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ロリィタ。モテ、愛され、男性ウケを拒絶するファッションを選ぶということ

  • 2024.6.11
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2022年、アイドルグループ(G)I-DLE(ジーアイドゥル)が発売したシングル「Nxde(ヌード)」を聞いたとき、アイドルグループがこんな尖ったコンセプトの曲を出すのか、そして大ヒットさせられるのか、と驚いた。

「Nxde」の作詞作曲は(G)I-DLEのリーダー、ソヨンが手掛けている。ソヨンが「Nxde」というタイトルの曲を出したいと相談した際、事務所側は「ヌードというタイトルの曲は煽情的過ぎる」として難色を示した。

ソヨンは、そういった事務所の態度を目にし、「絶対に発売しなければならない」と決意を新たにしたという。なぜなら、「ヌードが性的で、タブーなものだと過剰に意味づけされていること」を問うことこそ、「Nxde」のコンセプトだったからだ。

「Nxde」はこういった歌詞で始まる。

Why you think that 'bout nude 'Cause your view's so rude

意訳すると、「なんでヌードについてそんな風に思うの? あなたの見方、失礼すぎる」といったところだろう。裸、とくに女性の裸は過剰に意味づけされている。裸で生まれてきただけなのに、性的な物として見られることは、日常茶飯事だ。

(G)I-DLEは、女性の身体が「エロい」のではなく、露出する女性が「ふしだら」や「体当たり」でもなく、もし、その裸に対し性的だと意味づけするならば、それはあなたがSo Rude(めちゃくちゃ失礼)だからに過ぎない、と力強く歌う。

「ひとの身体を勝手に性的対象物として見るな」というメッセージ性の強い曲を、性的対象化されがちなアイドルが作詞、プロデュースしヒットさせることに成功したのは、この曲に込められたメッセージに共感する人が多かった証だろう。

性的対象物として見られることを拒否するファッション、ロリィタ

表に出る活動をしていなくとも、一方的に身体に性的な意味づけをされ、眼差され、不快な思いをした人は少なくない。というより、女性ならば、少なくとも一度は経験しているだろう。

詩人で作家、文学研究者の川野芽生も、学生時代、頻繁に一方的に性的対象として見られることに苦しめられたと『かわいいピンクの竜になる』(左右社)で語っている。

川野はもともと、「女の子らしい」といわれるワンピースやピンク、ロングヘアなどの装いが好きだった。しかし、かわいい服=モテ服、とみなされてしまう傾向が、世の中にはある。結婚相談所を運営する婚活カウンセラーの植草美幸は、お見合いに挑む女性にいつも、パステルカラーの膝丈ワンピなど保守的かつ「女の子らしい」服を勧めている。それは一般的に、「刈り上げ鼻ピアス」の女性より、「ロングヘア、ワンピ」のほうが男性ウケするとされているからだろう。

川野は、男ウケなど望んでいなかった。性行為、恋人、結婚、すべて望んでいなかった。しかし、「刈り上げ鼻ピアス」の女性が、男性の恋人や結婚を望んでいないらしい、と推測されやすいのに対し、花柄ワンピでかわいく装った女性は、「モテたいのか?」と勘違いされがちだ。

川野は一時、「自分がほんとうに着たいかわいい服を着ていたら、『言い寄ってください』のサインになってしまうのか?」と悩んだという。

しかし、男性から性的対象として見られたくない人がみなかわいい服を着ることを避けたら、結果的に「かわいい服を着ている=男性から性的対象として見られたい」が成立してしまうため、それはなんとしてでも避けなければならないという結論に至った。

そんな川野が現在好んでいるのは、ロリィタファッションだ。川野がロリィタファッションを好む理由はかわいく、美しく、それでいて、「モテ」「愛され」「男ウケ」をきっぱりと拒絶していたからだ。

モテない、愛されない、男性にウケない。ちょうどよくない。だから、いい

通常、「女の子らしい」ファッションはモテると言われる。しかし、ロリィタはモテない。誰にでもフェミニンワンピを勧める植草美幸でも、究極に女の子っぽいロリィタファッションをお見合いに着て行こうとする女は止めるだろう。

なぜなら、ロリィタファッションは過剰だからだ。誰かにとってちょうどいい女らしさや、ちょうどいい控え目さや、ちょうどいいコンサバ感は、そこには存在しない。

ちょうどよさから逸脱し、自由にはみ出していくロリィタファッションは、着る人の最大の理想を詰め込んだ服であり、他人にとってちょうどいい服にはなりえない服だ。究極の自己満足、一切媚びない孤高の美意識がロリィタである、とも言えるだろう。

性的に見える? そちらの目の問題では?

数年前、10代の女性俳優について書かれた記事で、「中年男性を惑わす魔性の女」というタイトルの記事を見たことがある。その記事によると、中年男性が10代の少女に夢中になるのは、彼女が「魔性」だからだそうだ。このとき、未成年に対する中年の性欲は透明化される。彼女が魔性だからしかたないのだ、と。しかし、果たして、魔性だと定義づけているのは、誰なのだろう。とても、Rudeだと思う。

ソヨンの歌詞と川野の文章に共通しているのは、「勝手に人を性的対象として見るな」というメッセージだ。きっとこのシンプルなメッセージが、まだまだ世界には足りていない。

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。

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