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飢えた子どもを救ってほしい。戦争体験から生まれた正義のヒーロー像/新装版 わたしが正義について語るなら①

  • 2024.6.12
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『新装版 わたしが正義について語るなら』(やなせたかし/ポプラ社)第1回【全5回】正義とは何か、正義の味方とはどのような人なのか――。『アンパンマン』の作者・やなせたかしさんが自身の体験談を交えながら、正義への思いを綴った1冊です。戦争や自然災害、物価高…混迷の時代に生きる人々を勇気づける、やなせ流の人生哲学を『新装版 わたしが正義について語るなら』の中から抜粋してお届けします!

ダ・ヴィンチWeb
『新装版 わたしが正義について語るなら』(やなせたかし/ポプラ社)

正義の味方について考えてみよう

正義の味方と聞くと、みなさんは誰を思い浮かべますか? アニメやマンガ、映画の中には正義の味方がたくさんいます。きっとそれぞれにお気に入りのヒーローを思い出したことでしょう。そのヒーローは、何か特別なパワーがあったり、技を持っていたりするかもしれません。

正義の味方ってどんな人なのか? 正義って何か?

それは一言では分かりません。答えは簡単ではないと思います。でもぼくはずっと、自分の思う正義をアンパンマンの世界に込めて描いてきました。

ぼくはマンガ家です。マンガ家といってもテレビや絵本などいろいろな仕事をしましたが、一番人気が出たのは「アンパンマン」です。

アンパンマンはもともと絵本で描いた作品がきっかけでテレビアニメや映画、キャラクターグッズになりました。みなさんの中にはアンパンマンのキャラクターを先に知った人も多いかもしれません。

正義についての考えは、アンパンマンが最初に絵本『あんぱんまん』になった時のあとがきに書いています。

まず、そのあとがきを読んでみてください。

子どもたちとおんなじに、ぼくもスーパーマンや仮面ものが大好きなのですが、いつもふしぎにおもうのは、大格闘しても着るものが破れないし汚れない、だれのためにたたかっているのか、よくわからないということです。 ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そしてそのためにかならず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行えませんし、また、私たちが現在、ほんとうに困っていることといえば物価高や、公害、飢えということで、正義の超人はそのためにこそ、たたかわねばならないのです。 あんぱんまんは、やけこげだらけのボロボロの、こげ茶色のマントを着て、ひっそりと、はずかしそうに登場します。自分を食べさせることによって、餓える人を救います。それでも顔は、気楽そうに笑っているのです。 さて、こんな、あんぱんまんを子どもたちは、好きになってくれるでしょうか。それとも、やはりテレビの人気者のほうがいいですか。 『あんぱんまん』(フレーベル館刊)よりダ・ヴィンチWeb

これを書いたのは一九七三年ですから、もう今から三十年以上前ですね。最初に「あんぱんまん」を書いた時はまったく自信がなくて、子どもにはウケないだろうと思っていました。というのは、あんぱんまんの見た目があまりかっこよくないんですね。なにせ顔がアンパンだからね。特に最初に書いた「あんぱんまん」はぼろぼろマントだし、かっこよくない。だから読者にはウケないだろう、でも、餓えた子どもを助けることが一番大事なんだと思って書いたんです。

みなさんは、今は身近に戦争がないので本当に餓えることが分からないというかもしれません。でも、戦争じゃなくても飢えの体験は誰にでも起こります。例えば山の中で道に迷った人のニュースを聞くことがありますね。食べるものがなくて、谷川の水を飲んでやっと生き延びた人たちもいます。それから地震で家の下敷きになることだってありうる。その時に百万円をあげますと言われても全然嬉しくない。一切れのパン、一杯の水の方がずっと嬉しいはずです。飢えがどのくらい辛いかなんて、十日くらい食べないでいればすぐに分かります。

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