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【実話映画】『あんのこと』レビュー 貧困や家庭環境に苦しむ女性の物語 公開中! 【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

  • 2024.6.12
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映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は、6月7日(金)公開の『あんのこと』。2020年、実際に起きた事件を基にした作品。底辺から抜け出そうとする“杏”を河合優実さん、更生を手助けする刑事を佐藤二郎さん、2人を取材するルポライターを稲垣吾郎さんが演じます。監督は『SRサイタマノラッパー』シリーズ、『AI崩壊』の入江悠、製作には『PLAN75』のスタッフが集結。


ひとりの女性に起こった悲しい出来事、 生きたいと思った理由を知っておきたい

“知ることの大事さ”というものがあります。例えば新聞を読むことの理由に、日本や世界の“今”を知り、自分が住んでいる国や地球が直面している問題に目を向けることで自分自身が考え、選挙を含む行動で未来を変えられるからです。そのきっかけのひとつにドラマや映画、ドキュメンタリーがあり、娯楽以外の社会問題を描くというアプローチで観客の感情に訴えていきます。まさに“実際にあった事件”の映画化というのがこのジャンルで、より観客が感情移入しやすいよう、理解しやすいようにフィクションを散りばめたのが劇映画になります。今回はそんな映画『あんのこと』に触れていきます。

この出来事はコロナ禍の2020年5月上旬に起こり、新聞記事になりました。理由は壮絶な人生を送った少女のある決断でした。彼女の母親は売春、祖母は万引きの常習犯で、彼女もまた中学生の頃から売春、そこから覚醒剤を知ってしまいます。けれどある刑事との出会いにより彼女は更生していったはずでしたが、新型コロナウィルス感染症というパンデミックにより彼女の人生は再び翻弄されるのです。コロナ禍で職を失った人、自死した人々の数はそうではない年に比べ激増し、ニュースでも問題視されていました。居場所を失う恐ろしさを実感したあの時、まさに他人事ではない出来事でした。

しかしながら彼女の出来事を映画として再現するとなるとかなりハードなシーンが多いはず。それを目にするのは辛いことであり、演じる役者にもかなりの心労を与えます。それを踏まえて本作で入江悠監督が心掛けたのは「撮る必要があるものしか撮らない」「モデルの女性をかわいそうな存在と考えない」ということでした。こう考えると薬物摂取や売春をするシーンを具体的に撮る必要はなく、彼女がどんな思いで人生を歩んでいたのか、何故、更生したいと思ったのかという、感情にフォーカスしたショットの数々から物語が構成できるのです。

河合優実、佐藤二郎、稲垣吾郎 それぞれの役が絡み合う

主人公あんを演じた河合優実さんの演技には目が離せず、冒頭の虚な瞳から、その後、一筋の光に気づき、小さな身体で突き進もうとする姿に胸が震えます。更に彼女と向き合った刑事演じる佐藤二朗さんの普段のイメージとはかけ離れた堅物そうなのに人情と情熱と泥臭さを持つ男は、血の通った人間そのものでした。そして彼らを見つめる記者を演じる稲垣吾郎さんの視点は、私たち観客を代弁するようでいながら、ジャーナリストとしての葛藤も見え隠れします。監督と河合さんは稲垣さん演じる記者のモデルとなった方にお話を聞き、演技へと役立てたそうです。

どうもレイプシーンや自死のシーンを詳細に撮りたがる日本の製作陣。世界ではこれがセンシティブな映像であり、観客の心理にも影響を及ぼすと最近は嫌悪されています。果たしてそれを描く必要はあるのか。そもそも描きたいテーマはなんなのか。製作陣はそこに気づくことが大事なのです。その結果、観客は安心して映画を観られ、しっかりと「描きたかったテーマ」が心に残るのです。本作で言えば「生きた証」であり、「再生しようとした理由」が私には明確に見えました。
——伊藤さとり

☑6月7日(金) 新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開 『あんのこと』

【あらすじ】21歳の主人公・杏は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。
大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。
週刊誌記者の桐野は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──。 2024年/日本/114分/PG12
河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎
河井青葉 広岡由里子 早見あかり
監督・脚本:入江悠
製作総指揮:木下直哉
企画:國實瑞惠
エグゼグティブプロデューサー:武部由実子
プロデューサー:谷川由希子 関友彦 座喜味香苗 音楽:安川午朗
音楽プロデューサー:津島玄一
撮影:浦田秀穂 照明:常谷良男 録音:藤丸和徳 編集:佐藤崇
音響効果:大河原将 美術:塩川節子 スタイリスト:田口慧
ヘアメイク:大宅理絵 金田順子
助監督:岡部哲也 キャスティングディレクター:杉野剛
制作担当:安達守 ラインプロデューサー:山田真史
製作:木下グループ 鈍牛倶楽部
制作プロダクション:コギトワークス
配給:キノフィルムズ
© 2023『あんのこと』製作委員会

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