竜麻生、和田聰宏、丸山智己、河井青葉、安藤政信、奥田瑛二
原作:北國浩二「噓」(PHP 文芸文庫刊)
音楽:Aska Matsumiya
主題歌:羊文学「tears」F.C.L.S.(Sony Music Labels Inc.)
製作幹事:メ~テレ、ホリプロ
企画・制作:ホリプロ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024「かくしごと」製作委員会
2024 年/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/128 分

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