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結婚式で妹が読む花嫁の手紙。添削をするのが私なりのお祝い

  • 2024.6.13
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「やっぱり花嫁の手紙読むことになったから、書き終わったら添削してもらっていい?」

妹から先日届いたLINE。「良いよ」とひとつ返事で快諾したものの、同時に「何だろう、この感覚は」とスマホ片手に少し首を傾げた。嬉しさと緊張と困惑がないまぜになった、名前のつけられない感情だった。

◎ ◎

今年の夏、妹は結婚式を挙げる。結婚式(披露宴)の定番の演目でもある花嫁の手紙について、「私はやらない予定」と元々妹は話していた。

「大体、何をどう書いたらいいのかわかんないよ。過ごしてきた家とか親に対して思うことをありのまま書いて読み上げたら、多分聞いている人たちはドン引きだよ。だってうち、普通の家じゃないもん」

はっきりとそう断言した妹に、同じ屋根の下で育ってきた私は頷くことしかできなかった。
「普通の家」の定義はなかなか一概に言えないところだとは思うけれど、両親も家庭内全体も関係がおおむね良好で、ちょっとした諍いはあったとしてもそれなりに平和に年月を重ねてきた家、それが妹の言う「普通の家」なのだろう。

それで言うと、確かに私たち家族は普通ではなかった。私たちが中学生くらいの頃から両親は激しく対立するようになり、結果的に別居に至った。私と妹は母について行く形で家を出て、新たに借りた部屋に女3人で移り住んだ。しかし両親が離婚することはなく、家族としての機能が止まったまま時間だけがどんどん過ぎていき、一昨年母は亡くなった。

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次第に母と折り合いが悪くなった私はひとり暮らしをするために途中で家を出たけれど、かたや妹は母が亡くなるまでずっとふたり暮らしを続けてきた。ただ、妹もまた母のことを決して良くは思っていなかった。幼少期に私が感じてきた母からの抑圧感は、程度の差はあれど妹の記憶にもしっかり焼きついているようだったし、私たちが大人になってからも母の言動にはどこか攻撃性を孕んだ部分があった。

亡くなる半年くらい前から母の体調は著しく悪化していったものの、病院嫌いの母に入院という選択肢はなかったらしい。同居人である妹が介助せざるを得なくなり、気難しい母との接し方に妹は以前よりもさらに戸惑っていた。そんなふたりの生活を、私は直接見てはいない。きっと妹には妹なりの、母に対する複雑な感情があるはずだ。

ただ、紆余曲折あり、当初の予定から変わって花嫁の手紙を書くことになったようだった。元々旦那さんがご両親宛てに手紙を書くつもりだったこともあるのと、「気持ち的にひとつの区切りをつけたいなと思ったし、あとただ手紙を渡すだけだと、自ずと家に帰ってからお父さんがひとりで読むことになるから、それはなんか嫌だったんだよね。だから披露宴の場で読み上げようかなって」そう妹は話した。手紙は、その場にいる父と、空の上にいる母に宛てたものにするらしい。

◎ ◎

何だか気恥ずかしいから自分の口からはこんなことあまり言いたくはないのだが、妹は、私が書いた文章が好きらしい。こちらから教えたわけではないのに、私がここ「かがみよかがみ」にエッセイを投稿し続けていることをいつの間にか知っていて、おそらくほぼ全部読まれている。

不特定多数の目に晒される場所だからいつ誰が読んでいてもおかしくはないし、事実しか書いてないから読まれて困るようなことはないものの、「見たよ」と妹から初めて聞かされたときはさすがにどきりとした。不特定多数と、私のことをよく知っている特定のひとりとでは、やはり感じ方は違う。

花嫁の手紙の添削はウェディングプランナーさんにも依頼できるらしいのだが、妹曰く「必要以上に綺麗にさせられそうで気が進まない」とのことだった。妹は一貫して「美談みたいな花嫁の手紙にはしたくない」と主張している。

家族に対する感情の機微は、おそらく身内じゃない人には理解しづらい部分があるだろう。そこで、姉である私に添削をお願いしてきたのだと思う。妹は人を思いやれる優しい性格だが、嫌なものは嫌だと言う頑固なところがある。本人なりの線引きが存在していて、それは絶対的なものなのだと思う。

お姉ちゃんの文章が好きだと言われ、頼りにされたのは素直に「よっしゃ」と思う。ただ、「美談にはしたくない」という妹の主張を尊重しつつ、聴衆のことも配慮した内容にまとめるのは、なかなか難易度が高いのではないかとも思っている。だから私は、嬉しさと緊張と困惑がないまぜになっている。

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妹がどんな内容の手紙を書いてくるのかはわからない。相談されない限り、「こういうことを書いたほうがいいんじゃない?」と私から進んで言うつもりもない。どんな状況下であれ、結局手紙は書き手の気持ちを最大限込めるべきだと思うから。

それに、過去に色々あったとはいえ、両親に対する温かな記憶がゼロというわけでもない。「お母さんの◯◯な所は結構好きだった」と、昔のことを思い出しながら妹がぽろりとつぶやいたことがついこないだあった。そういった小さな欠片を拾い上げていけば、きっと、妹なりの手紙が出来上がるんじゃないかと、私は思う。

結婚式まであと1ヶ月。お祝いの日に彩りを添えられるよう、私も水面下で力になれたらと思う。

■こじまりのプロフィール
東京在住のライター。不登校、抑うつ、適応障害の経験あり。HSP気質。話すことは苦手だけど、書くことでなら想いを昇華させられると信じて早20年。ことばがあれば、きっと泳いでいける。

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